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行動目標

 ウォルターの提案は断られた。

 しかし、断られたのは「チランと手を組むこと」であり、「皇帝を討つ事」ではない。ホムンクルス・カーディアン作成にも協力的だ。


「なら、チラン側にホムンクルス・カーディアンを作る許可をもらうには、どうすればいいか一緒に考えてもらえますか?」


 ならばと、ウォルターは協力してもらえる部分にのみ意識を向ける。

 教皇はそれを面白くないと思うが、それでも信仰は個人的感情を上回る。ふむ、と小さく口にして、己の考えを披露する。


「思うに、ウォルター様が決定に逆らおうとしないと思っているのでは? また、相手へのメリットの提示が出来ていないというのも問題でしょうな。

 まずは御使い様の影響力を高め、相手が発言に気を使うよう状況にすべきでしょう」


 教皇の指摘通り、メルクリウスはウォルターを軽視している。

 重用されていたのはマキであり、それも義理などではなく打算によるもの。マキがいなくなったからと言ってウォルターを冷遇し、その考えを軽んじているのは明々白々。扱いの悪さを考えれば、ウォルターのもつ表層的・潜在的な価値を考えればありえないほどだ。

 扱いが悪ければ主家といえども見捨てるのは道理である。いや、そもそもウォルターはチランに仕えてなどいなかったし、教会所属と考えればある意味チランよりも上に見るべき相手であるのだが、皇帝討伐は神意であると同時に国の決定であり共通の目的のため、ここでウォルターが理も無く全体に不利益が出るような真似をするという考えがメルクリウスにはある。

 このままではいい様に使われるだけ。影響力を持つ事、それはウォルターの立場向上にもつながるはずだ。



 それを言われて、ウォルターは考え込む。

 自分の立場が弱いから、使われるだけで意見を聞いてもらえないのかと。


「立場が上がれば、こっちの意見も通る?」

「その可能性は十分にあります。戦場において新兵の言葉よりも歴戦の勇士の言葉が重んじられるのと同じ理屈です」


 そういうものか。ウォルターは小さく呟き、言われた内容を吟味する。

 つまりメルクリウスの意見を変えるには、自分の後ろ盾となる組織があり、そこで相応の地位にいるという方法で実力を示した方がいいのだと。


 現在、選択肢というか可能性があるのは、目の前にいる“女神の使徒”と連合軍の兵士たちである。チランにいる教会勢力は帝国時代から力を削がれてきた経緯があるので、後ろ盾となるだけの力を持たない。


 “女神の使徒”らの中でウォルターが重要視されているのは当然であるが、これを後ろ盾にするには少し弱い。

 チランと敵対的であることに加え、その戦闘能力には一抹の不安がある。質はともかく、数の面で著しく劣るからだ。また、合流したのがつい最近という問題もある。これは意思の齟齬が大きいままで、考えがかみ合ってくれるとは言い難い。

 ただし、ランク8ダンジョン『精霊の庭』のエキスパートであり、ホムンクルス・カーディアンの作成にも協力的。チランとの交渉が無くとも、いずれ手が必要になることは間違いない。新たな力を得れば、存在感はぐっと増す。

 教皇の側も、自分たちの有用性を考えてもらうためにこの提案をしたのだろう。


 では、兵士たちはどうか?

 彼らに対しウォルターは一定の影響力を持つものの、チランと対立してまで味方するとは思えない。彼らの指揮権はそれぞれの隊長格、後ろにいる国家にあり、国家の思惑が優先されるからだ。

 質で劣る面はあるが、それは今後鍛える事である程度解消する。何より数が多く、対皇帝という面を見れば主力となるのは間違いない。


 と、ここまでは指揮官としての影響力だが、そちらは無くとも問題なかったりする。重要なのは、一人一人の兵士の心情だ。

 兵士たちの好悪というのは、指揮官にとっては無視しえないものだ。また、戦力として見た場合でも、ウォルターの実力は心強く映る。当然、兵士がウォルターの言葉に耳を傾ければ、メルクリウスも無視できないだろう。

 こうなると後ろ盾というより影響力といった方が正しいが、チランが無視できない存在となるにはどちらであっても大差ない。

 ただ、そこまでの影響力を持つには時間が必要だ。それに時間をかけてしまった場合、チラン側に影響力を持たないよう対処されてしまう危険性がある。



 慣れない事を考え続けたウォルターは頭痛を感じ、一度思考をリセットする。

 そして、現状をまとめてみた。


 “女神の使徒”から力を借りるのは絶対条件に思えた。

 精霊魔法を習得している彼らはそのままでも戦力として換算でき、『精霊の庭』に詳しい事も有用性が高い。

 デメリットは数が少なく、チランと敵対的であること。前者はもうどうしようもないので目を瞑り、後者は共通の敵を示すことで強制的にどうにでもする。


 兵士たちについては正義の旗印や指揮官としてではなく、同じ戦場で戦う戦友としての地位を確保するべき。


 兵士からの支持が形になるまで時間が必要なので、“女神の使徒”の協力をまずは前面に押し出し、発言力強化を目論む。ここで協力を得ないというのは、現状維持すら危うい。



 ウォルターは考えをまとめ、一つ目の行動目標を決めた。


「では、貴方達の力を貸してください」

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