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【トリアイナ大森林】攻略①

「また、後でね」

「ええ。こんな仕事、5日もあれば十分ですわ。早く終わらせましょう」

「頼もしいですな。では、我々も任務に取り掛かります」



 ダンジョン攻略が開始された。

 軍は三手に分かれ、同時攻略を進める。

 攻略対象はランク3ダンジョンの【トリアイナ大森林】と、ランク5ダンジョン【アキュリス大峡谷】の二つだ。

 ついでに、旧帝都に向かって財宝などを持ち運ぶのにもう1部隊が使われる。


 二手に別ける理由は単純だ。

 狭いダンジョン内では大軍の利を活かせないので、兵を分割するデメリットが薄い。少数精鋭がベスト、という事だ。

 それに戦場を広げることで敵の対応能力に制限をかけようとしている。皇帝がどの程度の思考能力や演算能力を持っているかは不明だが、出来るだけ相手の思考に負荷をかけ、目の届かない場所を作り、ミスを誘発したいという考えがある。



 ウォルターが2000の兵と女神の使徒を連れて【トリアイナ大森林】に向かう。魔法兵は1200を連れて行く。

 マキは2000の兵とフリードを連れて【アキュリス大峡谷】に向かう。魔法兵は2000を連れて行く。つまり、全員が魔法兵だ。

 残った8000の兵が旧帝都に入り、物資の回収を行う。


 【トリアイナ大森林】は通常の攻略なら2日あれば終わる。攻略後、急いで戻れば1日で帰ってこれる。

 【アキュリス大峡谷】は通常の攻略なら4日あれば終わる。攻略後、急いで戻れば2日で帰ってこれる。

 物資の回収には10日は必要だ。最低でも3往復はしないといけない。ウォルターやマキが戻ってきて手伝えばもっと早く終わるが、彼らだけならそれぐらいは必要だ。

 




 ウォルター達は再会を誓い、それぞれが自分の戦場に向かう。

 兵士たちの間でも言葉が交わされ、互いの健闘を祈ったり激励したりと、大きなざわめきが生まれた。


 しかしざわめきは長く続かない。

 旗を持った兵と共にそれぞれの部隊のリーダー、ウォルターやマキたちが移動を始めたからだ。

 交わされる言葉は別れの言葉になり、移動を始めた兵士たちは自然と口を噤む。


 最初はバラバラに歩いていた兵士たちだが、自然と部隊ごとにまとまり、整列していき、奏でられる雑然とした足音たちが軍靴(ぐんか)という一つのうねりになっていく。

 それはまるで多くの兵の心が一つに纏まっていくようでもあった。





 最初に目的地に着いたのはウォルター達だった。動き出したのが朝の早い時間だったため、昼までまだ時間がある。

 軍はダンジョン手前、ただの森の部分で休憩を取り、それからダンジョンに足を踏み入れる。



 ウォルターは『軍勢顕現』で大量の鼠をダンジョン内に放ち、目として使う。

 人間としては目や耳の良さに定評のあった魔法兵20が先行し、その後ろをやはり20刻みで作られた部隊が進んでいく。後ろの部隊も偵察を主任務とした者で固められており、先行する部隊と合わせて10の部隊が「敵の早期発見・殲滅」を担っている。

 彼らはウォルターの鼠と連携しつつ、威力偵察中隊として後続の部隊に敵が近づけないように働いていた。


 100の小隊が作られるわけだが、それを10集めて10の中隊、全体で1大隊とカウントする。

 ウォルターは女神の使徒で固められた前から3番目の中隊にいる。

 そこが主力、大隊の中核とも言える中隊で、敵主力と正面からぶつかる予定だ。前後からの挟撃を受けた時や最後尾から襲われた場合は最後尾の中隊がその場で防衛ラインを築き、とにかく他が前に進む作戦である。



 ダンジョン内部は密集した木々が壁となり、迷路を作る。

 通路の幅は所々で変わる。狭い所で2m、広い所で10mと安定しない。一々隊列を変える手間を省くため、基本的に2m幅に合わせて2列縦隊で進んでいく。

 木々を伐採するには時間がかかるし、それで簡単に通路が広がるという話でも無い。野営以外でそういった事はしない段取りで動いている。


 先行する魔法兵は後方の警戒を後続に任せ、正面と左右の警戒に専念する。

 時折、こちらを襲う為に仲間を待つ隠密狼の姿が見つかるが、それを見逃すことなく殲滅しながら進む。一つの小隊が2~3戦すると他と交替し、常に7割の余力を残すようにしつつも、警戒は緩めない。

 慎重に、確実に歩を進める。


 この日は小規模なものばかりであったが、野営地に着くまでの間、20と5回の戦闘に彼らは勝利した。



 戦闘の密度は通常の攻略時とさほど変わらず、軍による攻略は過剰戦力であったが、安全や確実性を考えるのであれば間違いではない。

 先行する中隊のおかげでウォルターたちは一度の戦いも無く野営地まで進ませてもらえた。


 野営地とはそこそこの広さを持つただの広場だ。水場は無いがテントなどを使うのに適した場所で、魔力だまりとちょうど中間にあるため、討伐者はここで一泊するのが普通だ。軍もここで一泊する予定である。

 さすがにダンジョン内の野営地に2000の兵士は詰め込むことができず、それでも悪あがきの様に木々を伐採し、野営地を広げる。他の通路や小部屋のような場所を取り込みつつ、ほとんどの者が横になっても大丈夫なだけのスペースを確保する。


 食糧を運んでいるウォルターたちが到着すると、夕飯の準備が始まった。

 あちこちで焚き火で木々が焼ける臭いと、その火にかけられた鍋から漂う夕餉の匂いが辺りに充満した。献立は麦粥で、干し肉と干し野菜を一緒に煮込み、塩で味付けした物である。干し肉が良い出汁となり、食欲を刺激する香りを放っている。



 この日の不寝番はちゃんと仕事をしたが、戦闘は一切なく、そのまま一夜を明かした。

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