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情報共有

 ウォルターの活躍もあり、正面の敵は援軍要請から10分とかからず殲滅に成功する。

 運良く(?)皇帝はマキの方にご執心であり、ウォルターの側には増援が無かった。よって、兵士たちは敵を警戒しつつも合流を優先して移動を始める。


 ウォルターはそのまま踵を返して後方の援護に向かう。早くしないと手遅れになるかも、と駆け足だ。

 ただ、先ほどまでの戦闘で全力に近い戦闘をしたウォルターの残り魔力は心許ないところまで消耗しており、撤退の支援と被害の軽減以上の働きは出来ないかもと、内心で(ほぞ)を噛む。追撃を仕掛けてくる皇軍を殲滅するのは難しい様子だ。

 だというのに増援に沸き立つ兵士たちは「ウォルターが何とかしてくれる」と期待に満ちた表情をしていて、それがウォルターへのプレッシャーとなってしまった。


 ウォルターはその視線に応えるように獅子奮迅の働きを見せ、到着から間もなく殿にいた者たちを無事救い出す。

 そのために、もう一戦する気力など残らないほど力を振り絞って。





 殿にいた部隊はほぼ壊滅し、ウォルターが駆け付けるまでに200を超える死者を出してしまった。

 人間の軍というのは組織的な戦いこそが強みだというのに、恐怖に駆られてまともに戦えなかったものが多かったのが痛い。死者のほとんどは、逃げ出して背中から斬られてしまった者なのだ。


 最初は1000人で組まれた先遣隊。

 しかし皇帝との戦いで半壊し。

 ここで気まぐれのような襲撃に遭いトドメのような被害を出して。

 生存者は半分以下、生き残ったのは怪我人ばかりで無事な者など数えるほどしかおらず。

 戦うための気力など、どこにも残ってなかった。


 そのまま中層エリアに向かい、先遣隊は後続部隊と無事に合流を果たす。

 後続部隊のいた中層エリアには皇軍が出現しておらず、ようやく安全な場所に辿り着いたかと先遣隊は安堵の息を漏らす。

 力を使い果たした先遣隊の様子に驚いた後続部隊であったが、仲間を助けるためすぐに動き出す。傷ついていれば手当をして、疲れた者の為に横になれる場所を提供する。食事を作り、鍋を囲んで情報の共有を行う事になった。



「――と、いう訳です。

 皇帝に攻撃は通用せず、周囲の皇軍もまた、並みの攻撃では傷つける事すら難しい。逆に相手の攻撃は鋭く、金属の鎧すら切り裂くなど悪夢としか言えません。

 ウォルター様の援護なくして、この先を生き延びるのは難しいでしょうな。

 それで――」


 総司令の副官が集められた隊長クラス全員に聞こえる声で説明を行う。

 出だしは何があったかの説明に始まり、敵の規模や行動パターンなどから支配欲に凝り固まった者と言うよりは研究者気質が強いと思われ、戦闘の有利・不利よりも実験などを優先するのではないかといった予測へと説明は移る。そして得られた情報を自国へ確実に持って帰るために手紙の形で全隊長が保管するとなり、果てはここから出た後の予定へとつながる。

 説明が冗長であったようにウォルターは思ったが、前半部分はともかく後半部分、特に地上に出た後の話に付いては、士気の維持が目的だ。今後の話をすることで未来への希望を見失わずにするよう、やるべきこと、先々の目標を明確にするためである。「自分たちにはやるべきことがある」という思いは人を無力感から救い出す一助になるからだ。逆に自棄になってしまう場合もあるが、自棄になってしまう手合いにはそもそも何を言っても無駄なので、この場にいるような意識の高いものにはちゃんと効果がある。たまに煮えた干し野菜などを口にしつつ、言われた内容を覚えていく。


 全ての話し合いが終わり、半数の隊長クラスがようやく休憩に、残る半数が就寝しようかという所で周囲が騒がしくなる。

 聞こえてくる声に耳を澄ませれば、何があったかはすぐに分かる。

 ようやくマキが戻ってきたのだ。

 皇帝の攻略法を含む、多くの情報と共に。



「――以上ですわ。何か質問などはありますかしら?」

「無いです」

「ありません」

「……書くことがいっぱい、ですねー」


 さすがにこれ以上、隊長達を拘束しておくのは良くない。総司令と大隊長のみがマキの報告を聞き、中隊長たちは先に解散した。


 総司令の副官はまとめておく文章量に気が遠くなり、思わず涙目になる、今は部下たちとともに報告書の作成を行っている。


 残るメンバーは、「何度も復活する皇帝」「マキですら貫けない防壁」という、聞きたくなかった情報に頭を抱えた。「マキ式・皇帝の攻略法」という、難易度の高い攻略法も頭を抱える一助となっている。倒す算段が付いても、精霊魔法抜きで実行するのは相当難しいのだ。そして初級から下級にランクアップしたばかりのウォルターの弟子がそれを再現するにはまだ時間が必要であった。

 それに、マキだけが戦闘した皇軍の兵種に付いても対処できるようにならねばいけない。が、対処できるようになったとしても、相手がそれに対策を取っている可能性すら考慮しないといけない。

 自然と、話し合う者たちの空気が重くなる。



 話し合いはそのまま解散となり、具体的な行動方針はマキが来る前に決まった通りとなる。


 ここまでの戦いでさすがに疲れたのか、ウォルターとマキは与えられたテントで横になった。

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