【トリアイナ大森林】攻略②
「いつごろから攻勢が始まると思いますか?」
「日の出早々に襲われなかったところを見ると、昼より少し前でしょうな。昼以降ですと我らを止めきれない可能性が高くなります。ですから、昼の休憩をしようとしたタイミングを狙うものと思われます」
「やっぱりそうなるよね」
野営地での休息を取り終えたウォルターたち。
朝の出発前に、今日の襲撃される予定について話し合っている。
野営地まで特に問題なく進めたことに関し、軍上層部ならびにウォルターや女神の使徒は、誰も疑問を感じていない。
もしも自分が皇帝の立場であれば、やはり同じことをするからだ。
ウォルターらが考える皇帝の作戦はおそらくこうである。
ダンジョン攻略に二日かかることを前提とする。
まず、ダンジョンの半ばまで軍を招き入れる。この時、多少は襲撃をかけて敵の戦力を把握する。
つまり、初日は軽めの対応しかしない。
問題は二日目。
午前中の移動時間、初日よりも強めに攻撃を仕掛ける。こちらは決定的ではなくとも、多少は疲弊する。
決戦前に疲労を残しておくわけにはいかず、合間合間で休憩を強いられるだろう。その休憩時に決戦を仕掛ける。
ダンジョンの奥まで来ていれば、大軍故に脱出が難しい。
道の細いダンジョンであれば一度に通れる人数が決まっていて、軍は逃げることなどできはしない。
ならばと前に進むだろうが、やはり細い道では一度に戦える人間が限られるし、間断なく攻め続ければ最前列の兵士は交替だって難しい。
逃げる事が叶わないなら、徐々に疲弊し数の暴力で削りきられるだろう。
対策なんて言うのは、全く無い。
する必要が無いからだ。
たった一つの対策というか、今回の作戦はこうだ。
もしも敵が下法兵を使ったら、ウォルターが女神の使徒を引き連れて強引に突破するだけ。壁抜けをすれば不可能な話ではない。
残った兵士は自力で防衛陣地を構築し、ウォルターが奥をどうにかするまでひたすら耐える。
それだけであり、こんな力技は策とは言わない。
最悪、兵士の側は全滅しても構わないという作戦だ。
兵士の命を数字として扱うかのような作戦だが、これが一番成功率が高いと判断された。
兵士無しでも構わないのではと思われるが、兵士がいない場合、敵の思考リソースはずべてウォルターに向けられる。
兵士たちは相手の意識を分散させる為だけに使われるのだ。彼らに余力があればウォルターの援護をするため、手抜きはされない。されればその分成功率が上がるので問題は無い。
どんな結果が出るにせよ、今日ですべてが決まる。
ウォルターたちは朝食を食べ終え短い食休みをすると、魔素だまりへと足を向けた。
時刻は昼過ぎ。
周囲を警戒し戦闘を挟みながらの移動は腹が減るため、昼の休憩は干し肉をかじり、水を飲みながらとなる。
ウォルターらはアテが外れたといった気分で干し肉をかじっている。
「見事に予想が外れたね」
「ええ。相手はどこでも自由自在に下法兵を配置できると思っていたのですが。もしかしたら、魔素だまりの近くにしか顕現できないのかもしれませんね」
「……そうだといいですが。魔素だまり近くまで行ったら、やっぱり?」
「はい。数の利を最大限に使わせてもらいます。それもこれも、相手が想定通りの動きをしてくれた場合の話ですが」
一緒にいるのは女神の使徒の、枢機卿の一人。
壮年の男性で、エルヴィンという。彼は苦笑しながら予測が外れて気落ちしているウォルターを励ましていた。
エルヴィンにしてみれば戦場で敵が予想外の行動に出るのはいつもの事なのだが。まだ年若く経験の浅いウォルターには不測の事態に対応しきれないのだろうと、内心で「自分が支えねば」と決意を新たにしている。
ここまでの道のりではモンスターがあまり出ず、昨日よりもスムーズに進むことができた。
きっとここで襲われるだろうと思っていた場所で何も無かったため、脱力している部分が強い。だが、「油断させるための罠かもしれない」と気を張って……さらに何も無かった。
気を張った分だけ消耗はより大きく、干し肉をかじるアゴの力は普段よりも弱い。
今はこの先の話をすることで、なんとか気力を取り戻している最中だ。
あと2時間も歩かないうちに魔素だまりの泉に出る。
前回訪れた偵察部隊はボスに出会わなかったが、今回もいないとは限らない。
相手が予想外のところで襲い掛かってくるかもしれないと警戒しながら、休憩を無事終えた彼らは歩を進める……。




