最終決戦 旧帝都①
悲嘆にくれる兵士たちではあるが、その感情は怒りへと変化していく。
失った悲しみを、奪われた怒りに。
報復、復讐という手段は暴走さえしなければ打倒皇帝という目的に合致するため、適度に御しきれるのであれば否定する必要はない。
兵士たちは最期の戦いを、今か今かと待ち望んでいた。
旧帝都の周辺には3つのダンジョンがある。
それぞれ北の【宵闇の聖域】、南の【アキュリス大峡谷】、北西の【トリアイナ大森林】だが、財宝が見つかったのは城より南に下った門のあたりで街中だった。最初にマキたちが通ったのは街の外からだったため、街中の財宝に気が付かなかったのだ。
皇帝は【宵闇の聖域】にいると思われていたため、連合軍は最初に【宵闇の聖域】に挑むことにした。
預かった部隊を全滅させたマキがこれ以上の被害を嫌って単独でダンジョン最奥を目指したが、予想に反して皇帝はいなかった。マキは皇帝が何かしたら分かるように魔力供給の中継用マジックアイテムを設置してから地上に戻った。これでダンジョン【宵闇の聖域】は魔力供給を立たれて沈黙し、もしも皇帝がここから魔力を奪っていくようであれば、すぐにマキに伝わるようにしたわけだ。
そして皇帝の所在がつかめないという最悪の状態になる。
もし皇帝がダンジョンからの魔力供給を立たれて消滅したというのなら問題ないのだが、それを証明するまで皇帝を探し続けなければ行けない。そうでないと居ないはずの皇帝の影に怯え、不安で安心して眠れないのだ。そもそも「保有している魔力が尽きない限り生き残ると考える方が自然」というマキの補償があったので、死亡説は端から存在しない。
ウォルターとマキがそれぞれ持ち帰った黒い石、皇帝の魔力供給用兼顕現魔法の起点となるマジックアイテムで確認してみれば皇帝の生存を示す反応がある。
黒い石は周囲の魔力を旧帝都の方に送っているような反応があり、そこから「皇帝はまだ旧帝都のどこかにいる可能性が高い」と予測し、旧帝都の中を探し回る事になった。
残念ながら三角法などによる測量では皇帝の位置がはっきりしないため、地道な捜索が必要であった。
ただし、旧帝都はかなり広い。20万人が暮らしていた大都市という事で広さが15㎞四方はあり、たった5500人程度で探し回るには広さが邪魔をする。
戦闘になる事が予測される任務では小隊単位で行動するのは必要必須な条件だ。それも捜査探索の1小隊と周辺警戒の1小隊と2小隊20人を1部隊として動かすことが望ましい。ウォルターの護衛も考えれば探索は一月あっても終わらない可能性がある。
というという事で、ウォルターは『軍勢顕現』で鼠を大量に散らばらせている。広域探査においてウォルターの能力に敵うものは無い。
人間とは慣れる生き物で、ウォルターは『軍勢顕現』による多数の鼠を制御するのにずいぶん慣れていた。
その数は1万ではなく、10万。やろうと思えば更に追加できるが、旧帝都をくまなく探すだけであればこれぐらいがちょど良かった。主に魔力消費の面で。増やし過ぎると探す時間が短くなり、結果的には効率が落ちるのだ。
なお『軍勢顕現』だが、他の者は数体で制御不能に陥る。
マキは100体のモンスターを操る事が出来るが、1000や2000といった数には対応できない。ウォルターの扱える数は異常である。
逆にウォルターは強いモンスターを顕現するのが苦手で、ランク4ダンジョンのモンスターなら何とかなるが、ランク4のボスモンスタークラスで制御が怪しくなり、ランク5ダンジョンのモンスターはごく一部を顕現するので精一杯だ。
マキは「強いモンスターを顕現する適性を駄目にすることで弱いモンスターを多数顕現出来るよう、才能を特化してますわ」と評価している。何か一つに傾倒すると他が疎かになるというより、できる事のリソースが限られていて、その中でウォルターは「多数の顕現」にリソースを全部注ぎ込んだ状態だという。
今のところ最弱モンスターの巨大鼠よりさらに下の鼠しか大量に顕現させれないが、いずれはそれらも顕現出来るようになるだろうと推測されている。
ウォルターの『軍勢顕現』に皇帝捜索を任せ、マキは黒い石の解析を行い、兵士たちは周辺の警戒任務に就く。
時々家屋を破壊して捜索終了の目印にしながら、ウォルターが旧帝都の地上を探し終えたのは、捜索開始から10日が経過した頃だった。