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撤退

 マキがいなくなって10と数分後。皇帝イーヴォは土の中で窒息死して、再び顕現し直した。


「おや? あの娘がおらぬではないか」


 復活するたびに攻撃して来るマキがおらず、イーヴォは周囲を見渡した。


「入り口が潰されておる。まぁ、どうでもいいがな」


 イーヴォはすぐに獣人兵を呼び出すと、削掘作業にあたらせる。通常のダンジョンは時間経過による自動回復が見込めるが、イーヴォが支配しているこのダンジョンはそれが無い。ダンジョン側に魔力が供給されていないので、ただの洞窟や地下建造物でしかないのだ。

 よって修復は人力でしか行われず、兵士に任せるしかない。


「10分程度しか経っておらぬから……神殿全てを兵で埋め尽くせばよいか。適当に襲わせ、死んだ者が出れば、そこに居るという事だな」


 イーヴォはダンジョン全域を支配しているわけではない。ピンポイントに、敵がいるところだけに兵を顕現するという事は出来ない。ただし、ここに来るまでの最短ルートを把握しており、やろうと思えばその最短ルート――つまり、討伐軍が通ってきたルートと設置された休憩所――を兵で埋め尽くすぐらいは可能である。

 今回はマキにのみ関心が行っているので、マキのいるであろう下層である神殿に皇軍顕現を行う。


「さて。見つけた後は、どうやって遊ぼうかなぁ」


 正直なところ、先ほどまでの戦いでイーヴォはずいぶん魔力を削られた。兵士を呼び出すのに比べ、自身が殺されるのは消耗が激しいのだ。8回も殺されれば半分とは言わないが、3割は削られていた。マキがあのまま戦い続けるのなら、わざと顕現し直さないという選択肢も視野に入れていたが、イーヴォにとって幸いな事にマキは自分から撤退した。

 顕現し直さず、身を潜めてやり過ごせば何とかなったかもしれない。しかし、そのような事をすればプライドが傷つく。マキの撤退はそういう意味ではありがたいが、それを認めるのは癪に障る。やられてばかりでやり返すことが出来なかった事も不機嫌に拍車をかける。

 複雑な心境の中で不敵な笑みでも浮かべようとすれば、自然と行動は嗜虐的な方向へ向かう。要するに、イーヴォは安全な場所が確保できたので、今のうちに嫌がらせを行おうというのだ。

 倒せるとは思っていない。ただ、一方的に攻撃したいだけである。それに、倒せはせずとも消耗を強いることができる。


 イーヴォは皇軍を1000ほど顕現すると、お手並み拝見とばかりにゆっくりすることにした。

 ……玉座は分厚い氷の下なので、手ごろな大きさの岩の上に座って。





 マキは10番目の神殿まで駆け足で進むと、それまで使っていた身体強化魔法をカットして休憩することにした。所要時間は15分。かなりのハイペースである。

 マキは単独という事もあり、ウォルターたちの10倍の速度で移動できる。

 そのまま全力移動を続ければ、すぐにウォルターらに合流できただろう。だが、マキは合流の前にどうしても確認しておくことがあった。


 それは、「皇帝はダンジョンを監視できているのかどうか」である。


 ここまでの戦闘で、マキは皇帝を一方的に攻め立ててきた。皇帝に対する挑発行為としてはかなりのものである。

 そこで、怒り狂った皇帝は合流前のマキに皇軍をけしかけてくるのではないかと予想したのだ。

 もしかすると、精神的な絶望を与えるためにウォルター側を攻めるかもしれない。だが、それはそれで皇帝がダンジョン内にいる人間を監視している可能性を示唆するものであり、情報を得られるという意味では同じだ。

 もしかすると、マキと戦っている最中にもウォルターを攻めているかもしれない。それでも監視している可能性は高いと判断できるし、「皇帝は多方面を同時に攻める能力を持っている」という情報を得られるので、無駄ではない。


 ウォルターはあの程度にやられるほど弱くは無いので、マキは安心してウォルターを戦地に送ることができた。



 そうやって合流前の休憩をしていると、マキの周囲に皇軍が顕現する。


(これが監視によるものなのか、ただ単に周囲一帯に顕現しただけなのか。まぁ、先に進めばわかりますわね)


 マキの周囲に皇軍が現れたが、それは鎧袖一触、軽く蹴散らせる。たいして消耗しないほど実力に開きがあるので、気負う事は何もない。

 問題は、この顕現がマキをピンポイントに狙った者なのか、それとも無差別な物なのか。 ピンポイントならマキ行く先々に顕現しているだろう。無差別なら合流する側だけでなく、後方にも皇軍がいるだろう。


(では、急ぎますか)


 マキは相手の行動をいくつか考えると、一回戻って後方の敵の厚みを確認してから合流することを決める。それで無差別か狙ってかを確認し、考えられる可能性を持ち帰る。



 ただし。

 それは合流までの時間がより長くなることを意味し。

 ウォルターが襲われて、ウォルター本人はともかく周囲が危険にさらされることを意味し。


 最悪ではないが悪しき結果を生むことを、マキは予想しきれなかった。

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