【トリアイナ大森林】攻略④
≪炎獄≫の魔法が泉を焼き尽くした。
水は全て蒸発し、ボス達もまた、消えていく。
泉とその周辺は草花の生える、動物たちの憩いの場とでも言えそうな部屋であったが、今は炎に呑まれて地獄の様相を呈している。
【トリアイナ大森林】は、植物系モンスターと水に関わりの深いボスがいるダンジョンだ。
しかし赤く染まった今、その面影は全く見られない。周囲の木々ですらこれからも炎を活かす素材としか見えないだろう。
「上手く、行きました」
ウォルターは己の魔法が期待通りの効果を発揮したことを確認した。
炎は魔法だ。
そして、ウォルターの魔法的な触覚でもある。
炎が部屋全体を覆っている今、ウォルターがこの部屋を掌握していると言っても間違いではない。
そして、その炎が綺麗に蓋をしているのが分かっている。
「敵の魔力は空中にはありません。すべて地中に抑えています」
顕現魔法は、魔力でモンスターを再現する魔法だ。
魔力が無い場所に顕現させることは出来ないし、土の中や壁の中のような何かある場所に顕現させる事も出来ない。
つまり、敵戦力はこれで炎のある場所に現れないという事である。
あとはウォルターが魔力だまりの場所を確認するだけだ。
偵察部隊の見つけた黒い何か、その回収の為に。
報告があったのは、泉の中央だ。
水面から確認しただけだが、水底に露出していたのが確認されている。穴を掘ったりする必要はない。
未だ炎が燃え盛る部屋の中であったが、ウォルターは平坦な石畳を歩くかのように、気負わず歩いて行く。
炎が体だけでなく靴や衣類も炙っているが、元々ウォルターの魔力で作られた炎だ、何を焦がすことも無い。そもそも、魔力で出来た炎は純粋な炎ではないので、燃やすも燃やさないも術者次第である。ウォルターは自分と身に付けている物を除外するので精一杯だが。
言われた場所まで歩いて行けば、確かに黒い塊が落ちていた。ウォルターの掌よりも大きな石のようだが、真っ黒である事よりその内に秘めた異質な魔力が存在感を放ち人目を惹く、そんな奇妙な塊だ。
ウォルターがそれを手にしようとすると、急激に魔力が高まった。思わず黒い石の周りの炎を強める。
しかし、黒い石の魔力の高まりは 止まる事を知らない。逆にウォルターの行動は反射的なものだったため、自分の意思で炎を扱う為の切り替えがうまくいかず、僅かな隙を見せてしまった。
拙い、ウォルターがそう思った瞬間、周囲に外法兵が溢れかえる。
ウォルターはとっさに黒い石を収納袋に仕舞う。そしてこの場から離脱するため、周囲の敵を殲滅するために≪炎獄≫の炎に追加で魔力を供給し、一気に焼き払おうとした。
「単純な出力勝負! こんなにあっさり負けるなんて!!」
≪炎獄≫の炎は外法兵を焼き払うが、外法兵はどんどん追加される。外法兵だけでなく通常の人外兵も顕現し、その身を使って≪炎獄≫を相殺していく。
≪炎獄≫の効果は旧式である人外兵より新種である外法兵の方が効きが良い。敵はそれを学習してか、人外兵を多めに顕現する。まき散らされた敵の魔力はどんどん減っていくが、半分程度削ったところで≪炎獄≫が力負けするだろう。
もう一度≪炎獄≫を使うか?
そのための詠唱をする時間が惜しい。なにより、確実に壁にした仲間を巻き込む。
ならば通常の手段で殲滅すべきだ。
ウォルターは作戦の失敗を認め、リカバリーの手段をすぐに選択する。
味方と合流し、残り魔力で顕現するであろう敵を迎え撃つ。シンプルでもっとも分かりやすい選択肢を選んだ。
ただ。
≪炎獄≫が破られた時。
追加戦力は今ある魔力分だけで済むのかと。
蓋が無くなることで無限湧きするのではないかと。
そんな疑念が頭をよぎった。




