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魔法訓練

 連日の会議の終わりとは関係なく、訓練が始まった。

 ウォルターとマキによる魔法の訓練が。



 元【オズワルド平原】。

 今、二人の前にはチランには各国より集まった四千人の兵がいる。

 チランに兵を送った国は8か国。それぞれが事前の規定通り五百の兵を送ってきたのだ。



 他国の兵士が駐留するのに際し、必要になるのは大量の食料と寝床だ。

 彼らは移動速度を重視して最低限の荷しか持ってこなかったため、最低限の食料の持ち合わせも無い。食料をダンジョンから集め、建物は簡易テントを多用して。ギリギリの対応をしている。


 満足のいく量ではないが、十分な食料とそれなりの寝床が用意されていたことで、兵士達の士気は低くない。

 いや。どこまでも強さを求める、貪欲な瞳をした者たちばかりが揃っている。


 それは当然だろう。

 少なくない負担を強いてまで行われる訓練で、これからの未来を占うかのような訓練で、どんな勢力争いをしていようと心の弱い兵を送るような真似はしない。

 どの勢力からも若く、向上心か野心を持っている者を中心に、特に有望な人材が集められた。



 そんな彼らだが、目の前の二人には困惑する者も少なくは無い。

 当然だろう。

 ウォルターは栄養不足の食生活に成長が阻害され、150㎝程度の背丈でしかない。多少肉付きが良くなったとはいえ細身の体からは強さなど感じられない。

 マキはメイド服着用の美少女であるが、それは強さと全く関係ない。ウォルター御付きのメイドといった風であるが、だからどうしたという話だ。

 顕現魔法がある世界の為に必ずしも屈強な男の方が有利とはいえないが、ある程度戦ってきた者が持つ「凄み」を感じられないのだ。


 とはいえ、ここに居る兵士たち。大半はあの(・・)帝都での戦いを潜り抜けた生き残りである。

 実力を知っている彼らは二人に期待を寄せていた。そして同じ力を得られるかもしれない事に逸る気持ちを抑えるのが精一杯だ。早く訓練よ始まれと、心の中で叫んでいる。



 この温度差のある兵士たちを前に、2人が取った行動は単純だ。


「まず最初に。始めての顔もありますから、ワタシ達の実力を把握して頂きますわ。

 と言っても本気で戦う訳ではなく、演武ですけれど」


 格の違いを分からせる事である。


 二人は剣を手にする。

 本職ではないが、騎士に混じって訓練を受けてきた二人である。それなりに戦える。





「まずは軽い運動を」


 序盤。

 魔法なしの戦いで数合。ここまではごく普通の兵士か、それよりやや劣る戦いである。

 この段階でやや失望した視線が増えるが、そこは驚かせるための布石である。がっかりさせる程度でちょうどいい。



「ギアを上げますわ。ウォル、≪身体強化≫を全力で使いなさい」

「んっ、分かったよ」


 中盤。

 身体強化の魔法を使い始めた。戦争中に使っていた広範囲で抑えめの強化と違い、自身への最大強化だ。能力は2倍どころか3倍程度まで引き上げられる。

 こうなると、同じ拙い技でも全く違って見える。突然速度が上がったことで、二人の演武は遠目にようやく姿が捕えられるほどになった。

 もしも正面から戦っていたら。百戦錬磨の兵士たちでもほぼ確実に姿を見失い、そのまま切り捨てられるレベルの戦いであった。



「ラスト。きちんと防ぎなさいよ、ウォル」

「大丈夫だよ。僕はまだ死にたくないから」


 終盤。

 二人は剣を捨て、魔法の打ち合いを行う。

 距離を取って≪火矢≫と≪氷矢≫の乱打戦である。足を止めず、躱し、逸らし、防ぎながら数を撃つ。

 これは演武。互いに決められた所に決められたように撃つだけの、演武である。

 しかし見ている者がそれを忘れてしまうほどの密度で魔法を打ち合っている。もはや二人の強さを知っている者ですら言葉を失ってしまうほど、圧倒的な光景であった。


「≪氷鎚瀑布≫」

「≪大火炎車輪≫」


 最後に。

 締めの魔法として大技が放たれた。

 マキが使ったのは≪氷鎚瀑布≫。大きさ数m級の氷塊を相手の頭上にいくつも生み出し、そのまま落下させて潰す広域殲滅魔法だ。追加効果として、氷に最初に触れた物は冷気を移されて氷漬けになる。氷漬けになってしまえば氷塊を防ぐことも叶わずに砕かれるだけである。

 対するウォルターが使ったのは≪大火炎車輪≫。対象の周りに炎の塊を生み出し、高速回転させる事で蒸し焼きにする攻撃魔法(・・・・)だ。ウォルターはそれを自分に使い、そのまま≪魔法化≫で飲み込んだ(・・・・・)

 マキの魔法は広域殲滅魔法。個人相手に威力を集中させているわけではなく、大軍をどうにかする魔法である。ウォルターが対処しなければいけない範囲というのは意外と狭い。ウォルターはまず右腕で自分にぶつかる氷塊に触れ、その熱量で蒸発させる。肌と喉を焼く大量の蒸気がまき散らされるが、高速回転する炎に吹き飛ばされてウォルターの周りは無事である。


 水蒸気が周囲に冷やされ、氷の粒に変わる。

 陽光を受けキラキラと輝くそれの中でウォルターは佇む。

 無論、無傷である。



 兵士たちは声も顔色も失っている。寒さかそれとも別の何かか、歯をガチガチと鳴らしている。

 近くにいた兵が腰を抜かしているが、彼らが悪いわけではない。



「ここまで出来るようになれ、とは言いませんわ。ですが、何かしら掴んで帰ってもらいます」


 笑顔で語るマキの言葉に、返事は無かった。

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