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攻城戦②

 激昂馬(ヒューリー)は遠方のランク5ダンジョン、【黎明の草原】に出現する黒い馬型のモンスターだ。通常の軍馬よりも二回りは大きい巨体に目が奪われるが、本当に注目すべきは、その(ひづめ)である。赤に染まったその蹄は炎の力を宿している。駆ければ爆発を引き起こし、圧倒的な推力を生み出す。矮小な人間を蹴れば相手は一撃で爆散し、その無残な屍を晒すだろう。わりとどうでもいいことだが、このモンスターの肉は滋養強壮の薬として重用されている。


 激昂馬(ヒューリー)に跨った一団の数は100。馬の数ではなく、人の数が、である。

 彼らは密集陣形で街壁の門を目指した。

 街壁まであと300mまでといった所だろうか。壁の上に陣取っていた兵が弓矢を持ってウォルターらの迎撃を試みる。


「防ぎます! ご安心を!」

顕現せよ(マテリアライズ)! 嵐鳥(ストームバード)!」


 馬を顕現していない騎士が魔封札を取りだした。

 現れたのは、風を纏う白い鳥の群れ。鳩にも似たその鳥は風に乗るのではなく、風を操って空を舞う。

 その風は鳥たちを飛ばすためではなく、防御幕への転用が主な目的である。数多く呼び出されたが故に、鳥たちは一団を守り切って尚余裕を見せ付けている。遠距離からの魔法攻撃を防ぐ為に運用されるモンスターなので、こういった場面では絶大な効果を発揮するのだ。



「……相手は顕現魔法を、なぜ使いませんの? 何か知ってます?」


 一団は順調に前に進んでいるのだが、マキはそれが妙に引っかかった。同行している騎士に尋ねる。


「てい――王都のダンジョンに出るモンスターのうち、防衛向きと思われるモンスターは『黒岩』でしょうね。移動を一切しないモンスターですけど、とにかく硬いんです。普通にやったら(・・・・・・・)苦戦は免れません。チランの巨大ミミズでも砕くのは難しいでしょうね。

 この場合は門や壁に取りついた我々の頭上に顕現させて潰し、もう一つの壁を作るつもりと思われます。ですからその為に余分な魔力を使う訳にはいかず、顕現魔法を温存しているのかと」

「成程。では門から20mの所まで近寄り、そこから≪大撃槍≫ですわね」

「いえ、門の至近距離まで近寄ります。顕現したあと、こちらに撃ちだす手段ぐらいは持っているでしょうし。ならば至近距離にこそ活路が見いだされます」


 マキはこの世界の魔法、顕現魔法についてそこまで詳しい訳ではない。そこにどんなモンスターがいて、何に注意しなければいけないかという話は騎士たちに聞き、対策も任せてしまう方が効率が良い。

 説明を受け、「なるほど」と思うが「そこまで考えているのなら」ともうすでに始まった作戦にダメ出しをする。


「そもそも、門の下に巨大ミミズで大穴を開けてやれば話は早いのですけど。手間を惜しみたい話ですわね」

「上からの落下物如き、我らが何とでもしてみせます。ご安心ください」

「効率の問題ですわよ?」

「戦意高揚も、必要な事ですので」


 マキは苦笑とともにこの戦意高揚手段を否定する。戦意、つまりは戦争をするうえで最も重要なファクターを軽視するつもりはない。が、勝利のための効率的手段という「少ない労力でも敵を倒せる」「楽に勝てる戦争という証明」を以っても同じことができると考えているからだ。

 それに激昂馬の弱点「足元への罠」への警戒に巨大ミミズを使っているという事も加味すると、そのまま攻めさせればいいんじゃないかと言いたくなるのだ。相手の方も対策しているだろうが、その方がスマートであるように感じている。

 ただ、この作戦は「ウォルターの立場を確立するため」であるため、本気で否定をする気はない。だから作戦参加前ではなく馬上で同乗者に愚痴をこぼすのだ。


 同乗者の騎士はその甘え(愚痴)を真顔で返すため、マキとしては苦笑いするしかないのが現実だが。



(でも、効率はもっと大事ですわよ? 安全第一。いえ、安全は常識、安全はすべてに優先する、でしたか。もっと考えるべきですのに。

 こちらが相手の事を知っている以上、相手も対策を講じているはずですわ。

 いざというときは、“切り札”を一枚切るべきですわね)


 馬上のマキは思う。

 おそらく何かある、と。

 だから作戦に意識を向けつつも、全力を出さない。

 いくつかの防御魔法を頭に思い描きつつ、思考をフル回転させていた。



 そしてウォルターとともに、マキ達は門の前にたどり着く。

 ウォルターに合わせる形でマキは≪大撃槍≫の詠唱に入り。


「「――貫き砕き、穿て破壊の槍よ。≪大撃槍≫」」


 破滅の幕(もん)を、打ち破った。

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