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旧帝都周辺 偵察任務

 冬の行軍など、普通はしない。

 村や都市といった規模に関わらず、秋までの忙しい時期を終えて冬になれば、家に引きこもるのが一般的な情景だ。

 利益最優先の行商人もこの時ばかりは移動を控える。


 理由は至って簡単。

 雪が積もると、動けなくなるからだ。


 この世界の馬車は雪が積もれば立ち往生し、下手に動けば車軸や車輪が壊れ、運が悪ければ穴などに嵌ってそのまま死ぬ。

 雪の中で薪を拾えるわけもない。持っていこうにも荷馬車の積載量が増えすぎては移動がさらに遅くなる。よって暖を取るのも一苦労となる。いや、それだけの薪を買おうとすれば破産するし、そもそも軍を暖める量の薪など在庫が無い。


 歩きであれば普段よりも移動速度が出せず、吹雪く中での一夜は死と同義。

 運べる荷の量も減るし、それでは危険に見合う利益が無い。


 大雨ですら命がけというのに、雪中行軍など自殺と何が違うのかという事だ。

 だから冬場は大人しくするのがあたりまえ。



 ――ただし。それは精霊魔法が使えない人間に限る。





 ウォルターたちが兵士たちを鍛えている頃、女神の使徒、その精鋭数名は旧帝都ミスリムへ偵察に行っていた。


 女神の使徒は表だって動かすよりも裏の活動に従事させた方が都合が良かったからだ。

 チランに悪感情を抱いていることは周知の事実。その逆も同じ。

 であれば、他国が取り込みに動かないとも限らないからだ。

 優秀な精霊魔法の使い手である彼らは戦力としては破格と言えるし、いざチランをどうにかしたとして、【精霊の庭】に詳しい彼らが協力者となればその価値はさらに上がる。


 チランにしてみれば女神の使徒は絶対に敵対したくない相手になっており、無視することはできない。かと言って厚遇で迎え入れるにも感情が邪魔をする。メルクリウス個人であればそれも可能だろうが、周囲が納得しないのだ。下手な対応は国を割る。

 女神の使徒の側でも、余計な争いごとを持ち込まれるのは困る。今は人が減っており、戦力だけでなく色々と人手が足りないのだ。正面からの引き抜き工作程度なら許容範囲だが、チランの仕業に見せた破壊工作などされては致命傷になりかねない。味方を作るにしても、交渉の時に主導権を握れるようにするにはもう少し時間が必要だった。



 そんな彼ら女神の使徒は、9月の頭に旧帝都に向かった。行って、調べて、戻るまでにかかる期間が約3ヶ月。帰りはどうしても冬になる。

 普通なら死ねと言っているのと変わらない命令でも、彼らには精霊魔法があり、それを活用することで冬にある問題の大半が解決する。残りの問題もマキから渡された収納袋――ウォルターたちが使うのとは別に、新たに作った物だ――を持っているので、全て解決している。

 それに少人数であれば小回りが利き、問題も減る。


 この時期に偵察などしないだろう。

 そんな考えの隙を突き、可能な限り情報を集めて帰るが彼らの使命だ。



「周辺の農村は平常通りだな。冬籠りの準備をしている。

 規模と人数のバランスも普通。食料の備蓄なども恐らくは例年通りだろう。変わったところは見つけられなかった」

「では、ここまで皇帝の魔の手は伸びていないという事でしょうか?」

「その可能性が高いというだけだな。今も普通に生活させ、我々が来たときに違和感を感じさせないようにするブラフかもしれん。

 そもそも、我々の任務は情報の分析ではない。今は私見や分析を交えず、ただ数字を集める事に徹しろ」

「はっ!」


 目標は周辺のダンジョンが本当に皇帝にとって重要な施設かどうかの確認である。

 そのため、ダンジョン周辺の農村の状態を確認し、軍の宿泊施設として使えるかどうかを調べ、半数をいざという時の保険に残し、残る半数でダンジョン攻略を行う計画になっている。


「ダンジョン周辺で魔物が溢れたという話は無いようだ。『大崩壊』まで時間があるのか、それとも別の理由でもあるのか。外からでは分からんな。

 ここからは予定通り、ダンジョン内に潜らねばならない。全員覚悟を決めろ。我らが未来が女神様と御使い様の御心に沿う為にも」

「「「はいっ!!」」」


 挑むダンジョンはランク3のダンジョン【トリアイナ大森林】。

 フィールドタイプの、広大な森型ダンジョンである。

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