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マキの旅路

 ウォルターが書類相手に苦戦している最中、貴族の領都を廻っているマキは、片手間で襲撃者を潰していた。


「ローラ様が狙われているので間違いないですわね」

「そうじゃな。このような忌々しい連中、どこにでも湧いて出るといった事もあるまい。

 しかしこの程度の戦力で儂らをどうこうできると思われるとはのぅ。よほどの阿呆か考え無しか。足止めにもならんわ」


 追ってきたのはすでに見慣れた黒づくめ。

 質は以前屋敷を襲った者たちほどではなく、たとえマキが参戦せずとも問題ないほど弱かった。黒づくめの数は騎士たちよりも多かったが、マキの顕現魔法による戦力水増しによりアドバンテージをあっさり奪われ、一矢報いる事もできずに全滅した。


 襲撃は何度も行われ、すでに三ケタの撃墜数を上げている。

 一回に投入される戦力に変化は無く、何度も失敗していることを考えれば数を増やすか質を上げるか、いずれかの対策が行われるべきである。


 所持品から所属が分かるといったことは無いが、金属装備のいくつかは小銭代わりに回収されている。よって収支はむしろプラスに傾いていた。



 こうまで執拗に狙われればローラが目的であることは疑いようも無く、どのような理由かは分からずとも、細心の注意を払うべきだった。

 自分たちに被害が出ていないので敵の規模を勘違いしてしまうかもしれないが、ここまで多くの兵力を投入するというのはよほどの理由があると推測できる。だが、身内であるアレス、超人的なセンサーを持つマキでもローラに特殊性を見いだせない。全く持って不可解であった。


「それにしても、まるで一般人ですわね」


 マキは倒した襲撃者の顔を見て、そのような感想を抱く。心臓を貫き殺したので、その遺体には損傷が少ない。マキはその死体を感情も無く眺めている。

 訓練に明け暮れた兵士というのは、ある程度精悍な顔つきをするものである。厳しい訓練に耐え、歯を食いしばって付いて行くのだからそうなることが多いという程度であるが、目の前の死体はそのような来歴を持った人間にはとても見えない。

 そのよう様な考えに意味はなく、マキは少し考え込んだがすぐに興味を無くしてしまう。


 装備を回収し終え、背を向けて立ち去ろうとするマキ。

 が、その足が急に止まった。


「どうしたんじゃ?」

「まるで……一般人?」


 先ほどのセリフを反芻し、俯き考える。


 送られてくる襲撃者。

 一定の規模。

 まるで、一般人。


 頭の中で最悪を想像し、急いで倒した敵のところに駆け寄る。


「おい! だからどうしたというんじゃ!?」


 アレスの疑問に応える事もせず、マキは襲撃者の服を剥ぎ取った。襲撃者の裸身が晒される。

 マキはその死体をぺたぺたと触り、筋肉の付き方を確認する。

 そして自分の想像が当たりだと、確信を得た。


「ここ、ですわね」


 マキはナイフを取り出すと、迷わず死体の頭部を真っ二つに斬り裂いた。

 二つに分かれた頭部から奇妙な生き物が姿を見せる。それは人の脳みそのようで、そうではない化け物。


傀儡蟲(カイライチュウ)、こちらにも似た様な物がいるのですわね……っ!」


 マキはそれ(・・)を素手で掴むと、握りつぶした。それ(・・)は倒されたことで魔力の光となって、溶けるように消え失せた。

 周囲でそれを見ていたアレスたち他の面々は、何が起きているのかをおぼろげながら理解し、青褪めている。



 傀儡蟲とはその名が示すように人を操るモンスターだ。その性質上、生きた人間の内部に入り込んで脳を食い荒らし、体を乗っ取る。脳を喰われ体を乗っ取られた者は、脳を失いながらも死ぬことを許されず操り人形となる。死んでいないので死後硬直なども起きない。

 特徴として、乗っ取った相手の生前の知識などを得る事は無く傀儡蟲の指示通りに動くだけの人形にしかならない。動きは重く鈍く、簡単に倒されてしまう。次の犠牲者を求めてさすらうだけだ。


 あまり使えないようなモンスターに見えるが、顕現魔法を使って操るモンスターとなると有用性が一気に高まるようだ。

 どうやったのかは分からないが、訓練された人間の動きをさせることに成功している。こうなると、訓練していない人間を即席の熟練兵に仕立て上げる事も可能になる。無論、使い捨てなのだが。



 マキは知っている範囲の知識を披露し、苦悶とともに推測を告げる。


「傀儡蟲をこのような形で用いられるとは思っていませんでしたわ。状況は最悪ですわ。これを使った軍が、いつ襲ってくるか分かりませんもの。

 人でなくなるのであれば、指揮官の指示に対して一糸乱れぬ連携をする軍であれば、出来ない事はずいぶん減りますわよ。

 それこそ、冬の間に攻めてくる(・・・・・・・・・)とか言われても不思議ではありませんわね」


 マキは唇を噛みしめる。

 ウォルターの勘が正しかったことに。


 どれほどの数が用意されているのだろう。

 どれほど本気で攻めてくるのだろう。


 自分が残っていれば何とでもなると、マキは考えている。攻めてくる前、野営の陣地を襲撃すればそれで終わるからだ。例え1000でも2000でも、広域破壊の可能な魔法はいくらでもストックがある。

 しかし今戻るのであれば、自動的に敗北が決まる可能性がある。必要な物資を確保できなければ領内の経済が回らない。行って戻ってで一月近いロスが発生すれば、その間に帝国側の圧力で周辺貴族を取り込まれてしまうかもしれない。

 マキ1人で戻った場合、ローラの身が危ういというのもある。マキがいるからこそ小規模なのだ。マキが抜けてどうにかなるわけもない。

 チランに使者を送ろうにも、その使者を襲撃されて終わる。


 マキはチランに残るべきであった。

 戦力配分を見誤ったその先で、彼らは決断を強いられることになった。

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