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偽婚約者ウォルター

 ウォルターがダンジョンの話を、マキが物資購入のために立ち寄った町の話をする。

 ウォルターの話し方は要領を得ずたどたどしいものであったが、ダンジョンの話はミリィにとって新鮮で、途中でいくつも質問を挟みながらも好評に終わる。

 マキの物資購入にまつわる話はバグズの興味を惹いたようだ。物価の方に興味があるらしく、野菜の販路を独自に持ちたいと考えているようだ。こちらも質問を重ねながら、運送にかかるコストの話も交えつつ有意義な時間を過ごした。


 バグズの両親が仕事から戻ってくると、やはり二人は歓迎された。

 理由としては娯楽の為であったのが半分。残りはそれなりに大口の取引として玉ねぎの大量購入をした事だろうか。


 その後、夕飯にてウォルターは玉ねぎを大量に使った料理を堪能した。

 バグズたちにしてみれば食べ慣れた、悪い言い方をすれば食べ飽きている料理だったが、玉ねぎを好物と言い切るウォルターにはどれもご馳走で、本当に幸せそうな顔で食べていた。

 自分の所で採れた野菜を美味しそうに食べられて悪い気などしない。ウォルターはそうやってバグズの家に受け入れられていった。





 その日はバグズたちの家に泊まることになった。

 「個室を」と言われたが、二人は同じ部屋で寝る事にした。今後の打ち合わせをするためである。

 二人は並んで置かれたベッドに潜り、灯りの無い闇の中で、声が外に漏れないよう小声で話す。


「クーラを直接排除するのは駄目ですわね」

「面倒でも手順を踏まないといけないよね」

「何か案はありますの?」

「……無い、よ」


 マキはこの件に大して思い入れが無い。早々に片付ける、クーラを排除する手段が取れなくて残念そうである。

 逆にウォルターは自分考えが間違っていなかったことでテンションが上がっていたが、だからと言ってどうすればいいのか分かっておらず、そこを突っ込まれて轟沈した。マキは「まだまだですわね」と嘆息し、ウォルターを睨む。


「手間はかかりますが、こういった時の基本がありますわ」

「基本?」

「囮作戦。つまり、ウォルがミリィさんと婚約すればいいのですわ」

「ええっ!?」

「声が大きいですわよ。別に、本当に婚約する必要などありませんわ。相手がちょっかいを掛けざる得ない状況を作り、公衆の面前で叩き潰す。たったそれだけの事ですわよ」


 クーラを直接排除しない策として、マキはウォルターを餌にした“釣り”を提案する。

 クーラが何を考えてミリィを狙っているかはさておき、公然とミリィが「婚約者ができました」などと言えば面目は完全に潰れる。それが流れの討伐者などと言えばさらに激昂するだろう。

 そうやって煽って、闇討ちなどを誘発するのだ。相手がいくら金持ちと言えど、人間には限りがある。適当に町の外をうろついてクーラの手の者を排除していけば、まずバグズの家に手出しできる者がいなくなる。いたとしても有象無象、対処しやすい雑魚しか残らないだろう。

 そうやって手をもいだあとは決闘でも挑み、物理的にも捩じ伏せる。衆目の前でさらし者にされれば、さすがに諦めるだろうというのがマキの考えだ。

 残作業として旅先でウォルター死亡説が流れれば婚約を破棄するのも難しくはない。後で生きていることがバレようと、先に結婚でもしてしまえば婚約破棄は有効となり、筋を通せる。



 マキの意見に穴を見つける事の出来なかったウォルターは反対することなく、翌日にはバグズやミリィの賛同も得て、偽婚約者作戦は決行された。





 ウォルターたちはまずクーラ手飼いの暴漢を誘い出すために、アイガンの町周辺にあるフィールドダンジョンを訪れていた。


 ダンジョンの名前は【フィーヴォルトの森】といい、ランクは3と、それなりの難易度である。

 ランクは最大10まであるが、ランク10など歴史上に一つしか存在しない。大体がランク2~3で、4以上は滅多にない。ランク3は討伐者に管理を任せる上限でもある。


 ドゥウェルガル帝国内にあるダンジョンの最高ランクは7。帝都の近くにある【ドゥウェルガル大迷宮】と名付けられた、地下100階層を誇る最悪の迷宮型ダンジョンである。あまりの深さとモンスターの強さの為、迷宮の内部に町を作り拠点とする必要がでてくるほどの難易度である。

 この規模になると国が管理し、騎士団を用いて定期的に数で殲滅せねば追い付かないほどである。それでもランクは7で、最高ランクではないのだが。


 ウォルターにしてみれば初の高難易度ダンジョンである。

 肩慣らしにちょうどいいというマキに強引に連れてこられたが、その表情はすぐれない。完全に場違いであると思い、完全に委縮している。


「しゃきっとしなさい、ウォル。本命はモンスターではなく人間ですのよ? ここに誘った以上、ここのモンスター以上に厄介な連中のハズですわ。それなのにモンスター相手に委縮など。貴方はワタシの弟子ですのよ? もっと自信を持ちなさい」

「あうあうあうあう」


 マキの見立てでは、ウォルターはランク3程度なら余裕である。周囲のモンスターはマキを恐れて近寄ってこず、マキのそばにいる以上、ウォルターも戦わずに済んでいる。

 しかし、それではいつまで経っても埒が明かない。状況を動かすために単独行動させたいマキだが、ウォルターはくっついて離れようとしなかった。


「はぁ。バグズを助けたいと啖呵を切ったのはウォルですわよ? いい加減覚悟を決めなさい」

「……いざって時には、助けてもらえるよね?」

「自分で何とかしなさい!」


 どうにも動こうとしないウォルターにしびれを切らせたマキはその背を蹴って突き放す。情けない事を言ったペナルティに、死ぬ寸前まで絶対に手出ししないと心に誓う。


「まったく。手間を掛けさせてくれますわよね」


 後ろからついてくる人間(・・)8人。

 そちらに意識を割きながら、マキは気配を消して迎え撃つことにした。

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