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モンスターハウス

 不意打ちの基本は道の角を使ったものになる。

 フィールドダンジョンとは言え、フィーヴォルトの森にも順路というべきものは存在する。木々が密集し、先が見えない、通れない場所がいくつも存在するのだ。

 マキはその一つに潜み、追手の気配を探る。


(迷いも無く私たちを付けていますわ。何度か撒こうとしましたのに付いて来た。黒、で構いませんわよね)


 マキは間違って見ず知らずの討伐者を害さないよう、何度かわき道にそれつつ、人気のない所を目指して歩いて来た。一般的な討伐者のルールとして他の討伐者が近くにいた場合は、モンスターだろうが宝だろうが先にいた者を優先するというものがある。これは獲物の奪い合いを防ぐ為であり、何も考えずに近寄ればモンスターと間違って攻撃されても文句は言えないという意味合いもある。

 一般開放されたダンジョンは複数の討伐者グループが鉢合わせる事が多々あり、間違って攻撃した・されたというケースも少なくない。だからこそ他人を避けるのが常識であり、彼らがここまで自分たちを追いかけてきた以上、もう間違っていようが殲滅は確定事項となった。



「それにしても、なんでモンスターが出てこないんだ?」

「こりゃあ、あれか? “モンスターハウス”じゃねぇか? どこかに固まっているんだよ」

「うはぁ。もしあのガキンチョがそん中に入ったら面倒だな。確認、どうするよ?」

「そん時はおめぇ、「もう死にました」でいいんじゃね?」

「ま、強さの確認なんてまどろっこしい事やりたくねぇしなぁ」


 マキは情報収集のために追手の8人を観察する。

 後ろから来た人間たちは、いずれもクーラの雇った討伐者で間違いなかった。


 クーラが商人として有能と聞き、マキはクーラが情報の扱いに長けた人間だと判断した。

 有能な商人の条件の一つに「儲け話を見つける」というのがある。儲ける方法を上手く見つけ出し実際に儲ける才覚も必要だが、それより前に儲け話の存在を知らねばならないからだ。

 よって、マキの常識では有能な商人ほど情報収集に熱心となる。

 ならば自分の口説いている相手に婚約者ができたと聞いて打つ手と言えば、やはり情報収集となる。実際に襲うにしてもこちらの戦力の見極めをしてからであり、そのために後を付けるぐらいはすぐにやるという訳だ。


 クーラが昨日の今日ですぐに動くぐらいの手回しの良さを発揮するのも想定内。

 すべてはマキの予想通りに動いていた。



(相手がこちらの情報を得るのは面白くありませんわよね。ウォルの戦い方を知られる危険性もありますし。であれば、ここは排除一択ですわね)


 もしも捨て駒を用意し、ウォルターにぶつける気であればマキはそのまま見逃し、情報を持ち帰る者のみを排除したことだろう。対人戦、それも人殺しを経験させておきたかったというのもある。

 しかしここにいるのは全員が情報収集担当と、ウォルターを襲う気の無い面子でしかない。


 だったら生かしておく必要も無いとマキは判断し、排除に動く。

 自分の前を、8人全員が通り過ぎてから風の刃で一閃。5人ほどの首を刎ね、残る3人の頭を輪切りにする。不意を打たれた挙句、必殺の一撃を喰らった事で為す術も無く倒れるクーラ子飼いの討伐者たち。

 マキは死体から金品を漁る事もせずに、そのまま焼き払い証拠を消し去る。


「ワタシ達に殺された、そのことをどう受け止めるかですわね」


 マキはクーラの打つ次の手を考えようとしたが、自分がクーラについてあまり知らない事を思い出し、考えるのを止めた。


「要、情報収集。ですわよね」


 今更ながら、自分の至らなさに気が付いたマキはクーラを直接見に行こうと決めるのだった。





 さて、マキから背中を押され、独りダンジョンを進むウォルター。

 ウォルターは今、木の陰から見える光景に冷汗を垂らしていた。


(無理無理無理! 一体何体いるんだよ!?)


 視界に移るのは、数える気も無くなるほどのモンスターの群れ。

 10や20ではきかない数のモンスターがひしめいていた。

 戦狼(ウォーウルフ)木の巨兵(ウッドゴーレム)といった「話で聞いたことのあるモンスター」ならばまだいい。他にもキノコ人形(マッドマッシュルーム)樹木の精(ドライアド)木竜(ウッドドラゴン)といった見知らぬモンスターが大勢いるのだ。

 初見であることに加えて大軍と言っていい数が相手では、ウォルターが怯むのも致し方ないと言えるだろう。


(でも、戦わないとマキに怒られる……)


 竦むウォルターの脳裏に浮かぶのは、訓練中の厳しくも厳しい中に厳しさの見える、マキの顔。

 マキはちゃんとギリギリできる事しかウォルターに要求しないのだが、そのギリギリが絶妙すぎて、ウォルターには鬼にしか見えなかった。

 普段は優しいのだ。だが、マキは訓練となると人が変わる。基本的にも応用的にも厳しくなるため、ここで戦わずに隠れていたと知られた場合は地獄が待っている。ここで戦うよりも酷い事になると、ウォルターは恐怖した。


(どうせ戦うなら前のめり!!)


 進んで煉獄、退けば地獄。

 そんな言葉がウォルターの頭をよぎったのかもしれない。

 ウォルターはしばらく悩んだ後、戦うことを前提に頭を使いだした。


(多数を相手にするときの基本は通路に行け、だったよね)


 多数を相手取るとき、気を付けなければいけないのは前後を挟まれる事だ。正面に意識が向かった時に後ろから攻撃されては直撃を喰らう。死角を無くし、常に相手を正面に置く努力をせよ。かつてアルはウォルターにそう教えてきた。


(地形を最大限に利用する。油はあるし、炎の壁を作ってもいいよね。少しでもダメージを増やさないと、倒しきるのに時間がかかるし。あとは……囲まれたときは足を止めない、遠距離攻撃をさせない為に敵をブラインドにする、だったかな)


 ウォルターは多数を相手にするときにと教えられた内容を頭の中で復唱する。

 相手の手数、動ける人員を削るのが対多数戦闘の基本だ。そのまま部屋に入るのは愚の骨頂。

 後退する通路を確認し、戦闘箇所を決める。

 油を袋に入れたまま置き、火罠を作る。

 いざという時の、逃亡ルートを確認する。


「準備はこれで良し。……じゃあ、やりますか!」


 大きな声を出して気合を入れる。

 そして火炎鼠を召喚し(呼び出し)てモンスターハウスに放つ。


「上手く釣れますように……っ!」


 ウォルターは小さく祈り、通路を後退した。

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