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蝶の唄  作者: 糸繰 乃唄
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 王女さまは城へかえり、侍女にめっきりとしかられました。それから、みたこともないすばらしいドレスに身をつつみ、王女さまは夢のようにお美しくなられました。

 王女さまは、宝石が散りばめられようにきれいなダンスホールを、階段の上からみつめていました。ドレスを着ておめかしをした女の子、立派な晴れ着の殿方がたくさんいます。王女さまは目をこらして、ひとりをさがします。ねえどこにいるの? きっとくるもの。約束したもの。

 王女さまは長い、とても長い時間の中でアルをさがし続けました。そうすると、あるひとりの殿方が王女さまの手をとりダンスにさそいました。王女さまはいやがりましたが、王さまが踊りなさいといったので、しぶしぶその殿方とワルツを共にしました。殿方は大きな国の王子で、わたしの婚約者だといいました。王女さまはそんなことは知らないと王子の手をはらいましたが、王子は王女さまの無礼をゆるしました。

 それから王女さまはアルをさがしました。それは舞踏会が終わるまで、ずっと、ずっとでした。


 夜が更け、ついにアルはきませんでした。

 その日は、永い間ふることのなかった雨がたくさんたくさん、ふりそそいだのです。 そう王女さまが生まれてから、ずっとふらなかった雨が。


 王女さまは舞踏会がおわってからすぐに、あのお花畑へ走ってゆきました。きれいなドレスが泥にまみれることも、雨にぬれることも気にせずに走りました。

 お花畑にたどりつくと、霧が立ちこめているだけで、ひとっこひとりいません。アルは、いませんでした。王女さまは怒りをこめてさけびました。

「アルのうそつき! きてくれるって約束したのに。うそつき、うそつき、アルなんかだいきらい!!」

王女さまの声が丘中にひびきました。その声をきくのは、葉の下で雨をしのぐ、黄金にかがやく蝶だけでした。


 次の日、王女はお花畑にはいきませんでした。その次の日も、そのまた次の日も。しかし、やっぱり王女さまはアルのいないさみしさにたえれず、お花畑にいきました。ですがアルはいませんでした。王女さまは、春も夏も、秋も冬もまちました。いつまでも、いつまでもひとりぼっちでまちました。

 やがて王女さまはどこかの国の王子と結婚し、お花畑にいくことは二度とありませんでした。アルの名を呼ぶこともありませんでした。それを知るのは、やはり黄金の蝶だけでした。

 それからまた時は流れ、お花畑はいつしかなくなっていくのでした。

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