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最終決戦 追走

 道中、皇帝の所在を確認しなかったのが災いした。ウォルターとマキは、皇帝に10㎞以上の差を作られてしまった。

 しかしそれは絶望的な差ではない。

 二人の足は速く、皇帝の足は早くない。半日もあれば余裕で詰めることができる距離であった。ダンジョン奥までの移動にかけた時間が1日半であったことを考えればダンジョン内で追い付く距離だ。


 ただし、条件が同じであれば。





「完全に崩落してるよ。穴を掘るにしても、掘った傍から崩れるように天井を粉々にされてるから補強しながら掘らないと駄目みたいだ」

「本当に、逃げ出しましたわね! 往生際の悪い!

 ウォル、顕現魔法で巨大ミミズを使いますわ。場所を開けなさい!」


 魔力だまりの場所から1時間、7㎞ほど進んだところで、二人は足止めを喰らった。

 来た時の道をなぞる様に引き返していたのだが、その道が塞がっていたからである。記憶を頼りに戻っていたのだが、二人とも正しい道を進んでいた自信があり、道に迷ったわけではない。この行き止まりが皇帝によって作られた物だと、すぐに気が付いたのだ。


 皇帝の妨害にマキは苛立ちながらもすぐに対処を開始する。

 この状況下では時間こそが最優先だ。打てる手を全て使うつもりで崩落に挑む。


顕現せよ(マテリアライズ)氷雪ミミズ(フロストワーム)


 『精霊化』により巨大ミミズを寒冷地に適応させ、顕現する。

 氷雪ミミズは地面を掘るかのように、易々と埋まった通路に道を作る。同時に体表の特殊な粘液で掘った周囲をコーティング。穴が埋まらないように補強する。


 氷雪ミミズの口は1mしかないので、小柄な二人は背を丸めながら後を追う。


「ちっ! 相当奥まで崩していますわ! いえ、崩しながら撤退していますわね。もう通路を無視して真っ直ぐ地上に出た方が早いかもしれませんわね」

「そうだね。でも、地上に何があるかもわからないし、ダンジョンの入り口以外に穴を開けた時、ここの冷気が漏れるかもしれないよね?」

「……そう、ですわね。ここは素直に追いかけましょう」


 通路を走るのであれば、半日とかからず追い付いただろう。

 しかし、屈みながらでは思うように進む事など出来ない。速度を出せず、焦りが募る。


 マキは【アキュリス大峡谷】の一件もあり、自分が居ない間に味方に被害が出ないかと考えてしまい、ウォルターよりも焦りが強い。

 思わず出てしまった強硬策をウォルターに窘められるほど、冷静さを失っている。


「相手の洞窟を崩す速度と、僕らの進む速度。きっと負けてないよ。大丈夫」

「ええ。それに今は地上の仲間を信じるだけですわね。彼らが簡単にやられると思ってはいけませんし」


 気休め、楽観的な言葉でウォルターはマキを慰める。

 教え子に慰められたマキは大きく息を吐き、焦る無理矢理気持ちを宥めようとする。ウォルターの言葉はマキの気持ちを完全に落ち着けるほどではなかったが、それでも仲間を信じるだけでいいと言わせる程度に持ち直させた。

 多少は落ち着いたマキの声を聴き、ウォルターはもう一つの材料でマキを落ち着かせようとする。


「少なくとも、近場で崩されていたし、崩されてからそんなに時間は経っていないよね。それだけ近くに外法兵とかが居たのは間違いないよ。

 で、こんな事をしないと逃げ切れないって皇帝は考えているんじゃないかな。僕らを殺すつもりなら、魔力だまりの部屋を崩落させただろうし。もう戦力が足りないんじゃないかな。

 皇帝は僕らと戦って勝てないほど弱体化してて、なおかつ戦力を洞窟を崩すのに使ってる。きっと追い付ける程度の距離にいるはずだし、追いつけなくても地上のみんなが簡単に負けるわけ、無いよ」

「ウォル……」


 ウォルターは現状から冷静に皇帝の状態を推測する。

 楽観的な言葉ではなく、今度は論理的な、証拠を用いた説得力のある言葉でだ。

 感情的になった人間にはこういった論理を重視する言葉は通じないが、今のマキぐらい落ち着きを取り戻していれば、あとはマキ本人が情報を吟味して判断できる。


 マキはウォルターの成長に感動しつつも、思考がクリアになっていく感覚を覚えていた。



「まずは休憩無しで、可能な限り急ぎますわ。崩落している場所から出たら周囲の外法兵を殲滅。

 進んだ距離にもよりますがその後一回休憩を取り、全力で移動。もう一度崩落させられるでしょうが、それがワタシたちと皇帝の距離を測る物差しになりますわ。次の崩落は、皇帝の近くからでしょうし。

 いいですわね、ウォル!」

「分かったよ、マキ」



 皇帝の時間稼ぎによってペースダウンを余儀なくされた二人。

 しかし、皇帝を確実に追い詰める様に追いかける。


 二人がダンジョン内で皇帝に追い付くかどうかはかなり微妙な状態だったが、絶対に不可能とは言えなかった。

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