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冬の準備

 季節は変わり、冬になった。

 深々と雪が降る中、それでも火の精霊魔法を使える一部の兵士たちは訓練を行う。

 残りの兵は日が出ているうちは除雪作業に駆り出され、精霊魔法の的になる雪山を作るのに勤しんでいた。





 そんな中、ウォルターとマキは精霊石の作成に忙殺されていた。


 各国の兵士たちが来たことで在庫が一気になくなり、新規で作った分も放出する羽目になって手持ち、ストックと言える分が無くなったのだ。しかも、それでもまだ足りないと言われ、補充を要求される。

 精霊石や魔石には原石でもいいが宝石を必要とし、その在庫はチラン内の宝石をかき集めてまだ足りず。

 もう作らなくていいと思った所に兵士たちと入れ替わるように送られてきた宝石類を相手にする事になり。

 二人の魔力量は膨大であるため、起きている間はずっと作業ができたりするのが災いした。

 1000や2000ではきかない数が、二人のノルマだった。



 終わりの見えない戦いの様に続く作業。

 精霊石を作れば終わりではない。その後に、作った精霊石など3割分の精霊札や魔法札を作らねばならない。

 春までに終わらせ、それから各国に配布するために。


 これらの作業は、当然有償である。高めの代価を要求する事で作業量を減らそうと考え、二人は高めの値段設定をした。

 ……つもりであった。

 実際は周囲がかなり安いと考えるほどで、各国上層部はこの期を逃せば確実に値上げされると考え、全力で依頼を出した。

 その結果が、二人が終わらない仕事に悩まされる量の宝石類であった。


 原料の宝石類は持ち込み必須。宝石一つに付き技術料のみで金貨1枚。一般市民の住む安い家が買える値段だ。札にする場合は、更にもう1枚の金貨を要求される。

 精霊石に魔石、精霊札に魔法札。これらは消耗品だ。本来であれば永遠の輝きとして宝飾品として使われる宝石類を、使い捨ての道具にするデメリットもある。

 人材育成に有用とはいえ、安くは無い値段。二人はそう考えた。


 しかし、別の見方をすれば、本当に安いのだ。


 まず、頼む相手がウォルターとマキである事。

 救世教会の天使様と、その御付に頼む。

 貴人に依頼をするのであれば、普通はこの数倍取られてもおかしくない。二人の希少価値を考えれば10倍以上が相場だろう。

 どれだけの技術が必要か。それは問題ではない。誰に頼んでいるか。大事なのはそちらである。

 二人は自分たちの立場の重要性を理解できていなかったのだ。


 また、作られる品が多方面で必要である事。

 人材育成で使うだけでなく、いつか自分たちで作るために研究用としても欲しかった。多めに頼みたいのは当たり前。むしろ、いくらあっても足りない。

 他の使い道も探したいし、もし有効な使い道ができれば需要はさらに高まると予想され、その時に在庫が無いようでは困る。


 精霊魔法の重要性を考えての事。

 戦後のパワーバランスを考えれば、顕現魔法だけでどうにかできる時代ではなくなるのは明白だ。精霊魔法や生命魔法を使える人間の数は、そのまま国力に繋がるだろう。

 そのため魔法使いを増やしたいし、その早期育成に必要な道具を揃える事は何も間違っていない。訓練期間の短縮、先行投資と考えれば、金貨の1枚とは破格の安さだ。その後に生み出される利益を見れば赤字ではなく黒字と考えていい。

 人を育成するのには時間とお金が必要で、金貨の1枚2枚で済まないコストである事は常識だ。二人がそれを知らなかっただけで。


 余談ではあるが、鉄製の装備を一式揃えると大体金貨で5枚は必要になる。鉄などの金属はまだ貴重なのだ。そして加工できる職人が少ない。そういう事だ。





「これで、今日のお仕事は、終わり……」

「本当、キリがありませんわ。まさかあの10倍を要求してようやく一般的な値段設定とは……。失敗しましたわ」

「僕らの仕事、桁が一つ二つ、大きくなっちゃったんだよね……」


 冬の夜。

 夏であればまだ明るい時間帯。しかし冬になれば夜の帳は早くに下りる。夕飯の時間ともなれば星が空に見えるのが当たり前である。

 数をこなせば作業ペースは大体掴める。二人は食事前に仕事が終わる様に作業量を調整していた。


 この日も机の前から一歩も動かず数時間。黙々と作業をしていた。

 会話があるのは朝の仕事前と昼の食事の前後、夕飯前の仕事終わりで、他の時間に口を開く事は滅多にない。

 同じことの繰り返しは、心の動きを阻害するのだ。自然と口数も減る。


 今日は偵察に行っていた女神の使徒から一報があり、普段であれば出てこないような愚痴を思い出したように言う気力があった。


「黒い人外兵って、あれだよね。きっと闇の精霊魔法とか、暗黒魔法とか? そういったのを、混ぜた奴だよね」

「≪精霊化≫の応用ですわね。また厄介な……」

「精霊魔法は通ったけど、普通の武器ではダメージを与えられない、かぁ」

「いいえ。ダメージが視認できなくなっているだけですわ。恐らくですけど、ダメージは通っているはずですわ」


 こちらが準備を進めれば、皇帝の側だって戦力の補充や強化を行うのは当たり前だ。敵に新戦力があった事は想定外ではない。

 そして、連合軍側はそれを事前に知ることができた。

 これでもしもダンジョン内で死者が出ていればこちらの情報も漏れただろうが、幸い死者が出ていなかったことで、情報漏えいは避けられたと考えていい。

 二つのダンジョンに何かがあるという情報を含めれば、情報戦では優位にある。マキはそう判断した。



「対策って、何かあったっけ?」

「≪精霊化≫は強力ですけど、皇帝側の負担が増大している筈ですわ。そして、精霊魔法がより効きやすくなるのですけど、こればかりは比較対象が無いとはっきりしたことは言えませんわ」

「ああ、≪精霊化≫って魔力を余分に使うからね。あとはやっぱり自分の目で見ないと分からない事も多いよね」


 ウォルターは首を傾げながら対策を考える。

 が、伝聞では今一つ情報が足りず、結局心構えの問題かな、と結論付けた。


「それよりも夕飯ですわ。食事を疎かにしてはいけませんわよ」

「はーい」


 そんなウォルターに、話は一旦区切れとばかりにマキは手を叩き、夕飯を食べに移動するよう求めた。ウォルターは素直にそれに従う。


(魔力付与の訓練は……今からでは無駄ですわね)


 ウォルターには考えるのを止めさせたが、マキは頭の中でいくつも対策を練るのであった。

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