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訓練終了

 訓練30日目。

 精霊魔法、生命魔法、ともに訓練は順調だ。

 札を使った魔法から脱却し、自力で魔法を使うようになった兵士たち。威力の方も札という制限を外したため、実戦で使えるだけの破壊を伴うところまで引き上げられた。


 反面、撃ち合いをすれば生命魔法による回復が追いつかなくなり、訓練内容は動く的を使ったものへとシフトしている。

 動く的の提供はウォルター。『軍勢鼠』を使い、絶え間なく兵士たちを倒していく。万に近い鼠の群れを殲滅する訓練になるのだが、的が小さい事、意外と動きが早い事で兵士たちは翻弄される。結果、噛み付かれたり引っかかれて軽い怪我を負う事になる。

 体長20㎝の鼠が全身にまとわりつくのは見ているだけでもおぞましく、絶対にやられてなるものかと兵士たちの気合はかなりの物になっている。


 当のウォルターは不満顔だ。

 軍勢顕現に関しては後継者がおらず、10名ほど鍛えてはいるものの、誰一人として見込みが無いからだ。

 本来であれば訓練終了の60日目までに引き継を行いたいのだが、目処が立たない。

 今後も軍勢顕現に関してはウォルターの独壇場となるだろう。





 訓練45日目。

 数名。ほんの数名であるが、≪楯≫系統の魔法を学び始める。

 実戦で使いこなせるかは未知数だが、今後を見据え、試験的に試しているところだ。

 また、二つ目の魔法として≪身体強化≫の魔法を学ぶものも増やした。


 どの訓練にも魔力を使う為、複数の魔法を覚えようとすればどっちつかずの器用貧乏になりかねない。

 ここにいる兵士たちは優秀だが、魔力の最大値が多いといってもウォルターの半分も無く、どうしても魔法以外の訓練が多くなる。魔力の回復には魔力回復ポーションといった外的手段が無いため、自然回復しかない。どうやってもこれ以上効率を上げるなどできない。


 しかし、その他の兵は順調に育っている。一人一人があの時の皇軍の兵10人分に匹敵する働きを見せるはずだ。

 このままいけば火力の面で後れを取る事はまずないだろう。


 彼らは今、ダンジョンに籠ってひたすら戦い続けている。

 皇軍の人外兵を相手にするのと勝手は違うが、実戦でしか得られない経験値を稼ぐことだろう。





 訓練60日目。

 この日の訓練を以って、全ての課程を終了とする。

 全員が顕現魔法に頼らない何らかの魔法戦闘の手段を有し、一人前と認められることになる。


 今後は自主訓練となるが、おおよその方向性は決めてある。軍隊の特性上、指示に従わない跳ねっ返りなどいない。命令違反は厳罰なのだ。



「これで訓練は終了ですわ。ここまでよく訓練に耐えてくれました。

 すぐに戦場で再会しますが、そこは今まで以上の激戦になるでしょう。多くの仲間が倒れ、命を失います。そこに例外はありません。死ぬのは、貴方達の誰かかもしれないのです。

 ですが、退くことは許されません。彼の敵を討たねば、ワタシ達の仲間が、友人が、家族が、生きたまま地獄に落とされるでしょう。我々は、勝たねばならないのです。

 手にした力を信じ、手に入れるまでの努力を信じ、共に研鑽を積んだ仲間を信じ、最後まで戦い抜いて下さい。

 ワタシは皆が生き残る事を願っていますわ」


 夕日に照らされる壇上で、兵士たちにマキが別れの挨拶をする。最後に一礼し、スカートを翻して壇上から降りた。

 訓練を終えた兵士たちはマキの礼に対し、一糸乱れぬ敬礼で返す。マキが演説用の台から降り終えると、「解散!」という号令がかかり、兵士たちは散っていった。


 ウォルターからの言葉は無い。

 肉体労働者である兵士にしてみれば、お偉いさんからの挨拶など短い方がいいのだ。



「終わったね」

「終わりましたわね」


 去っていく兵士たちを見送りながら、二人は呟く。

 正直なところ、戦力的にずいぶん強化できたとは言え、かなり厳しい戦いが予想された。

 もともと、戦争では顕現魔法で作り出したモンスターが主軸になる筈だったのだ。それが覆されている以上、楽観視できる要素は少ない。


 多少戦力を強化した。

 ウォルターとマキという、最大戦力がある。

 それでも苦戦は免れないというのが各国首脳ならびに二人の想定だ。

 相手も自分たち同様に戦力を強化している可能性が否めず、何らかの対策を練ってくるはずだからだ。



 それでも。


「勝つしかないなら、勝つだけ。だよね?」

「ええ。その通りですわ」


 やるしかない。

 国や人類の命運などオマケでしかない。

 自分の為にも、戦わねばならないのだ。

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