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開戦の狼煙

 雪が解けたら何になる?

 答えは「春になる」だ。

 雪が解けた場所には新芽が芽吹き、小さな花を開かせる。



 チランを筆頭とする連合各国は軍備を整え、再び帝都に進撃する。


 戦争というのは、金がかかる。

 2年連続で大軍を動かした連合各国は、ここで決着をつけねば破産するという所まで追い込まれている。

 去年の戦では金銭的に得る物が無く、多大な負担を強いられただけで終わってしまった。旧帝都には莫大な財宝があるだろうが、前回は話し合いの時間が無かったために持ち帰る時間が無かったのが特に痛い。今年はそうならないよう早めに持ち帰る算段を付けようと、事前に分配の割合を事細かく決めてあったりする。

 この状況でもしもまた負け帰る事になれば来年の派兵は絶対にできないし、攻め込まれても守り切るだけの物資が用意できない。こういったすり合わせがないと、また何かあった時に対応できなくなる。


 そんな金銭的な事情から軍を動かす上層部は悲壮な覚悟を決めつつ、参戦している。


 逆に兵士たちは勝利を疑っておらず、その表情は明るいとまではいかないが、暗いという事は無い。

 彼らは上層部の情報操作などにより、敵の強大さを知りつつも味方がさらに強いと楽観視している部分があり、その強兵として扱われる魔法を覚えた兵士は自信を漲らせ、この戦に参加している。



 敵の新戦力についての情報も共有化され、その能力についていくつかの推論が添えられることになった。

 仮称として外法(げほう)兵と呼ばれる事になった黒い人外兵は、生き物の殻を捨てて魔法的な力を得ているであろうことが予測される。

 物理攻撃に強く、魔法的な攻撃に弱いだろうと推測され、戦闘能力はランク5か6のダンジョンのモンスターに相当すると思われている。それが群を成して襲ってくるわけで、危険度で言えばそれ以上というのが軍上層部の出した結論だ。

 外法兵がどの程度用意されるかは分からないが、はっきり言って状況はかなり悪い。


 数少ない好材料は、やはり魔法を覚えた兵、魔法兵だろう。

 遠距離攻撃のエキスパートと言うか弓兵にとって替わるこの兵種は、弓よりも遠くまで、高い威力の攻撃ができる。それが約3000揃っているというのはやはり心強い。

 他にも回復魔法を覚えた後方支援部隊、自身の肉体を強化して戦う近接特化の兵士もまた頼もしい。こちらが合計1200人程度である。

 今回は少数精鋭というか、物資を節約したというか、去年より少ない1万近い兵が参戦している中にこれだけの強兵がいれば、多少の戦力差をひっくり返すことも可能だろう。


 他には精霊魔法のベテランである女神の使徒の精兵、ウォルターとマキといった規格外の魔法使いもいる。

 もしも数の不利が強く出る野戦に持ち込まれても、広範囲に攻撃できる彼らがいれば問題ないだろう。いや、その時は顕現魔法をメインに戦うのであろうから、やはり数の差は問題ではないのだろうが。





 ダンジョン攻略にあたって、拠点は旧帝都を避けて近くの平地に陣地を築く運びとなった。

 農村などはあるのだが、1万の兵を収容するには全く足りない。

 2方面作戦を行うのだし、最初から二手に分かれて拠点を作る事も考えたが、結局農村に収まらない事は変わらないので、物資を守る人数を減らすためにも拠点は一ヵ所が望ましかった。


 ちなみに、残す物資の大半は食料以外である。食料はウォルターとマキがそのほとんどを収納袋にしまい、ダンジョンに持ち込むようになっている。外に残すのはあくまで保険でしかない。

 二人の収納袋が狙われる可能性も無くは無いが、最重要人物である2人がどうこうされるのであれば、その時点で負けは確定だ。そこはもう、上層部の全員が割り切った。



 拠点設営、ダンジョン攻略前に景気付けの大宴会を行えば、騒がしいまま夜も更けていく。


 生きて帰ることができるのは、この中の何人なのだろうかと、問う者は無く。

 生きて帰ってみせると、輝かしい明日(みらい)を信じる者たちが。

 この戦が最後と信じ、剣を持つための手で酒瓶を傾ける。


 今はただ、心地よい気持ちに、身を委ねながら。

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