表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/208

【トリアイナ大森林】攻略⑩

「あんな大軍を相手に籠城を続けるとか……。もう少し考えてください、ウォルター様」

「いや、面目ない」

「戦力差が大きく援軍が望めない状況であれば逃げの一手が正解です。いえ、敵の戦力が把握できない時点で籠城は絶対にダメなのです。まずは互いの戦力差を把握し、交戦するか逃げるかを考えるべきだったのですよ。

 周囲の方々も。ウォルター様の生存を第一に考えるべきであったでしょう? それなのに何故、兵士の損耗を嫌ったのです? 何が、誰が重要かを考えれば余力のあるうちに強行突破の一択だったでしょうに。押されている、そう感じた段階でもなお損耗を気にするのは、負けの思考でしょうに」



 ウォルターを救出に来た大隊長は、ウォルターたちを見るなり説教を行った。

 彼にしてみれば無謀な籠城を行ったウォルターたちと、その指揮をしていた部隊長らは戦犯の様なものである。兵法における基本から外れた「負け犬的思考」をして味方を危険に晒したのだから当然である。


 厳しいことを言うのであれば「小を殺して大を生かす」のが戦闘指揮官の務めである。

 ウォルターの迎撃戦術は「大を生かそうとして全滅させる」でしかなく、多大な被害を出そうとも何人かを生き残らせる手を打つべきであったという訳だ。

 偶然にも援軍があったから良かったものの、それが無ければ全滅していたのだ。



 この意見には多くの者が無言で頭を下げるしかない話であった。

 兵士を一人でも多く生き残らせたいのであれば、先ずは脱出して、外にいる財宝回収部隊8000と合流するのが最善だったのである。本来であれば彼らはこちらに来なかったのだから。


 女神の使徒側には、いざとなればウォルター「だけ」を無理やりにでも回収し、脱出する用意があった。それだけの余力を、実は残している。だから厳密に言えば全滅はしない。軍が壊滅するだけだ。

 ただ、全体を考えるのであれば早めに行動するべきであった。ウォルターが嫌がったとしてもこのまま戦うよりは被害が少なくなると説得し、全滅のリスクを軽減するべきであったのだ。

 ある意味、大事な者を分かっているからこそ間違った選択肢を選んだのである。





 一通り言いたいことを言い終えた大隊長は手を鳴らし、反省会を打ち切った。

 この場でグダグダと言っていても現状が良くなるわけでもないし、状況は悪化していくからだ。

 悪い所を直すのは、この場を切り抜けてから。今は何が悪かったのかを知っておくだけで十分である。


「まずは体勢の立て直しをしましょう。2時間の休憩を取り、部隊を再編。突撃力の高い物を前面に押し出して一点突破を図ります。

 ウォルター様はまず魔力の回復に専念してください。敵中を突破するのにお力添えをしていただきたいので。細かい事は我らが行いますので」

「了解、です」

「さて、我々は建設的で現実的な話をしましょう」


 大隊長と部隊長らはウォルターがいなくなってから脱出計画を考える。


 二つの部隊が合流して、総兵力は5000近くに膨れ上がった。逃げるなら早く動きたいところではあるが、最低限の態勢を整える必要がある。このまま動いても潰走することになり、やっぱり全滅する。

 なので、大隊長はまだ余力がある者100名を死兵(・・)に任じ、生贄にするつもりでこの場の防衛という危険を押し付けた。また、500名近い兵士たちに殿(しんがり)を任せ、こちらも全滅を覚悟させる。また、殿ではないものの、後方に配置された者たち更に1000名は死ぬ確率が高いと思われた。それこそ、敵を打ち破る先頭の者よりもだ。


 ここで体力を消耗する兵士たちはきっと逃げる体力を残せない。

 殿をと止める兵士たちは襲い掛かる敵と戦うために逃げる時間を削られる。殿がいなくなれば……。

 どちらも死ぬことが前提の任務だ。


 ウォルターは魔力回復の為に休んでいるので、この打ち合わせをしている場所からは離れている。声は聞こえない。

 ウォルターの知らない所でさらに多くの兵が死ぬことが決まった。





 全て、必要な犠牲である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ