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ウォルターの助けるという事

 固まった男二人を前に、ウォルターは戦略的撤退を決める。

 置き土産という事で身なりのいい男、貴族もどきのクーラに向けて小石を蹴っておく。石はズボンの上から急所に当たりクーラを悶絶させた。狙っての事ではないが、クーラは股間を抑え、顔面から地面に崩れ落ちた。

 ウォルターの置き土産は早業だったため何があったか群衆にはわからず、クーラが倒れた理由が不明という事もあり辺りは騒然となった。

 場が混乱したことでウォルターは捕まることなく逃げおおせた。



「貴方は馬鹿ですの、ウォル?」

「ごめんなさい」


 町の路地裏。人気のないところでウォルターとマキは合流した。

 マキにしてみればそのまま露店の通りで話をするつもりだったのだが、ウォルターが無理を言って連れ込んだ形だ。マキは「いったい何事ですの?」と頭にはてなマークを浮かべた。


 町の兵士に捕まる前に逃げおおせたウォルターであったが、旅の共であるマキから逃げることはできない。

 黙っていてもバレる可能性が高いというより、そもそもマキに失敗を隠すという発想の無かったウォルターは露店で起こした騒ぎについてマキに一通り説明した。


 マキは大きく呆れたものの、たいして怒ってはいない。ただし、同じようなことを繰り返させないようにするためにも表面上は激怒しているように見せていた。

 マキが怒っていない理由は、ウォルターには貴族などの「偉い人」への遠慮などがあまりなかったからだ。本来なら親や周囲の大人が教えていくので自然と貴族に敬意を払い敬うようになるのだが、ウォルターにはそんなことを教える人間がいなかった。知識として敬意を払うべき相手と「知ってはいる」が「実際に敬意を持っていない」からだ。

 ウォルターは偉い人といつか問題を起こす、できれば大都市チランに着く前に済ませてほしい。マキはそう考えていた。正直なところ、早めに通過儀礼を済ませてくれてよかったとさえ思っている。ここで問題を起こしても逃げれば何とかなるだろうが、チランに行って大貴族と問題を起こせば洒落にならない。終の棲家が終焉の地になってしまうのだ。できればそれは避けたいところである。


「もう、二度としませんわよね?」


 これを教訓に、次からはもう少し自重させる。マキはそう考えて念を押す。

 が、ウォルターは返事をしない。いや、できない。

 ウォルターにしてみれば反射的に動いてしまったという面はあったが、同じ場面で同じように動くという自覚がある。だから「分かりました」と嘘を吐くのを躊躇っている。


 食に困ることの多かったウォルターに、食べ物を粗末にする人間を許せるはずも無く。

 師と仰ぐ人間への誠実さを持つウォルターに、ごまかしでその場を収める気も無く。

 ただ縮こまって謝意を示すだけだった。


「こういう場面で、ワタシが何に怒っているか分かっていませんわね」


 マキは少し考えると、小さくなっているウォルターに語りかけた。


「ワタシが怒っているのは、「問題行為をしたこと」ではありませんわ。「問題行為がばれた事」に怒っているのです。いいですか、ウォル。バレなければ大丈夫ですの、こういう事は。せっかくの顕現魔法、せっかくの精霊魔法。こんな場面で活かさなくてどうしますの。力を得て、それを上手く使う。大事なのはそういう事ですわよ」


 マキはモラルの欠片も無いセリフを言い出した。

 実際のところ、マキは人命尊重だとか他人の権利などに頓着しない。それらに価値を見出していないからだ。

 ついでに上手く立ち回るための思考を身に着けるよう、ウォルターの成長を促す。社会的なルールを守らせたところでいいことは少なく、社会的に上手く立ち回る事こそ重要。それがマキの基本的な考え方だった。


「では、どうすれば良かったでしょうか?」

「風でも吹かせれば吹き飛ばせますわよ? 足元を揺らしてもいいし、ウォルの目的、「玉ねぎを守る」だけならもっといい方法などいくらでも思いつきますわ。目的に合った対処をしなさい。願うような未来を作るための行動をしなさい。無駄に敵を作ることは馬鹿のする事ですわ」

「はい、分かりました!」


 マキの教えに、ウォルターは素直に返事をする。

 マキの言っていることの結果はウォルターのそれと大差ないが、身バレのリスクを考えれば確かに安全策である。結局は暴力的解決という、社会的にアウトな方法を教え込む。



「そう言えば、ウォルはその商人の男を助けたいんですの?」

「え? うーん、どうでしょう?」


 ついでなので、マキはウォルターがバグズを助けたいかどうか確認することにした。というより、助けるものだと思って質問した。

 が、帰ってきたのは煮え切らない言葉。「人助けをしたい」と言っていたわりにはどこか迷いのある反応だった。


「「理不尽に虐げられている」というなら、貴方の助けたい人という対象になると思うのですけど? 一体なんで助けようとしませんの?」

「相手の事情を知らないからです。助けられるかどうかも分かりません。助けるかどうかは、話を聞いてからだと思います」

「意外と、考えてますわね」

「さっき言われた事ですから」


 驚いた風のマキに、ウォルターはあいまいな笑みを浮かべる。

 ウォルターにしてみれば、虐げられた人を助けたい、バグズを助けたいという思いが無いわけではない。だが、下手に手出しして状況を悪化させるというのも考えられるし、何より相手が助けを必要としているかどうかも分からない。もしバグズが「助けなどいらない」と言ってしまえば余計な手出しでしかなく、それはウォルターの望むことではない。最低ラインとして、本人が助けを求めていることを確認しなくてはならなかった。


「では、その商人に話を聞きに行きますわよ。念のために変装しなさい」

「変装、ですか?」

「服と髪型を変えるだけで構いませんわ。大体の人間はそれだけで誤魔化せますもの」


 元の場所に戻ってバグズから話を聞くことにした二人。

 ウォルターは先ほどまでの旅装から一般着に着替え、マキの方もストレートにおろしていた髪をポニーテールに変更。メイド服を目立たない服に変更して露店通りに戻る。


 しかしバグズはすでに店をたたんでおり、戻ったウォルターたちは空振りすることになった。

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