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最終決戦 新ダンジョン③

 吐いた息が白く凍りつく世界。

 そんな極寒の環境を、マキとウォルターは歩いていた。


 2人の装備はごく普通。

 マキは変わらずメイド服であるし、ウォルターは戦士用の革鎧にマントという一般的な討伐者の装備で身を固めている。

 この世界に置いてはその普通さこそが異物のように感じられるかもしれない。


 しかし魔力を感知できるものであれば二人が何をしているのかが分かるであろう。

 マキは氷の魔力で自身を周囲と同化させて。

 ウォルターは火の魔力で周囲の寒さを跳ね除けて。

 それぞれの方法で環境に適応していたのだ。



「これ、集中力、すっごく要るんだけど……」

「でも出来るでしょう、ウォル?」

「出来るけど……」


 体内の魔力を属性魔力に変えて廻らせるこの方法は、魔力の消費がとても少ない。普通に≪火弾≫の魔法を使うだけの魔力があれば1時間は余裕で維持でき、制御もそこまで難しくは無い。

 ただ、普通の人間にこれはできない。

 その理由が属性魔力への身体適正であり、ウォルターが制御に集中しなければいけない部分だ。

 例えるなら今のウォルターは全身を火あぶりにされ続けているような状態なのだ。『魔法化』を生身の自分に適用できるウォルターやマキだからできる芸当であり、普通の人間に出来るはずもない。


 本来はウォルターにも出来ない筈なのだが……失った腕が魔法によって再生されたもので、本人がその特性を無理矢理引き出してしまったからできる裏技のようになっていた。

 正規の使い方というのは「常識的な使い方」という言い方もできるが、「最適化された使い方」という言い方もできる。今回はそういった本来ありえない能力の行使だから難易度が高いわけだ。



「それにしても、本当に敵が出ないね」

「人外兵や外法兵ではこの環境下に適応しきれないのでしょう。

 逆に考えれば、この環境は皇帝側が用意した物とは違いますわ。今までのダンジョンも既存品の利用しただけ。皇帝にはダンジョンそのものに干渉する能力が無いと考えるのが自然ですわ」

「先入、観は、危険だよ?」

「分かっています。それよりもウォル。集中が途切れがちですわ。息をするのと同じように魔力を馴染ませなさい」

「分かってるけど……。まだ、難しいよ」

「いざとなればフォローします。頑張りなさい」

「……うん」


 二人は敵のいない洞窟を、気負うことなく歩いて行く。

 松明などの照明の持ち込みが無い為、星の瞬きほどの光すら無い完全な闇の中を。

 灯りが無くても二人は音の反響で地形を把握する術を持っており、光に頼る必要が無いからだ。それよりも両手を開けておく事の方が重要である。

 それに、どうせ敵の有無を確認するのに周囲を調べる必要があるのだ。灯りに使う魔力が勿体無いという考えもある。


 敵がいないとはいえ、警戒を怠るほど二人は愚かではない。

 周辺に敵が潜んでいないか常に警戒しているし、不意を打たれてもすぐに反応できるよう、マキが攻撃魔法を、ウォルターは防御魔法を準備している。


 そして。

 その準備が功を奏した。


「マキ!」

「分かっていますわ!!」


 道中、ようやく皇帝の放った刺客が姿を見せる。

 人間ではない姿、武器型による不意打ちだ。

 

「ワンパターンですわ!!」


 マキは【アキュリス大峡谷】で武器型を何度も見ている。

 人間の姿をしておらず、何らかの魔法的な力で移動する事が可能な武器型。もしも皇帝が配置するとしたら、これしかないという敵である。

 当然予測していたので、不意を打たれようがすぐに反応し、無傷で蹴散らす事が出来た。


「戦力の逐次投入ですの? 悪手も悪手、無駄に消耗してくれるようですわ」

「……長期戦なら、集中力を削ぐ波状攻撃って有効だと思うよ?」

「あら? あの程度でしたら、逆に緊張感を持続させる意味でありがたいぐらいでしょう?」


 楽に敵を撃退した事もあり、マキは皇帝の采配をこき下ろす。

 ウォルターは敵の狙いをある程度把握し、一定の評価をするが、マキは「こちらの戦力を把握していない」とさらに評価を下げてお終いである。

 実際、何もない道をただ進むより、途中で敵が出てきた方が集中力の維持には都合が良い。もちろん、楽に蹴散らせることが最低条件だが。


「変に緊張する必要はありませんわ。適度に力を抜いて、普段通りの事が出来れば問題ないですわ」

「はい」

「では、先に行きますわよ」


 この後も武器型による襲撃は続くが、一切の戦果をあげずに蹴散らされていく。

 敵の、皇帝の狙いが今ひとつ読み切れないまま、ダンジョン攻略は続く……。

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