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マキ、消える

 マキを作ったアルヴィースは、当然のようにハッキング防止用プロテクトを施していた。

 能力的だけを見てもマキはこの世界において異物と言えるほどに異常で、もしも暴走したら、誰かが私利私欲のために使ったらと考えれば、当然の処置である。

 しかしマキは顕現魔法によって顕現するモンスターの変種にすぎないのもまた事実。であれば皇帝の制御権書き換えの罠が有効であることも事実で、如何にプロテクトに守られているとしても、暴力的なまでの魔力さえつぎ込めば、力押し(・・・)で何とでもなるのもまた、動かしがたい事実となるのだ。


 アルヴィース唯一の想定外。

 それは高ランクダンジョンの魔力を自在に操る存在がいる事であった。



「詰みましたわね」


 状況を把握してしまえば、マキの焦りはリセットされる。

 自信を内側から書き換えようとする力に抗う気配はあるものの、その対抗能力は書き換えに比べてあまりに小さい。言うなれば時間稼ぎに迷宮を用意したら、壁を壊して突き進まれているようなものだ。相手の破壊力(まりょく)に比べ迷宮(ぼうへき)(まりょく)が薄いのだ。

 「壁を壊す」というプロセスの分だけ時間を稼いでいるが、それも持って数分。それまでにマキはやるべきことを終えなければならない。

 その覚悟を、マキは決めた。


「申し訳ありませんが、この場は任せますわ! ワタシはウォルの所に戻ります!!」

「了解であります! この場はお任せください!!」


 相手に強いたはずの自決を、逆に強いられる状況を受け入れる。

 このまま皇帝の言いなりになるなど、マキのプライドが許さなかった。

 この場で自爆するという手段もあるが、それでは根本的な解決にならない。だからウォルターの所にある自分の要たる魔封本を破壊せねばならない。


 状況を理解しているわけではないが、任された兵士は「手柄を立てろ」「お前たちだけでも十分だ」と言われたと解釈し、威勢良く返事をする。

 マキの見立てでは多少苦戦するだろうが、敵の戦力は何とかなるであろう範囲である。


「≪閃光(ライトニング)ジャベリン≫≪魔法化≫≪雷神(ケラウノス)ジャベリン≫」


 マキは周囲の建物よりも高いところまで跳躍する。

 視界にウォルターのいる建物が映し、≪魔法化≫で体を雷に替えるとそちらに向けて一直線に飛翔する。

 事前に≪閃光槍≫を使ったのは自分の通り道を作るためである。体を雷に替えるというのは下手をすれば地絡してしまい、自爆する恐れがある。それに大気中を雷状態で進むのは多大なエネルギーを必要とする。なので先に≪閃光槍≫を使うことでプラズマの道を作ったわけだ。


 マキは一気にウォルターの近くまで進むと、≪魔法化≫を解除して地上に降り立つ。

 そして建物に入るとウォルターのところまで一気に駆け上がった。





「あれ? マキ?」


 マキが戻ってきたことで、ウォルターは『軍勢顕現』を解除した。

 マキが戻ってきたことを事態が終息したと判断したのだ。軍隊鼠からは未だに元総司令の反応があるが、これは生きたまま捕えたのだと理解している。


「思ったより早かったねぇ」


 ウォルターは少し気が抜けたように弛緩した表情を見せる。

 先ほどまでの『軍勢顕現』でずっと集中することを余儀なくされていたので、その反動で緩くなってしまったのだ。

 が、今も侵略(ハッキング)を受けているマキの表情は厳しい。

 それに気が付いたウォルターは不思議そうな顔をした。


「え? どうしたの?」


 マキは言うべき言葉を頭の中で組み立てる。

 あまりショックを与えないようにと考えるが、どう伝えても無理だと途中で諦めた。時間が無く、焦りから余裕を失っている。


「ウォル。落ち着いて聞きなさい」


 ここで一拍置く。


「先ほど、皇帝の罠にかかりましたわ。ワタシはもう助かりません」

「え?」

「ダンジョン奥で聞いたモンスター奪取の罠ですわ。現状では防ぐ手立てがありません。よって物理的に止める事にしますわ」

「ちょ、ちょっと待って!?」

「待ちません。いいから聞きなさい。

 ワタシの魔封本を一部損壊させて顕現を解除します。修復すれば復帰も可能ですわ」


 状況を把握しきれずにウォルターは抗議するが、マキは聞き入れない。

 ただ、このままいけばマキが死んでしまう(・・・・・・)と思ったところで「復帰も可能」と言われ、多少の落ち着きを取り戻す。

 が、それもすぐに吹き飛んだ。


「最低でも皇帝の撃破まで復帰を禁じます」

「そんな!?」

「代わりに、練習用のホムンクルス・カーディアンを顕現させなさい。最低でもランク4以上のダンジョンを潰せば、ハッキングは防げるはずですわ」


 このハッキングの影響が自分の魔封本にどのような影響をもたらすか、マキにも判断が付かない。

 復帰したはいいが、そこからまたハッキングされるかもしれない。魔封本修復から顕現までの間にハッキングされては無防備な所を狙われる事になるし、そのリスクを背負うことは出来ない。


 マキがいなくなればウォルターが無防備になってしまうリスクも存在するが、それは後輩(・・)に任せる事でマキは妥協する。後輩の性能は未知数だが、同じ制作者であるアルヴィースの制作物なので何とかなるだろうと悔しさを捻り臥せる。

 ハッキングに関しては魔力量の差が問題なのであって、それは高ランクダンジョンを潰すことで対処可能。現在マキを襲う感覚からの逆算になるが、ランク4以上を指定しておけば何とでもなると、余裕を見て判断する。


 伝えなければいけない最低限の情報をウォルターに伝えると、マキは収納袋から自身の魔封本を取りだす。元総司令の情報に付いてはあとで兵士が伝えるだろう。


「子供はいつか独り立ちするものですわ。ウォルは、それが今日だっただけ」


 マキは自分の体の構成に関するページを選び、手に力を入れる。


「マキ! 待って!!」

「あとは自分で考え、動きなさい」


 そして、ページが破られた。



 マキの身体は魔力に変換され、光の粒子となって砕け散る。

 自爆ではないので周囲に衝撃波をまき散らすようなことは無く、静かに、だが圧倒的な光の奔流となって消えていく。


 ウォルターは何が起こったのか分からず、マキがいた場所に向けて手を伸ばした。

 しかし、光が収まった時にはもう、そこには誰もいなかった。

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