最終決戦 休憩
氷雪ミミズに穴を掘らせ、二人は前へと進む。
進む速度は駆け足というより、速歩程度。そんな移動を2時間も続け、二人はようやく敵を見つけた。
氷雪ミミズの頭が土砂を掘り終え通路に出る。
その先に居るのは、今も天井を崩そうと頑張って作業をしている外法兵の群。手にした武器型を槍のような形に変え、天井に向かって突き出している。
見敵必殺。
マキの顔に獰猛な笑みが浮かぶ。
「『氷雪ミミズ』! 殲滅しなさい!!」
鬱憤の溜まっていたマキの号令が戦場に響いた。
落ち着きを取り戻す事と、怒りを忘れる事は同じではない。心の奥にしまわれていただけだ。
しかし、もうその必要はないとばかりにマキは怒りを腹に抱えていた激情を解き放つ。
氷雪ミミズの巨大な体が全て通路に出る頃には、外法兵の数は半分も残っていなかった。
巨大な質量を相手取るのに槍は不利だ。広い空間であれば良かったのだが、槍を振り回すのに狭い通路ではその性能を発揮できないからである。勢いよく飛び出してきた氷雪ミミズに轢かれ、押し潰され、肉塊に変わり、最後は魔力に還って消えていく。
通路の端に居た外法兵は生き残ったが、彼らは武器型を取り回しの良い剣に替え、氷雪ミミズに意識を向けていたために後から来たマキに気が付けず、そのまま蹂躙された。
100近い外法兵らが瞬殺され、ウォルターには一切の出番が与えられなかった。
「ウォル、これでこちらの位置が相手にバレましたわ。予測では周囲の外法兵らをここに集中させ、戦わせるのではなく、また時間稼ぎを続行するはずです。直接戦闘は無いと思って間違いありません
氷雪ミミズを先行させ、ワタシ達は30分の休憩に入ります」
ひと暴れした事ですっきりしたマキは、先ず皇帝に猶予を与えるような選択をした。
ここまで無理な体勢での移動してきたためウォルターは疲労しており、休憩がいずれ必要になるという理由もある。
しかし本命は、敵兵をこちらに差し向ける様にするのが一番の理由だ。
皇帝が二人を恐れているのは明白。
であれば、確実な戦闘回避のために外法兵を差し向ける事は想像に難くない。無論、直接襲う為ではなく、これまで通り崩落させるために動かすのだ。
氷雪ミミズを先行させたことで移動速度の低下は最小限に抑えられるし、集まった外法兵を削れば敵戦力の削減に繋がる。
二人がそのまま戦っても後れを取ることは無いだろうが、どうせ氷雪ミミズの穴掘り以上に早く移動できる訳も無いのだ。ならば休憩して、先に穴を掘らせる程度の仕込みをした方が効率が良いのだ。
「ウォル、これを食べなさい」
「ありがとう、マキ」
休憩という事で、二人は軽い食事をとる。時間は既に夕方で、本来であれば夕飯の時間だったからだ。
朝ご飯は食べていたが昼食はとっておらず、このまま何も飲み食いせずに進むのはあまり良くないという判断からだ。
収納袋から取りだしたのは白パンのサンドイッチで、果物と野菜ベースのソースを塗った厚切りのベーコンを挟んである、お腹に溜まりやすいものだ。手早く食べられる事からマキはこれを選んだ。
直接外気に触れては凍り付いて食べられなくなるので、マキはサンドイッチ周辺の空気を温めて手渡す。ウォルターの手に渡った後もサンドイッチが冷めることは無く、むしろ温かくなった状態でウォルターは口にした。
「ん。美味しい」
ウォルターは素早くサンドイッチを食べ終えると水筒の氷を溶かしてのどを潤す。
五分とかからず食べ終えたウォルターに、マキは思わず苦笑いをした。
「もう少しゆっくり噛んで食べなさい。誰もとったりしませんわよ?」
「あはは、違うよ。美味しかったから、思わず、ね」
マキに早食いを指摘されたウォルターは少し照れて頭をかく。これでも味わって食べていたんだと、小さな声で反論するがマキは取り合わない。それを指摘されるとウォルターの顔は朱くなっていき、次第に反論の声も上がらなくなった。
戦場での休憩はなかなかリラックスできないものだ。
それを分かっているからこそ、二人は他愛も無い雑談で心を休めるのだった。




