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【アキュリス大峡谷】攻略③

 マキが居なくなった【アキュリス大峡谷】の連合軍。

 順路は塞がれ進むことも退くこともできなくなり、あとは上から岩を落とされるだけで全滅を待つばかりであった。


 何もしないのであれば。





「全員≪身体強化≫を! 崖の上に向かい、敵を殲滅する!!」


 絶望を破り去らんと声を張り上げたのはフリードだ。

 彼は自分に≪身体強化≫を使うと、崖の上を目指して駆け上る。途中で岩が落ちてくるが、そのこと(ことごと)くを回避してみせ、500mの距離を見事に踏破してみせた。

 崖の上に登ればあとは通常の戦闘であり、冴えわたる剣で外法兵らを切り捨てていった。



 フリードは戦士としては一流でも指揮官としては二流。そう思われていた。

 しかし、一流の戦士として絶望に屈することの無い闘志を持ち合わせているわけで、その闘志が折れぬ限り戦い続けようとする意志を持っていた。

 だから率先して動き、その背を魅せる事で兵士たちをけん引する。


 諦めを知らないその姿はまさに一流の指揮官のカリスマに匹敵する希望となり、味方を鼓舞する。

 フリードにも指揮官の仕事、「的確な指揮」はできなくとも「味方の士気を高める」事は出来た。

 そのおかげで、絶望的な局面でも兵士たちは動く。



 しかし、兵士たちが動いたと言っても確実な成果を出せる訳ではない。

 その大半は崖で足を滑らせるか岩に押しつぶされるかして地上に叩きつけられる。

 上手く崖の上に登れても、数の暴力に屈する。


 まるで無意味な抵抗。

 ただ殺されるだけの兵士が、相手にひと手間かけさせるだけの小さな抗いを見せただけ。

 その行いにどれだけの意味があっただろうか?

 僅かばかりの延命。

 全滅するまでの時間を延ばすだけ。

 フリードがやった事は全くの無駄。

 そう、見えた。





「負けて、たまるか……っ!」


 フリードは崖の上で独り、剣を振るう。

 崖の上に友軍の姿はすでに無く、屍をさらすばかりである。

 崖の上の外法兵は5000を超える大軍で、たった一人がどう頑張っても全滅させることなど不可能だ。


 それでも。

 それでもフリードは剣を振るう。


 足を止める事無く外法兵の隙間をかいくぐり、その首を刎ねる。

 武器型が不意を打つように飛び掛かっても軽く体をひねるだけで回避してみせる。

 岩を落とそうとする外法兵の背を斬り裂き、群がる敵をバッタバッタと薙ぎ倒す。


「邪魔だ!」


 100の敵を切っても、その剣は健在。

 普通の剣士であれば10も切れば血糊で刃の切れ味を落とし、刃と柄を固定する目釘が緩んで剣が使い物にならなくなる。

 そこは卓越した剣の腕で劣化を防ぎ、フリードは孤軍奮闘、戦い続けた。


 切った数は200か300か。

 とうとう剣が使い物にならなくなる。

 フリードは足元にあった兵士の死体から剣を奪い、体力の限界を超えてもまだ戦う。


「諦め、ない……」


 フリードは全力戦闘を続けている。

 全力で体を動かすというのは、身体の能力を最大限に使う無酸素運動。限界を超えて動いても、物理的な限界は訪れてしまう。

 ならば身体が動かなくても使える攻撃魔法を使い、目の前の(てき)に立ち向かった。

 残念ながらフリードの魔法の腕はそこまで高くない。それでも、それでも諦めずに戦い続ける。


「まだ……戦え…………る――」



 そして。

 1時間以上戦い続けたフリードは。

 体力魔力、どちらも限界を迎えて力尽き。

 とうとう外法兵の刃を受けてその命を散らした。


 フリードは最期まで戦った。

 力及ばず地に伏したが、僅かばかりの猶予を地上に与えて。





「隊長! 準備が終わりました! 何時でもいけます!!」

「よし! やれぇっ!!」


 フリードが戦っている間、地上では残った兵士たちが最後の作戦を進めていた。

 フリードが戦っていたおかげで落石の被害はずいぶん減っている。川の向こうでは変わらず落石が続いているが、フリードのいた側の被害は少ない。


 だから準備できた作戦。

 崖の上に行くことが無謀だと判断し、残った兵士が立てた、有効と思われる大博打。


「いきます!!」


 崖の下、突如轟音が鳴り響く。

 それは地の魔法兵が崖下を掘り進めて僅かにできた安全地帯から鳴り響く、破滅の音。

 風の魔法兵が空気を圧縮し、火の魔法兵が集めた空気を暴発させた音。

 他の魔法兵が応戦し、囮になる中で進めた最後の一手。


 轟音は地響きとなって崖を崩す。

 一か所が崩壊すれば連鎖的に他も崩れる。いや、何か所も同時に爆破されたことで、被害はかなり広範囲に拡散された。


 崖が崩れれば、上に陣取っていた外法兵らもただでは済まない。何体かは難を逃れたが、それはほんの一部にすぎない。フリードにいた側の崖にいたほとんど全ての外法兵と武器型が巻き込まれ、岩に押しつぶされる形で死んでいった。

 下に降りていた外法兵もいる。当たり前のようにその外法兵らも潰されて死んだ。



 当たり前だが、連合軍の兵士も一緒に潰されている。

 だが彼らはその結果を知っていてなお、作戦を決行した。


 ここで外法兵の数を削る事にどこまで意味を見出したのか。

 それとも、無為に死ぬより一体でも多くの敵を殺して死のうとしたのか。


 それは今となってはもう解らない。



 それでも【アキュリス大峡谷】にいた外法兵と武器型の2万は、その数を7000まで減らした。

 連合軍は全滅。2000いた兵士だが、ただの一人の生存者もいない。



 マキ達がその事を知るのは、しばらく後のことである。

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