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女神の神託

 メルクリウスから依頼を受けた後、ウォルターは街中を歩いていた。


 他の者たちと違い、ウォルターは偵察任務が専門という訳ではない。何の準備もしていないし、どうやって予定を立てるのかも分かっていない。まずは計画を立てるところ……ではなく、計画の立て方を聞く所からスタートであった。

 もっとも、その事を聞かされたメルクリウスが部下に指示を出し、事前にする準備から何まで事細(ことこま)かに説明されることになったので言われた通りにやればいいだけになったのだが。


 食料品の買い出しに出てきたウォルターは、買い物を済ませる前に救世教会へと足を運んだ。なんとなくだが、行った方が良いような気がしたのだ。いや、何かに呼ばれていると感じたから。



 数ヶ月ぶりに訪れた救世教会には特に変わった様子が見られなかった。

 教会は相も変わらず古臭いままであり、併設された孤児院の子供たちが頑張って掃除をしている。

 ウォルターが近くに行くと、子供の一人がそれに気が付き、中に入ってシスターを呼びに行った。するとすぐに老女、シスター・レオナが出てくる。


「どうも。御無沙汰しています」

「いえいえ、お元気そうで何よりです、天使様」


 顔を合わせればまずは挨拶。互いに頭を下げる。

 そして挨拶が終わればゆっくりと話をする為に教会の中へと移動する。お土産にと、外にいた子供たちに干し肉を渡すのも忘れない。

 今日もシスター・マリナはいないようである。彼女は基本的に外回り、金銭的援助は帝国法により要求できないので、食料品などの喜捨を求めて歩き回っているらしい。



 落ち着いた場所で簡単な情報交換を行い、熱いお茶を出されたところでウォルターは本日の用件を聞くことにした。


「なんとなくここに来なきゃいけないって感じがしたから来たんですけど、今回も神託はありますか?」


 言葉としては理解できるが、普通なら言われた側は「何を言っているんだろう」と思われかねないセリフである。ただ、前回来たときに神託があったという実績があるため、ウォルターは今回も何かないかな、と思ったのである。


 ウォルターの質問に対し、シスター・レオナは相好を崩す。実際、神託を受け取る側も「これが神託だ」と今一つ自信が持てないからだ。自分の中にある言葉が自分の妄想かもしれないと、どうしても信じ切れなかった。そういう事情が彼女の中にあった。

 というのも、受け取った神託というのが。


「アースティア様より、レプリカの神剣をお渡しするように言われております」


 そういって、部屋に用意しておいた包みから神剣を取りだす。

 外気に触れた神剣から、得も言われぬプレッシャーがウォルターに放たれる。ウォルターはそれを、怒りの感情の発露だと感じた。

 シスター・レオナは平然としているので、このプレッシャーはウォルターのみに感じられるもののようである。前回も似たような嫌な感じがしたものだが、今回のプレッシャーは前回よりもはるかに強く明確に感じ取れる。その差がウォルターの成長によるものか、それとも神剣の怒りが深まったことによるものか。どちらとも判らぬまま、ウォルターは神剣を受け取った。


 直接神剣を手に持つと、ウォルターの頭の中に、言葉にならない明確な意志のようなものが大量に流れ込んでくる。

 それはシスター・レオナが受け取った神託の様なもので、神が人に預ける言葉であり、果たすべき試練であった。


 一言で言えば「帝国を潰せ」である。


 正確には「帝国で使われている新しい顕現魔法をどうにかしろ」や「新しい国のもと、傀儡蟲を規制しろ」とか、「精霊魔法を一般化しろ」などとかなりの数の要望が混じっている。その中でも、特に「帝国を潰せ」という要望が特に強かったのだ。

 ウォルターはいろいろと要望を突き付けられた時に疑問に思った事に返答が来た。直接手を下さない理由は「神が直接介入するのは禁止」だかららしい。怒っているように感じるのは、帝国の行いが気に喰わないからである。ウォルターを指名したのは、自分のではないが、神に仕えるものだから。あと、マキという保険がいる事も。

 人間にとっては重要だが女神にとってはどうでもいいこととして、“女神の使徒”の扱いはについて。この争いは「人間が解決する問題」なので介入するつもりは無いらしい。どちらにも等しく手を差し伸べない。

 手を貸すことで報酬は、と考えたウォルターだが、「今の質疑応答が報酬」と、タダ働きが確定する。いや、情報料に見合わないほどの労働を強いられるだけである。


 最後に「もし手を貸さないのであれば」とも思ったが、「それはそれで仕方が無い」と意外とあっさりした返答が返ってきた。神様的には、それで人が滅びの道を歩むのであれば仕方が無いという事らしい。つまり、手を貸さないなら人類滅亡も視野に入るという事である。人はそれを、脅しと言う。



 一通り聞きたい事を聞き終えたウォルターは、手付かずだったお茶で口を湿らせる。お茶はずいぶん前から冷めており、神様とのやり取りが長時間にわたって行われたことを示している。

 ウォルターはいきなり大量の情報を頭に詰め込まれ、クラクラしている。考えをまとめたいが、ここは人の家(教会)である。長居するのはあまり良くない。お暇してから考えをまとめる事にした。

 なお、神剣は収納袋には入らなかった。そのため、自分の背丈ほどもあろうかと言う剣を抱えて動く羽目になった。



 その後、買い物の事を忘れていたため、メルクリウスの部下から怒られることになり、慌てて買い出しに出かける事になるのであった。

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