表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/208

助けるということ

「バグズさん? あー、あの人はねぇ――」


 マキはウォルターが暴れた現場に顔を出してみたものの、尋ね人(バグズ)がおらず、しょうがないので周囲の聞き込み調査を行う事にした。

 得られた情報は、クーラがバグズの妹に振られ、バグズ一家に嫌がらせをするようになったという話だった。クーラはこの町で一番の商人の息子で、商人としてはかなり有能らしい。半面、人間的にはあまり好かれておらず、暴力で物を解決することが多い。町の兵士には鼻薬を嗅がせており、多少の事では捕まらないのだという。


「助けたいとは思うけどね? うちらだって、自分の身が可愛いんだよ。下手に関わって巻き込まれらと思うと、とても助けられないよ。おじさんにも家族がいるからね、軽率な真似は出来ないんだ。でももしあんたらがバグズ坊やを助けてくれるって言うなら、おじさん、ちょっとぐらいはオマケするよ?」



 一通り話を聞き終えたマキは「典型的な悪役ですわね」と見も蓋も無い感想を抱き、どうしようかと思案する。


 分かりやすいのは、この町の領主を味方につける事だ。賄賂を貰うにしても、「クーラの悪事を見逃す」から貰うのではなく「悪事を働いたクーラを助けるため」に貰う方が得だと説得するのだ。この二つの違いは、クーラを法的に裁こうとするかどうかである。前者は領主が共犯者で、クーラは犯罪者にならないのでクーラの経歴に傷がつかず法的な罰則が無い。後者は領主はクーラの上司となり、クーラが犯罪者となるため経歴に傷がつくが法的な罰則が無い。要は「クーラを一回犯罪者にして心を折り、上下関係を刷り込んだ方がいいのでは?」と領主が思えばいいのだ。そうして、勝手なことができないよう鎖を付ける。

 ただ、この案はクーラではなく、クーラの実家である商会の勢力権力財力がどの程度か分かっていないと不味い。下手をすると、クーラの実家が領主よりも権力があったりするからだ。そうなると、領主を使う案は事項出来ない。

 また、確実に効果があるかどうかが分かり難いというのもある。クーラが首輪が付いても己の感情を優先する馬鹿であれば効果が無いのだ。

 マキはある程度考えをまとめると、一旦保留にした。


 他に思いつく手としては、謀殺である。暗殺ではない。暗殺がダメな理由は、バグズが犯人になりかねないからだ。殺すなら、誰が犯人か分からないようにするのを前提に、バグズでないと分かるような殺し方が望ましい。具体的には魔法による超長距離射撃だ。魔導書を内包するホムンクルス・カーディアンたるマキになら、それができる。

 この場合は、ウォルターがそれに納得するかどうかが問題となる。あとくされが無く確実性のある方法だが、人としては落第点である。

 しかしマキは「これから先も似たようなことはあるでしょうし、早めに経験するほうがいいですわよね」と、この考えの優先順位をさきほどのものよりやや上にして保留した。


 いろいろと問題はあるだろうが脅迫(おはなし)するというのも選択肢である。

 相手の弱みを握るか、それとも武力で脅すか。殺しも無ければ犯罪行為でも無い。非常にクリーンでスマートなやり方だとマキはその考えをいったん頭に思い浮かべ、却下する。

 やるのは簡単だが、心変わりするのが人間だ。話し合いを(きょうはく)して一時的に納得させたとしても、マキたちがいなければいずれ暴走するかもしれない。

 マキはどうせ助けるなら堅実で安全な方法を、と、言葉による解決を諦めた。



 ここまでの考えを数秒でまとめ上げ、マキはウォルターの方を見た。

 バグズの話を聞いて、ウォルターはやる気を出し始めていた。理不尽な理由で虐げられるバグズは、ウォルターには仲間の様なものだと感じられたのだ。

 色恋沙汰のどうしようもなさを知らないウォルターにしてみれば、振られたのだったらさっさと次の誰かを相手にすればいいと思うし、相手にも感情がある事を考えれば振られる「ぐらい」で怒る方がおかしいのだ。告白するとは、自分の気持ちを伝えた後に付き合えるかどうか、相手に委ねるという事。だとすれば振られる可能性は、最初から存在している。振られるのが嫌なら振られないようにすればいいだけだし、その努力を怠ったクーラが悪い。

 そのように感情を伴わない論理のみでバグズを助けると決めた。



 二人はバグズの家の場所を聞き、直接話をしてみるかを検討することにした。


「直接話せば相手に関係を疑われますわよ。となれば善意の押し付けをするべきですわ。不要なリスクを背負わせるわけにはいきませんもの」

「助けたいけど、助けを求めてない人をどうこうするのは嫌かな。一回ちゃんと話をして、相手にも覚悟を背負ってもらった方がいいと思う」

「相手は引っ越しの出来ない農民ですわよ? 旅人のワタシ達とは違って、何かあってもこの土地で生きていかねばなりませんの。重ねて言いますが、不要なリスクを背負い込ませるべきではありませんわ。助けるなら完璧を目指しなさいな。自分の納得のために他人を不幸にするようでしたら、貴方の存在こそが理不尽になりますわよ?」

「でも……」


 最初、ウォルターは何も考えずにバグズの所に行こうとした。

 しかし、マキはそれに待ったをかける。バグズの所を訪ねれば、人に見られる可能性がある。それはクーラと揉めているバグズにとって、不要な危険を招きかねない。もしクーラを排除するときにバグズが傍に居らずとも、人を雇ったと思われかねないのだ。バグズを助けること、クーラがバグズにちょっかいを掛けることができなくするという目的を考えれば、会わない方が正解だ。会う必要など無い。

 ただ、ウォルターはバグズのためを思って行動したいと考えている。そしてその願いはバグズに直接聞かねば分からない事であり、もしかしたらバグズとクーラの間には余人には分りかねない何かがあり、安易に排除することが正解ではない可能性も大いにある。望んでいることをすべきだと、ウォルターはマキに反論する。


 どうしましょうかね、とマキは思案する。

 ウォルターの言い分にも、一応筋が通っている。

 二人の差は、勝利条件を「クーラがバグズに手を出せないようにする」とするか、「バグズの願いを叶える」とするかの差だ。

 マキは一瞬迷ったが、そもそもウォルターが助けたいと思っているのであって、マキ自身には何ら関係の無い話だと、最悪切り捨てる事にした。よって、ウォルターに考えに任せる事にする。


「ワタシは忠告しましたわよ。精々、ウォルがバグズを殺さないように気を付ける事ですわね」

「分かりました。最大限、努力します」

「そこは「最高の結果を出して見せます」ぐらいは言って欲しかったところですわね。努力など関係なく、結果を出しなさいな」

「うぐ。分かりました……」


 マキは肩をすくめると、苦言を呈する。

 対するウォルターはどこか自信無さ気となった。とてもこれから人を助けようという風には見えない。

 自分でも無謀かなと思い出したところに釘を刺されたことで萎縮してしまっている。また、このようにマキに反論してしまった事で、いざという時の助けを得られないかもとネガティブな考えに陥りかけている。

 助けるのに成功するか失敗するか、どちらにせよマキが最終的にフォローするのはマキにとってすでに決定事項だったりするのだが。最初からアテにされては成長を促せないとマキは少し厳しく当たっている。


 二人はバグズの家の場所を聞き出すと肩を並べて歩いて行った。

 周りの人間は、明らかに怪しい二人をそれとなく観察していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ