【トリアイナ大森林】攻略⑦
時間が経過するとともに、軍の兵士たちは消耗していく。
途中、迎撃の要を20番隊から19番隊が引き継いだ。1時間以上の激戦を戦い抜いた20番隊は倒れるように横になり、睡魔に身を委ねた。極度の緊張が訓練以上の消耗を招き、彼らの体力と精神力を限界まで削っていたのだ。
狭いダンジョン内なので、一度に戦えるのは100人が上限だ。それも20人が5列になって戦う
そのため直接戦闘に出ない者は1900人もいて、いざという時に備えるのがボス部屋の監視を含めて400人いたが、それでも1500人が休憩をとれる。
しかし、誰かが戦闘中に図太く休める人間というのは思いのほか少ない。待機時間の者たちも徐々に精神力を消耗していく。
2時間の戦闘で、19番隊から死者が出た。19番隊は20番隊の後に入ったので、実質1時間に満たない戦闘で、である。
殺し合いをしているのだからそれは当然の結果であるのだが。
数が減れば一人当たりの負担は増えていき、徐々に連携が崩れていく。
他の部隊から人を補充すればと思う事もあるが、連携訓練無しで別の兵士を混ぜるのは危険である。よって、19番隊は交替の指示が出るまで減っていく人数に焦らされながら、自力で生き残るしかない。
負担が増えればミスも増え、怪我人、死者がどんどん増えていく。
次の交代は18番隊である。
休憩中の20番隊の出番はもっともっと後になる。しばらくはそうやってローテーションを組み、致命的な事態にならないように備えていた。
「ウォルター様が来ました!」
「急いでお通ししろ!!」
19番隊と18番隊が交替するタイミングで、ウォルターが到着した。
19番隊は数を80まで減らしており、2巡目の戦闘ができない状態であった。
「支援射撃お願いします! 18番隊、支援射撃に合わせて前へ! 19番隊、敵が怯んだら18番隊と交代せよ!!」
「「了解!!」」
一瞬ウォルターを優先しそうになった指揮官であったが、それよりも19番隊を下げる方が先だと指示を出す。
指示を受けた者たちはすぐに19番隊を救うべく行動を開始し、敵に一撃を入れ、追撃を仕掛け、仲間を信じて背を翻す。19番隊は戦列を離れ、18番隊が前に出た。
「中々早い御登場ですな」
「仲間が頑張ってくれましたので」
指揮官はようやく後方に来たウォルターに、心からの称賛を送る。
それに対し、ウォルターは謙遜で返し、素早く敵の姿を確認する。
「被害と戦果を」
「19番隊が20人の死者を出しました。戦闘不能になった者を合わせれば30名が離脱します。
戦果の方はおおよそ600です。被害を減らすよう防衛を主にしている事を考えますと、上出来だと思います」
ウォルターたちは取りつかれる前に殲滅したので被害ゼロだったが、こちらは強襲された事もあり、遠距離戦による迎撃ができなかった。全て近接戦闘である。
≪身体強化≫による支援で近接戦闘を主軸にすると、動きの早さから誤射の危険が高まり、射撃系の魔法を覚えた者たちはあまり役に立たなかった。
そうなると少数でも誤射をしない腕を持つ女神の使徒の精鋭は貴重な砲撃支援担当となり、要所を抑えるような戦い方をしていた。
今まではこれで何とかなっていた。
問題は≪身体強化≫担当が魔力切れをおこしそうだという事で、彼らが魔力切れになると、とたんに戦力が低下してしまう。
そうなれば戦線を維持できないのは明白で、だからこそ殺しきれない恐怖に抗いながら、彼らは剣を手にしていた。
「全体に≪身体強化≫を上書きします。その後は索敵も兼ねて少し暴れます」
「御武運を」
しかし、ウォルターが来たなら話が変わる。
ウォルターはマキと共に【宵闇の聖域】における戦いで≪身体強化≫を軍全体にかけ続けていた。ボスとの戦いで魔力を消耗していても、ウォルターならきっと最後まで持つ。
兵士たちは実績のあるウォルターの登場で士気を上げ、全身に力を漲らせていった。
その後、18番隊に≪身体強化≫を施し、ウォルターは最前列をさらに超え、敵の中に飛び込む。
皇帝が色気を出し、突出したウォルターに人外兵を群がらせた。
そうなると当然、兵士に背を見せる者が出て来るわけで。
「背中見せてんじゃねーよ!」
「死ねぇっ!」
「お前ら、隊列は崩すな! 前に出る奴は周りのフォローが入る事を確認し、自分が背中を取られないようにしろ!!」
最前列の兵士たちが、背中を見せた敵に切りかかる。
たまに前に出すぎて孤立しかける者も出るが、指揮官の叱責により周りを見る程度の冷静さを何とか取り戻し、周囲のフォローを受けながら再び隊列を戻すといった事をしていた。
兵士たちは陣地の防衛が主任務であるが、ウォルターが無茶をしたおかげで攻撃に回す時間が大幅に増加した。
その結果、後方の戦場も徐々に勢いを増していくのであった。
……一時的に。