最終決戦 旧帝都②
地上をあらかた調べ終えたウォルター。
全く痕跡が見つからないので何度も黒い石で方角を確認するが、魔力の流れは都市内部を指し示すものの、どこか特定の一ヵ所を指し示すものではない。
「地上は一通り探したんですけど……」
何日も『軍勢顕現』を使用したため、ウォルターの顔色は悪い。
魔力の消耗だけを考えればそこまで負担は無いが、10万体の鼠達から返ってくるフィードバックで頭が処理落ちしそうなのだ。
横になって目を閉じたまま、ウォルターは結果を報告する。
報告を聞く一同はウォルターの能力を信頼しているため、その報告に間違いがないことを前提に「次」を考える。
「地上でないなら、地下しかありませんわね」
「そうですな。この帝都には地下水道があると聞きます。そこに潜んでいるのでしょうな」
「地下水道の地図か何かはありますの?」
「いえ、あの場は皇帝直轄でして。一部の噂では城攻めに会った時の脱出、通路が……」
地下水道。怪しい場所として、次に探す場所が決まる。
事前情報を仕入れようとしていたマキであるが、その相手を務める大隊長が地下水路の説明をすると、どこか責める様な目線で大隊長を睨んだ。
大隊長は視線の意味を正確に把握し、脂汗を浮かべながらなんとか言葉を捻りだそうとした。
「それ、もっと早く言うべきですわよ?」
「申し訳ありません!!」
マキの突っ込みに大隊長は勢いよく頭を下げた。
その様子を見てマキはため息を吐き、思考を入れ替える。
「ウォル。次の予定が決まりましたわ」
「ん。分かったよ」
ウォルターの様子を見れば、かなり無理をしているのが分かる。ここで倒れられた方がよっぽど面倒なので、先ずは兵士による捜索から始めるべきだとマキは考えた。
そもそもウォルターの鼠は皇帝――魔力によって顕現しているモンスターもどきを探すことができても、隠し扉のような機械的な仕掛けを探すのには向いていない。
先ずウォルターに休むよう伝え、それから部隊長らに向けて力強く指示を出す。
「命令しますわ。財宝が見つかった場所の周辺、並びに城の捜索を行います。
探すのは隠し通路、主に地下へ続く扉などですわ。明日の朝からそれぞれ2000を動かします。準備をしなさい」
「はっ!」
地下への入り口はせめて自分たちで。
そんな思いからマキは兵士を動かすことにした。
なお、地下水道の一番の利用目的は「汚水処理」である。
だから鼠を侵入させるだけならトイレから送り込むことが可能だ。
しかしそれをやれと言う人間は誰もいなかった。
兵士たちの頑張りにより、城のにあった隠し通路はすぐに見つかった。
財宝周辺は足跡をたどって探したが途中から石畳に変わってしまったためその周辺を捜して回ったが見つからず、隠し通路の出口は周囲に無いのではないかという結論に至った。
ウォルターは見つかった入り口から鼠を投入し、兵士たちの中で吸血蝙蝠を顕現できる兵士も駆り出される事になった。
ウォルターは探索を主任務とするが、兵士たちは地図作成が仕事である。
ウォルターが皇帝を見つけた後、それが地上のどこに対応するかが分かれば地上から皇帝を強襲できる。
別に地下水道に潜る必要は無く、上から直接攻撃魔法を叩き込めばいいのだから。
地図が作成されていくと、地下水道の全貌が明らかになっていく。
地図作製を始めた頃、マキは地下水道が顕現魔法に使う魔封札などの役割をしているのではないかと考えていたが、そのような事は無かった。
地下水道はあくまで一般的な建造物で、そのどこをどう抜き出しても魔封札や魔封布の機能を持っていない。
「ならばなぜ、あの石の魔力はこの帝都全域で吸収されているんですの? 説明が付きませんわ」
マキの疑問に答えられるものは誰もいなかった。