【アキュリス大峡谷】攻略②
基本的に、マキは強い。
並み居る敵を寄せ付けもせず、周囲の兵を守る余裕がある。
はっきり言ってしまえば、彼女がいれば兵士など1人も要らなかった。むしろ居ない方が良い。足手纏いである。
それでも兵士を連れ歩くのは、この行軍が命がけの訓練だからだ。
もしもマキの手助けが望めない状況下で何かあったら。
それを考えればマキ1人に任せる訳にいかず、兵士たちを鍛えているわけだ。
「死者は18人。まぁ、こんなものじゃないかな?」
「弛んでいる、と言うのは酷ですわね。むしろ良くやっていると褒めるべきでしょう」
一日が終わる前、マキたちは本日の戦果と被害報告をまとめていた。
駆け足とは言えないがそこそこに足を速くして移動した結果、彼らは通常の5割増しで進むことができた。
戦闘に関してはマキがほとんどを受け持ったおかげで被害は軽微。武器型の混乱で死んだ者と足を滑らせ毒の川に落ちた者など、死者は何人も出てしまったが損害は思ったよりも少ない。怪我人も出たが復帰不可能な怪我を負った者はいない。
だから、現状を一言でまとめるなら。
「順調ですわね」
それだけで済む。
「見慣れないモンスター、武器の形をしたモンスター。外法兵と、もう一つは仮称で『武器型』とでも呼びますが、警戒すべきはその程度ですね」
「ええ。ランク4ダンジョンですもの、この程度でしょうね」
フリードは部隊中央に行って何度か戦ってみたが、新種である外法兵と武器型は初見であれば苦戦するかもしれないが、見知ってしまった以上は簡単に対処できる敵でしかない。マキのいない所で兵士をフォローをするために動いていたが、何度か見本を見せてしまえば後は自力で対処させて構わない程度の脅威だった。それよりも人外兵の方がバリエーション豊富で厄介である。
つまり、このダンジョンの攻略は容易という事だ。
油断ではなく、ただの事実として。2人は【アキュリス大峡谷】を脅威として見なくなった。
「しかし、敵は新しい罠を用意しているでしょうか?」
「その可能性は高いと思いますけど、実戦投入が初めての物なら完成度は推して知るべし、でしょうね。脅威ではありませんわ」
警戒心を緩めた理由はもう一つ。
マキに対して顕現魔法のモンスターを奪取する罠が不発だった為だ。
ダンジョンに入ってすぐ、マキの制御を奪おうという罠があった。しかしそれは出力差であっさりと無力化され、効果を発揮しなかった。
この事については事前に予測された話なので何という事も無く、軽く流されてしまう。
この日の話し合いは状況確認にとどまり、翌日も現状維持で進むことが確認されただけだった。
翌日のダンジョン攻略も順調に進み、夕方にはボス部屋を攻略。
帰還まで何事も無く無事行われ、ダンジョンを出たら他と合流しようかという話になったところでマキに火急の事態を告げる声が聞こえた。
「ウォルに直接危害が加わる程の何か? 何ですの一体!!」
それはお守り代わりにウォルターに渡した、自分の本体から。
小さな鼠の姿をした自分がウォルターの為に力を振るったという報告。ウォルターの命の危険以外では動かないはずの自分が戦ったという事は、相当危険な状態が予測された。
マキは近くにいた部隊長に一言告げると、ウォルターの所を目指して駆けだす。
そして。
マキがいなくなったタイミングで、【アキュリス大峡谷】から外法兵の大軍が姿を現す。
マキがいるうちに攻めても無駄だと考え、引き離してから投入された皇軍の本隊が。崖の上に姿を隠していたが、マキがいなくなったことでこれを好機と出てきた者たちが。
その数、およそ1万5千。
武器型を数に入れるなら、約2万。
削れる敵を、削りやすいタイミングで削っておく。
強力な軍兵は、分断して討つ。
戦力は逐次投入せず、まとめて運用する。
戦術の基本に沿った、正しい用兵であった。
崖の上からの落石により、進路も退路も断たれる。
マキが駆けだしたその背後で。
鏖殺が、始まろうとしていた。




