自爆
顕現魔法のモンスターを自爆させるのは、はっきり言ってあまり意味が無い。
爆発は威力が弱く、モンスターにダメージを与える事など出来ないからだ。精々、わずかなスキを稼ぐ牽制に使えるかも、程度である。ある程度大きなモンスター、木の巨兵のような3mもの大きさを誇るモンスターであれば、仰け反る事もしないのだ。だというのに、自爆した後の魔封札はしばらく使えなくなる。
ただ、実用性は無くとも、「自爆出来る」ということぐらいは知っている。どちらかと言えば「自爆させてしまう」と行った方が正しく、顕現魔法の失敗例の一つとしてだが。
ある程度、元になる知識があれば何が起きたのかを把握することはたやすい。気が付いた兵士と情報を共有化し、元総司令が偽物で、今回の騒動が皇帝によって仕組まれたものだと気が付いた一同はすぐに現総司令、リオンの所に報告しようと駆けだした。
だが、それは叶わない。
彼らは駆けだそうとしたところで足をもつれさせ、床に倒れ込んだ。
(な、にが……)
倒れた兵士は呻くように口を動かすが、それは言葉にもならない。
自身に何が起きたのかも理解できず、そのまま気を失うように永遠の眠りに就いた。
その時何かが起こったことだけは、外にいる他の兵士が気が付いた。
牢のあった施設はある程度の広さを誇っており、当然だが兵士は死角を作らないようにと配備されている。牢を直接監視している兵士はあの場にいただけであったが、その周囲にだって兵士はいた。そして爆発など起これば気が付かない方がおかしいのである。
「どうした!? 何があった!?」
「配膳に行った者たちが倒れている! 至急、医療室の準備を!! それと誰か司令部に報告をしてくれ!!」
「分かった!!」
牢の近くにいた兵士、彼らは倒れている同僚の姿を確認すると、助けるために近寄る者と、報告と治療の為に戻る者の二手に分かれた。
そしてそれが彼らの命運を分ける。
「ぐっ……?」
「から……だ、が………………」
倒れている仲間に近寄った兵士は自身も同じ様に倒れ、しばらくするとそのまま息を引き取る。彼らもまた、毒の影響を受けてしまったのだ。
しばらくして、仲間を引き連れた兵士が戻ってくる。そして自分たちがいなくなった間にしんでしまった、新たな被害者の姿を目にした。
「馬鹿な!? さっきまで、生きていたのに……」
「よせ、近寄るな! 離れるんだ!!」
突然の事で混乱する兵士が倒れた仲間に駆け寄ろうとするが、それを他の兵士が押しとどめる。
助けに行った者が同じように倒れているのだ、何かあると思って間違いないと判断したからだ。
「顕現せよ、戦狼」
ただ、何もしないで放置するわけでもない。近寄るのが危険であれば、やられても問題の無いモンスターを使って周囲を確認すればいいのだ。
戦狼は死体の近くをうろつくと、周辺に毒がばらまかれている事に気が付いた。まだ毒は周囲の空間に漂っていて、近寄り、呼吸してしまえば絶命するような状態だった。
元総司令は、体内に取り込んだ毒を自爆することで粉々にして周囲に散布したのだ。
粒子の細かい粉塵というのは、数時間にわたって大気中で漂う。風でも吹けば飛散し、薄まり、無害になるのだが、生憎ここは窓一つない牢獄である。保存された状態が漂う毒を保護してしまったのだ。
戦狼はそのまま周囲を確認するが、ついでで集められた死体の中に元総司令の死体だけは見つけられなかった。
「元総司令殿の死体だけ無い? 一体どういう事だ?」
「分からん。とにかく上に報告し、指示を仰ぐべきだ。」
「脱獄の線は無いか?」
「無理だな。ここに来るまでには隠れる場所など無いし、一本道。我らに気が付かれずに出ていくなど不可能だ。壁を壊した跡もないし、これはもしや……」
当たり前だが、牢は脱獄をしにくくなるような構造をしている。牢そのものがある部屋から外に出るには長い通路を通らねばならず、その途中に隠れる場所など作っていない。また、人間だけでなくモンスターにも警備を行わせているため、並大抵の腕前では突破もできない。
そうなるとどうやっていなくなったのか。
それが分からない兵士は上の者に報告し、すぐに指示を仰ぐことに決めた。
「もしかして傀儡兵だった……? いや、まさか……」
居なくなった理由に仮説を思い浮かべる兵士。
だが彼は決定的な答えを思い浮かべることはできてもそうだと断言することは出来ず。
悶々とした思いを抱えたまま、ウォルターらが来るのを待っていた。




