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戦前準備

 マキはダンジョンからの魔力吸収効率を半分にすることで周辺ダンジョンのモンスター発生状況を改善した。


 これによりダンジョンの規模が縮小されたが、そこは元々広大だった高ランクダンジョン。難易度を2段階下げ、【精霊の庭】はランク6相当、【ムーリアリス峡谷】はランク3相当、【コルテスカ地下迷宮】はランク2相当になったが、一応弱体化した同系のモンスターが発生するところまで回復(・・)した。

 ただしランク1だった【オズワルド平原】は消滅したままで、モンスターの発生は認められておらず、今まで刈り取ってもすぐに復活した草が回復したという話が無い。


 数が減ったことでモンスターの活動が大人しくなったことは問題ないと考えられている。探す手間は増えたが、むしろ安全面を考慮すればメリットの方が大きく、好意的に受け止められている。

 逆に【オズワルド平原】の「無限に刈り取れる草」が無くなったのは畜産・燃料関係の不安材料になり、少なくない混乱がチランのあちこちで見受けられた。



 【精霊の庭】だけが機能しなくなると考えていたメルクリウスには頭の痛い話だが、総合的に見れば利益の大きな話だと考え、己を慰めていた。


 特に、マキを支える魔力をチラン近郊のダンジョンが捻出しているという構図はありがたく、ウォルターとマキがチランを優遇する理由として使いやすい。

 もちろん、二人と揉め事を起こしてしまい他のダンジョンを使い潰す方が楽だと言い出し移転される危険性はあるが、「一度与えたメリットをそちらの事情だけで取り上げるのか」という論法を使えばある程度は制限できるし、揉め事を解決する時間稼ぎに仕える。

 そうやって打てる手段があるという無形の安心感が、今のメルクリウスにはありがたかった。





 会議の方も、周辺ダンジョンを攻略するという大枠の方針が決まれば動き方を決めるところまで話が進んだ。


 周辺のダンジョンは2つ。その同時攻略で話がまとまっている。

 出せる戦力とここで鍛える戦力を比例させることでバランスを取り、用意する物資の量で戦後の取り分を決める。

 あとは戦力を二つに分けてから主力となり得る二人、マキとウォルターの分配についてはマキの方をより難度の高い方に回すことですぐに決定した。本人らにも事後承諾であったが了解を取り付け、ここは本決まり。


 ついでに督戦もウォルター達にお願いされた。

 督戦は戦争がどのように推移したかを記録する役目で、論功行賞に大きく影響を及ぼす大任である。

 それだけに賄賂や脅迫に耐えられる人間が選ばれるたり、全ての国からそれぞれ選ばれたりするのだが、今回は中立な立場で誰も無茶を言えない二人に白羽の矢が立った。


「なんで今まで決まらなかったんだろうね?」

「一ヵ所を攻めるのと二ヵ所を攻めるのでは勝手が違うのですわ。兵を分割することで動きやすくなった、そういう事もありますの。

 複数の集団が一所に固まれば誰が主導するかを決めなければいけないのがまず一つ。

 分担されるという事で責任が分散され、押し付ける相手がいるのが二つ。

 最後に、それぞれの国の中でも意見が割れているため、ここで責任ある行動を取れる者が少ないというのが考えられますわ」


 ウォルターはここまで物事を決めていなかった会議が急に予定を決めだした事に疑問を感じた。

 それに対し、マキは指を折りながら理由を説明する。



 複数の勢力が共闘するとき、(軍隊)に指示を出す(司令部)が複数ある状態になる。

 そうなると「船頭多くして船山に上る」といった状態になり、指示が迷走してしまう。

 それを避けようと思えばどうしても責任者を輩出する必要が出てくる。


 その場合、自軍の被害を減らすにしても、自軍が活躍できる場を整えるにしても、最高責任者、軍の総司令という立場は都合が良い。他国の指揮で動く場合、自分の部隊がどのように扱われるか分からなくなるといった不安もある。

 なにより、メンツを重んじる軍人が見逃せる立場ではないのだ。


 また、そういった目立てる立場に対し、物資の供給とは目立つ戦果として受け止められない。

 軍が動くのに食料が、戦うのに武器や防具が必要なのは当たり前。当たり前の事というのは、どんなに重要であっても評価点が低く見積もられてしまう。

 自分たちの食い扶持だけで戦闘に参加させようものなら団結力などにひびが入るため、可能な限り同じ食事をさせたいという話もある。食事の差は士気の差に繋がるので、軽視していい問題ではない。


 だが、その食料を出すというのは簡単な事ではない。前年度も帝都を攻めた為に備蓄は大きく目減りし、人死にが大勢出た事で生産力が下がっている。物資と一緒に運搬用の人員も必要だし、負担が大きくなってしまう。

 結果、他の国にできるだけ多くの食料を出させようと(くわだ)てる事になる。


 そして。

 この場にいるのは国の重鎮であり、少なくない発言力を持つ者たちであり、国から責任を預けられた者たちだ。

 そんな彼らであっても、この場で重要な事を決定するのは彼らの基盤に少なくない影響を与えてしまう。要は、ここでいい結果を出せなかった場合、国に帰った後が大変になるという事。責任を預かった以上、問題が出れば相応に責められることになるのだ。



 誰もがより良い、都合のいい(・・・・・)結果を求めた結果、会議の参加者は烏合の衆と化したわけだ。


 そんな内情を聞いたウォルターは、あまりの危機感の無さに呆れるとともに、そんな彼らの力を借りなければいけない現状に不安を覚える。


「大丈夫ですわ。最悪、私一人で決着をつければ済む話ですし。ウォルは自分が生き残る事を最優先すればいいですわ。今のウォルならかなり戦えますし、生き残るだけなら何とでもなりますわよ」

「そうも言えないよ。出来るだけ人死にを少なくしたいし、死なせない為に頑張れるなら、ちょっとぐらいは手を貸したいんだ」


 不安そうなウォルターに、マキは自分を大事にするよう言い聞かせる。


 しかしウォルターは簡単に頷かない。

 頼りない味方とはいえ、味方は味方だ。出来るだけ死なせたくないというのは嘘偽りない本音だ。

 「全身全霊、命を賭けてまで助けたい」という事は無いが、無理のない範囲で出来るだけ死なせないように頑張ろうと、ウォルターは力なく笑った。



「まぁ、この子も付いて行きますし、大丈夫でしょう」


 マキはそんなウォルターに苦笑を漏らすと、肩の上に居た小さな鼠に視線を向けた。

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