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攻城戦①

 春になると、地図が大幅に変わっていた。

 ドゥウェルガル帝国はドゥウェルガル王国と名を変え、首都ミスリム周辺を抱えるだけの小国となっていた。

 地方の貴族は「次は自分の番かもしれない」と恐怖に震え、辺境伯や公爵などの大貴族を中心に帝国からの離反を表明。元帝国貴族のネットワークを使い、チランも含め、連合国家として形を変えた。


 連合国は帝国への宣戦布告を宣言し、連合軍を結成。被害の出たチラン大公国は少数の派遣に留まったが、総勢10万を超える大軍でミスリムを陥落させる運びとなった。戦闘は短期決戦を目標に掲げ、降伏を良しとしない王室関係者ならびに王国の政務に携わる者、上級将校は全員討ち取ることで合意がなされている。また、首都近辺のダンジョンは共同で管理し、その戦力をどう出すのかの打ち合わせも終わっている。

 ミスリムの戦力は推定で約1万。敵には籠城されると思われたが、戦力は10倍と圧倒的であり、たとえ攻城戦となっても苦戦などしないと思われた。


 進軍は大軍故に輜重の準備と言う問題もあり、雪解けの3月には間に合わず、4月も半ばに現地集合と決まっている。各個撃破されないように注意はするものの、敵勢力圏に入るときは最低でも2万の部隊が集結しているはずなので、逆にわざと合流前に接近し、囮となって野戦を期待する声もある。

 ドゥウェルガル王国には「とにかく不気味」という印象を連合の各国は共有しており、早く戦争を終わらせたいと誰もが考えていた。そもそも戦争という行為自体が無駄の産物であり、長く続いていいことなど一つも無い。それに、この世界では高ランクダンジョンを持つ都市相手に長期戦を行うと、ダンジョンが大崩壊する可能性がある。短期決戦は絶対条件とも言えた。

 稚拙な囮作戦は必要以上に被害が出るであろうから、何の連絡もなしに無茶をする軍は無い。が、その心に焦りがあるのは確かであった。


 すべては作戦通りに運ばれ、5月前にはミスリムの四方を10万の軍勢で囲むことに成功する。

 王国側の出撃は無く、亀のように出てこない。攻城戦が始まろうとしていた。





 ウォルターは、天使の身分を持ちながらも参戦する。女神の意思が介入しているので、当然の結果である。マキももちろん隣にいる。

 ウォルターは精霊魔法が使える事を女神にバラされ、回復魔法こそまだ秘密であるが、隠すことがずいぶん少なくなって動きやすくなっている。さすがにマキの全力戦闘は“刺激が強すぎる”ので非公開の予定だが、ウォルターと二人、遠距離からの上級精霊魔法で街壁の扉を壊すぐらいはすることになっている。他に役に立ちそうな精霊魔法の使い手はいないので、二人だけで行う訳だ。


「人間破城鎚なんて、冗談みたいですわ」

「風土混成の≪大撃槍(スマッシュブレイク)≫の共鳴詠唱でいいんだよね? 威力重視の至近距離で」

「ええ。移動は皆様にお任せ、詠唱中の防衛もまとめてお任せ。ただ、相手が意表をついて門を開き軍をぶつけるならワタシの≪氷嵐≫と」

「≪竜巻≫の合わせだよね? その時はタイミング合わせを任せるよ。僕じゃまだそこまで出来ないし」

「ええ。任せてもらって構いませんわ」


 ウォルターとマキは人だけでやろうものなら多大な被害を覚悟しなければいけない部分を、魔法で一気に解決するのがお仕事である。

 顕現魔法の中には広域殲滅や城壁破壊の得意なモンスターも多くいて、例えば大型モンスターでは巨大ミミズを破城鎚の替わりに使えばそこまで苦労せずとも同じことができる。

 だからこれは効率を求めてではなく、士気を上げるため、戦意高揚のための工作の一環として行われる。軍に参加した兵士に、「天使は確かにここにいる」と声高らかに見せ付けるために。

 無論、リスクはある。だがメルクリウスがマキへの信頼から許可を出し、いざという時の保険(フリード)も用意した。ウォルター(重要人物)が害される可能性はまず無い。


 手筈はシンプルで、門の近くで大威力の魔法≪大撃槍≫で門を破壊するだけ。ウォルター単独では威力が足りない可能性が高いが、マキが手を貸すので一回か二回で終わるはずだ。

 そこまでの移動と防御は親衛隊とでもいうべき教会信者の騎士が受け持つ。馬にまたがり全身鎧に大楯装備――ではなく、軽装に顕現魔法で作り出したモンスターを使っての移動と防御を行う。

 全身鎧は重量に対して防御力を得るのが難しいし、何より金属を多く使ってしまうのであまり好まれない。騎士と言えど板金鎧よりはモンスター素材に一部だけ金属を使った装備の方が好まれるのだった。

 ウォルターも彼らと同じように軽装で、意匠を凝らした儀礼的な服ではなく、実用性重視の動きやすいインナーに胸を覆う革の部分鎧を身に付けている。ただし腕や脚の防具は無しだ。金属鎧が精霊魔法を阻害することは無いけれど、慣れていない装備で動きが鈍っては意味が無い。防御は周囲が行うので、それを信頼する意味でも重装で戦地に赴くことは選ばなかった。



顕現せよ(マテリアライズ)激昂馬(ヒューリー)


 騎士たちが足となるモンスター激昂馬を呼びつける。

 ウォルターらは二人一組で馬にまたがり、進軍を開始した。

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