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最終決戦 前哨戦

 休憩を終え。二人は再び走り出す。



「ウォル、前方3㎞に敵の反応ですわ。氷雪ミミズが相手をしています。

 途中1㎞はまたトンネルですけど、今度はそれだけで済みそうですわね。いい具合に潰して(・・・)いますわ」


 マキは何を潰しているとは、言わない。

 単純な話であるが、殺し合い(・・・・)をしている相手がいるのだ。潰しているとはそういう事だ。



 『精霊化』により強化された氷雪ミミズは、単純に元ランク4がランク5相当になっただけとは言えない強さを誇る。

 巨体という単純な暴力を持ち、体表を覆う粘液は硬化剤として使えるために普通の武器を武力化する。

 加えて制御しているのがマキの為、剣の刃や槍の穂先を(うま)(さば)く。斬られようとした瞬間。突き刺されそうな金属を。体をねじって刃筋を歪め、刺突を滑らせる。


 巨大ミミズを叩く時のセオリーは巨大質量武器を使った打撃だが、皇帝側にそんなノウハウは無い。剣や槍、弓で戦う兵士を知ってはいるが、戦鎚(ウォーハンマー)で戦う兵種を知らない。

 元は研究者の皇帝だから、モンスターの倒し方に関する知識が足りないのだ。配下の中にはそういった知識を持っている者もいるが、その知識は共有されているわけではない。支配している者の知識や経験は引き出そうと思えば引き出せるのだが、普段からそんな事をしている訳も無い。そんな事をすれば自分と他人の境界があいまいになり、自我が消えてしまう。知識の引き出しは必要に応じて最小限にしか行わない。そして今はそんな事にリソースを費やす時間も無い。



 外法兵たちは有効な手段を取る事もできず、無様な戦いを繰り広げる。

 氷雪ミミズはマキの指示の下、効率よく戦う。


 無敵の防御に守られながら繰り出される体当たり。巨体で圧し潰すだけの攻撃だが、防御不能で回避は困難。外法兵の身体が魔力に還らないのであればひき肉と血でできた海が広がっていくだろう。

 しかも暴れるたびにまき散らされる粘液が周囲を補強し、通路を崩せない様に作り替える。戦わず通路を崩落させようとする者もいたが、その働きが徒労に終わる。


 巨大ミミズであれば討伐者が10人もいれば普通に狩れるモンスターなのに。並の討伐者よりも強い外法兵を相手に氷雪ミミズは大暴れして負ける未来を想像させない。

 この場で作業していた外法兵は500あまり。周囲にいた、他の通路を崩していた外法兵が予定を変更して付近を崩そうと動くが、氷雪ミミズを止められずにいるため結局大した成果を上げられずに終わる。


 それは正に、一方的な蹂躙であった。





 氷雪ミミズが一方的な虐殺を繰り広げているその頃、皇帝の先遣隊がダンジョンの入り口近くに到達していた。


「大隊長に連絡、急げ!」

「盾、構え! 一匹たりとも後ろに通すな!!」

「魔法兵、ちゃんと狙えよ! 撃て!!」


 ダンジョンの入り口付近。悪臭漂う地下水道には100を超える兵士が配備されていた。

 マキとウォルターが負けると思っていない連合軍の兵士たちであるが、それでもダンジョン内で数千の敵兵が現れた場合、その全てを相手取れるとは思っていない。

 だから二個中隊をダンジョン入口に配備し、敵襲に備えていたのだ。


 二人がダンジョンに挑んで二日目の夜。兵士たちの緊張感は緩んでおらず、士気は高いまま。彼ら兵士は仲間を殺された恨みを抱いており、むしろようやく出番が来たとばかりに喜ぶぐらいだ。



「仲間の仇だ!」

「貴様ら、なんかに! 負けられるかぁっ!」


 兵士たちはここまでの戦闘で外法兵や武器型との戦いに慣れてきたため、損害はほとんど出ない(・・・・・・・)

 しかし、何が起こるか分からないのも戦場であり。


「ぐ……ごふっ」

「ビリー!? よくも!」


 武器型を破壊し損ね、不意を打たれて殺される兵士も少なからず出て来る。喉を切り裂かれたり肺腑を貫かれたりすれば、それだけで人は死ぬのだ。

 他にも足を滑らせた、他の誰かにぶつかった、使っていた剣が折れてしまったなど、様々な要因で死者が出てしまうのだ。損害が全く出ない(・・・・・)わけではない。


 戦況は連合軍が有利だが、それでも僅かずつではあるが被害は広がっていく。

 常に一方的な蹂躙ができる、無傷の勝利など幻想でしかない。

 戦いは始まったばかりである。

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