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その胸を貫く

顕現せよ(マテリアライズ)、『軍隊鼠(レギオンラット)』」


 ウォルターはその場に残り、『軍隊鼠』の顕現を行った。

 その数は数千と、1人が顕現したとは思えないほどである。その制御のため、ウォルターは完全に身動きできなくなった。

 その動けないウォルターを守るために、その場にいた兵士たちの過半数は護衛に回ることになった。


 ウォルターが顕現した軍隊鼠の数は多いとはいえ、ミスリムの街は広い。ウォルターは現場を中心に数100mを掌握するけれど、全域をカバーできるわけではない。一般の兵士たちにも招集がかかり、広域警戒網が敷かれていく。

 そして、逃げ出していた(・・・・・・・)元総司令の姿が発見され、ウォルター指揮のもとマキはその追跡をするのであった。





「こっちですわね!」


 ウォルターは元総司令を発見すると、軍隊鼠たちの顔を元総司令の方に向けさせた。

 それによりマキをはじめ、周囲の兵士たちが包囲網を敷き、追い詰めていくという構図ができあがる。


 元総司令はいつの間にか仲間と合流したらしく、複数で動いている様子。

 被害無く取り押さえる――いや、もう殺してしまう為に、兵士たちは顕現魔法を使用する。マキは顕現するモンスターよりも本人の戦闘能力が高いため、顕現魔法の使用を選ばない。ただし後の事を考え、兵士たちに決着を付けさせるよう、マキはあくまで保険として監督を務める事にする。


 モンスターたちが元総司令に襲い掛かるが、元総司令は建物を上手く使い戦闘を避けるように逃げていく。

 それでも包囲網が狭まれば隙が徐々に無くなり、元総司令らはどんどん追い詰められていく。

 捕まるのは、殺されるのは時間の問題。

 そんな逃亡劇を幾度か繰り返したところで、元総司令は逃げるのを止めた。



(やはり、そう動きますかな!)


 逃げていた相手が、足を止める。

 外部からの手引きがあったとみられる現状で、そんな行動をとられれば罠を警戒するのは当然である。兵士たちはモンスターを主軸に据えることで「食い破る」ことを選び、マキは元総司令が向かっていた方の、少し離れたところで後詰となる。


 全て、元総司令の思惑通りである。


 再顕現された元総司令。

 正体がバレてしまうのなら、せめて相手に最も大きな被害を出すためにどう動くべきかを考えつづけた。

 結果、出した答えは「マキを潰す事」だ。

 もう一人の厄介な相手、ウォルターは『軍勢鼠』の維持により遠く離れる。

 兵士たちだけで十分であろう任務だが、ダンジョンから離れたと思われている現状なら、被害を抑えるために大駒・マキを投入するだろうと元総司令は考えた。


 皇帝の使う特殊顕現、『皇軍侵攻』はダンジョン内に自在に兵士を顕現する強力な顕現魔法だが、万能ではない。皇帝が指揮官を指定して兵士を顕現させるための能力を与えることはできるが知識などの共有はリアルタイムで行われず、指揮官が顕現した個体の能力は判断力などを含め一般の兵士レベルに落ち着き、その行動は各個体の裁量に任せられる。

 姿だけを似せた再顕現による情報の喪失は痛手であったが、命令として「特定地点を目指す事」「マキをそこに誘い込むこと」だけ指示して行動を起こしたのだ。自爆などで周囲を騒がせ、思考する時間を与えないことで行動を絞る。半ば運に任せた部分もあったが、元総司令は賭けに勝った。

 顕現魔法によって顕現したモンスター相手であれば、絶対に勝てる罠にはめる事で。



 包囲していた兵士たちは油断するつもりなどない。

 まずは半殺し――もちろん死んでも構わないレベルの攻撃を行い、生きていれば連れて帰ればいいという考えで攻撃を開始した。

 元総司令とその付き人然とした仲間たちは、その猛攻の前に呆気なく消えていく。

 その光景に、ようやく自分たちがナニ(・・)を相手にしていたのかを悟る兵士たちとマキ。


 だが、それを理解するには遅きに失した。

 最悪の可能性を、想定できなかった。

 だから――



「ワタシにハッキング!? 嘘ですわ! マスターのプロテクトが!!」


 皇帝が本陣たる最奥に用意した「モンスター奪取の魔法陣」。

 そこに踏み込んでいたマキは己の迂闊さを呪った。


 罠があるとは思っていたが、皇帝の関与を疑っていなかったこと。

 ここが街中であり、ダンジョン外と思っていたこと。

 どちらも間違いである。


 自分たちが敵対している勢力として、最初に想定すべき相手は?

 皇軍の兵が人に紛れ込めないと、何故考えた?

 かつてこの街に住んでいた住人は、どうやって連れ去られた?

 そもそも、ダンジョンとは地下だけではなく地上にだって存在する。なのになぜ、ここがダンジョンではないと判断した?


 全ては手札を隠していた皇帝側の策謀。

 ここで切り札とも言える秘密を明かすのは想定の範囲外であったかもしれないが、完全に騙された形である。

 罠はすでに発動し、マキを捕えている。


(まだ猶予はありますわね)


 自分の根幹を作り替えられるような嫌悪感に侵されながらも、すぐにそれが終わるわけではないと感覚だけで理解するマキ。

 残された時間は、あと数分。

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