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【トリアイナ大森林】攻略⑤

 外法兵と人外兵が大量発生したボス部屋は、さながら地獄絵図であった。

 燃え盛る大地に、突如現れる異形の兵。現れた異形の兵は、炎に焼かれて朽ちていく。それを延々と繰り返すのだ。

 敵が戦わずに死んでいくというのは自分たちにとって都合のいい事なのだが、それでも見ている兵士たちはまるでこの世の終わりを見せ付けられているような気分にさせられた。



 ウォルターは戦闘行為を最小限にする事で早々に味方と合流し、状況の立て直しを図る。


「“封じ込め”失敗です! 敵の出力が想定以上でした! ≪炎獄≫の効果もじきに切れます、迎撃準備を!!」

「りょ、了解であります!」


 地獄絵図に心を奪われていた兵士たちはその言葉で我を取り戻し、急いで隊列を整え直し、武器を構える。

 ウォルターは削られていく≪炎獄≫の残り魔力を計りながらも≪身体強化≫を準備している。


「そろそろ≪炎獄≫尽きます! ……敵、顕現します!!」


 ≪炎獄≫が終わる。

 効果時間を過ぎた魔法が効力を失い、燃え盛っていた大地が焼け焦げたその姿を現す。

 そして、それまで炎に焼かれ消えていくだけだった人外兵がその足を下ろす。

 数は数百。そこまで多くは無い。


 ウォルターの見たところ、ボス部屋にあった魔力は2割程度まで減っていた。つまり、≪炎獄≫で半分削り、今の人外兵を顕現させるのに3割使った計算だ。

 残る2割分を顕現に使ったとしても今いる人外兵の7割程度。今いるの人外兵が1000に満たないので、総数で言えば2000に届かないハズである。


 数が互角であれば問題なくすり潰せる。

 ウォルターやその周辺の兵士たちは「勝てる」と大きな希望を見出し、剣を取る手に力を込めた。


 その声は、そんなときに響き渡った。


「敵だー!」

「敵襲! 後方より、敵が迫っています!」

「20番隊! 盾! 構え! 絶対後ろに通すな!!」


 怒号のように響く声は、敵の襲来を告げるもの。

 ウォルターたちは、挟み撃ちに遭っていた。





 皇帝イーヴォは、自分の策が上手くいったことに安堵していた。人間が失敗しやすいのは上手くいっているときであるため、ギリギリまで作戦の決行を遅らせたのだが、何とかなった。

 ウォルターが≪炎獄≫で顕現を邪魔した時は焦ったが、薄く広く作られた蓋だったため、力押しで何とかできた。問題ない。


 皇帝としては、目障りなウォルターとマキを殺すことが主目的だ。

 特にウォルターの抹殺が最優先で、マキは「次善策で仕留められたら御の字」程度の考えである。



 ウォルターを優先する理由は簡単だ。

 ウォルターが人間だから、である。


 二人が皇帝にとって数少ない脅威であるのは確かな事実だ。

 しかしマキは顕現魔法で作られた生き物の為、『主従再設定』の罠でどうにでもできる。最大の脅威がそのまま自分を守る力になるなら、これほど心強い事も無い。支配してしまえば裏切られる心配も無い。だからできれば殺さず捕えたいという心理が働いた。

 その点ウォルターは捕えた所で自分の下に付くとは思えず、配下になっても心から信じられる訳ではない。絶対に殺したいのはウォルターだけとなる。



 皇帝の作戦の内容はこうだ。

 一度偵察部隊に魔力だまりの仕掛けを見られたので、ウォルターたちは絶対にここを重視するのがはっきりしていた。ならばとそこを作戦決行ポイントに設定する。

 仕掛けを見られたという事は、ウォルターかマキが必ず確認に来るだろう。そこを外法兵(・・・)で囲みつつ、新型(・・)でとどめを刺すつもりでいた。

 奥まで誘い込んだのは逃亡を防ぐ為であり、逃げるまでに2日以上の足止め時間を作るためだ。ダンジョンは皇帝の箱庭だが、どこにでも兵士を配置できるわけでもない。用意した兵を効果的に使うには、ウォルターたちができるだけ奥の方に行く事が望ましい。だから最奥の魔力だまりまで手を出さなかったのだ。


 兵士(エサ)も大量に連れてきてくれるだろうから、それはダンジョン内に潜ませ限界まで顕現させておいた外法兵をけしかける。きっと最短ルートを使うだろうから、それ以外の所に隠して置く事で挟み撃ちにして、敵兵を効率よく潰す。

 その結果、ダンジョンのモンスターを自分(皇帝)たちが狩る事になったが、そこは気にしていない。狩りつくしては違和感を持たれるが、一部は狩らずに(けしか)けておいたので、そうして軍と戦ったモンスターがいい目くらましとなる事で外法兵を隠してくれた。


 ウォルターだけは絶対に逃がさない。

 ダンジョンの魔力、いやダンジョンに仕掛けた魔力吸収陣が壊される事はもう諦めている。

 ダンジョンの仕掛けが駄目になっても、一度魔力を溜め込んでしまえば当分消えることは無いので、しばらく潜伏して他の場所で再起することもできる。

 それよりも皇帝にとっては(ウォルター)を殺す事が大事だ。


 だからダンジョンを餌に、皇帝は博打に出たのだ。



 ウォルターを殺したら、皇帝は一度拠点を変えるつもりである。


 ウォルターを早めに殺したいから逃げずに旧帝都で迎え撃ったが、旧帝都に拘る理由が皇帝には無かった。自分の命が最優先だ。

 これはマキに数回殺される事で死への恐怖を思い出した証拠である。絶対者としての自信など、とうに砕け散っているのだ。取り繕う気概も無い。


 傀儡蟲でどこかの大都市を掌握し、人外兵と外法兵で体制を今まで以上に盤石とする。


 ――ここでウォルターを殺せれば、不可能な話ではない。



 ここまで皇帝の策は順調だった。


 その肩に乗る、小さな鼠が何なのかを知っていれば。

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