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ホムンクルス・カーディアン

 ウォルターは約束の日までの間、勉強をしていた。

 ホムンクルス・カーディアンの顕現は本来であればまだ先の話で、マキからの指導を受けたわけではない。注意事項の伝達すらされていない。ウォルターの不安は大きかった。

 だから勉強して、少しでも不安を紛らせようと必死なのだ。

 幸いにも教本があり、その閲覧を制限するマキがいないため、一人で黙々と同じ文章を繰り返し読んでいた。





 ホムンクルス・カーディアン。

 それはウォルターが出会った魔法使い、アルヴィースが考案した人型モンスター。

 モンスターと分類されるが、外見的な特徴だけでモンスターと判断することは出来ないほど人間を模した存在である。外見に関しては顕現後も年齢変更など、ある程度は調整が可能。

 能力的には製作者の意図でいくらでも調整ができ、基本的には膨大な魔力を活かした戦闘能力が与えられる。その為、魔法特化として運用するのがベストである。

 また、これはホムンクルス・カーディアンに限った話ではないが、その人格面は――



「媒介となる、人間の魂に依存する。か」


 顕現魔法によって現れるモンスターは、現れた時から完成された生き物として動くことができる。与えられた体を十全に使いこなし、自然な存在と同等に動ける。習性なども再現されている。

 そこに個性と言えるモノがあるかどうかは別として、魔封札ごとに、経験を積むことで成長する事は確認されている。魔封札その物の外観に変化はないが、使われた魔核の中に情報が蓄積されていると考えられてきた。そしてそれは間違いではない。ダメージを負ったモンスターを戻した場合、すぐに顕現し直したとしてもダメージまで再現されるのはその為である。時間経過によって癒えるのは傷を負った状態が消去すべき情報として処理されるためだ。

 普通の生き物としてではなく、魔法によって作られた存在。たとえ殺されたとしても一定期間を置けば再び顕現し直すことが可能であるため、死んだことすら経験情報に変える歪な在り方すら肯定する。


 生き物としての自然な行動と、魔法によって作られた歪な在り方。

 ならばそこに「魂」はあるのか?


 ある、というのが答えだ。

 マキには魂が存在し、それは人工的に作られたものではなく、自然に発生した物の残骸、つまりは「死んだ人間の魂」を核としている。

 マキに限らず、一般の顕現魔法は対応する存在の魂を契約により縛り、魔力で受肉させる。作られた肉体は登録された、使われた魔核の肉体を再現する。

 つまり、魂に準拠するような肉体ではない。マキ本来の姿はもっと別なのだが、あれはアルヴィースが考え、作り上げたデザインとなっている。


 普通に生きていた者たちが使役される側に回る事に耐えられるのか?

 定命の者から不変なる者への転身に耐えられるのか?


 これについては「耐える事が出来るかどうか」ではなく「耐えられるものが選ばれる」のだと思われる。長く使われる魔封札の存在を思えば、耐えられねば存在し続ける事が叶わない。

 知性が足りない、そもそも知性が無いモンスターだけではなく、ある程度以上の知性が認められるモンスターで確認されている事実なので、これは一つの確定した事実だ。

 ただしこの事実は一般にはあまり広まっていない。知っていたとしても特にメリットが無いので、経験則で気が付く人間がいたとしても広まらないのだ。それよりももっと実益のある知識が優先して伝承されているのがこの世界の現状である。


 顕現したモンスターが殺されたとして、魂は維持されるのか?


 これは、維持される。

 例え顕現した状態で殺されたとしても、魔封札の魔核部分に蓄積された魔力が大幅に削られ、しばらく使えられなくなるだけで済む。 しかし、魔封札自身に大きなダメージが入った場合はその限りではない。魔封札には核となる部分が存在し、これはその派生である魔封本などであっても変わらない。そこさえ無事なら縛られた魂は無事と言う事で、再度顕現すれば無事に顕現させることが出来る。

 逆に言えば、そこを破損させることが出来れば魂が解放され、二度と修復することが出来なくなる。マキの自壊は修復可能な範囲で最もダメージが大きくなるように設定したモノで、これはちゃんとした計算に則ったものだ。


 なお、マキが魔封本の自壊をできたのは、一種の安全装置である。

 ウォルターが悪に染まった時。

 ウォルターの死後、悪しき存在がマキをいい様に扱おうとした時。

 そういった最悪のケースにおいて自壊できないようでは、時限式の爆弾を残すかのごとく世界を危険にさらす。


「それでも、完全じゃないんだよね」


 ただしその安全装置は自由意思があってこそ、効果を発揮する。

 善悪の判断を下すのに既定の条文など必要なく、正しき考えを持った、時に自壊を選べるだけの冷淡さを持つ心があればいいというのがアルヴィースの考え。

 だから意思を奪いかねないほどの力押しには、さすがに対応できなかった。


「やっぱりメルクリウスに頼み込めるほどの情報じゃないよね。情に訴えかけても無駄だし」


 力によるゴリ押しとは、単純な分だけ対応が難しい。

 例えるなら真正面からぶつかってくる大型の野生動物をその場から動かず止めようとする行為と同じで、防ごうと思って防げるものではない。





 ウォルターは最後まで教本を読み終えると、ぱたんと本を閉じる。

 何度も読んだ本を読み返すのは復習の意味もあるが、それよりも思考を整理するためだ。


「皇帝も何らかの形でホムンクルス・カーディアンになっていると思っていいんだよね」


 皇帝は傀儡兵という、顕現魔法で作った部下を操る。

 それはマキがやっているのと同じで、通常の顕現魔法を扱うホムンクルス・カーディアンの延長線上にある存在の証左とも取れる。


「でも、何か引っかかるんだよね。

 すぐに、自動的に復活した事。傀儡兵を呼び出す範囲の広さ。まるでダンジョンを掌握しているかのような相手。でも、ダンジョン内の情報をどこまで把握しているか分からないけど、ダンジョン内にいる相手を常時監視していないだろうこと。

 本当に、ホムンクルス・カーディアンと同じ? というか、復活?」


 聞いた話だけで類似点が多いように思えたが、違う点は?

 それを考えるのに教本を使っているのだ。

 ダンジョン内に、最下層に「本体」が無かったが、「本体」はどこにある?

 そのヒントが欲しいとウォルターは教本を何度も読み返す。



 初めて行う新しい技術。

 その不安を紛らわせるかのように、ウォルターはいろいろと考える。

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