Ⅳ
王女さまは城へかえり、侍女にめっきりとしかられました。それから、みたこともないすばらしいドレスに身をつつみ、王女さまは夢のようにお美しくなられました。
王女さまは、宝石が散りばめられようにきれいなダンスホールを、階段の上からみつめていました。ドレスを着ておめかしをした女の子、立派な晴れ着の殿方がたくさんいます。王女さまは目をこらして、ひとりをさがします。ねえどこにいるの? きっとくるもの。約束したもの。
王女さまは長い、とても長い時間の中でアルをさがし続けました。そうすると、あるひとりの殿方が王女さまの手をとりダンスにさそいました。王女さまはいやがりましたが、王さまが踊りなさいといったので、しぶしぶその殿方とワルツを共にしました。殿方は大きな国の王子で、わたしの婚約者だといいました。王女さまはそんなことは知らないと王子の手をはらいましたが、王子は王女さまの無礼をゆるしました。
それから王女さまはアルをさがしました。それは舞踏会が終わるまで、ずっと、ずっとでした。
夜が更け、ついにアルはきませんでした。
その日は、永い間ふることのなかった雨がたくさんたくさん、ふりそそいだのです。 そう王女さまが生まれてから、ずっとふらなかった雨が。
王女さまは舞踏会がおわってからすぐに、あのお花畑へ走ってゆきました。きれいなドレスが泥にまみれることも、雨にぬれることも気にせずに走りました。
お花畑にたどりつくと、霧が立ちこめているだけで、ひとっこひとりいません。アルは、いませんでした。王女さまは怒りをこめてさけびました。
「アルのうそつき! きてくれるって約束したのに。うそつき、うそつき、アルなんかだいきらい!!」
王女さまの声が丘中にひびきました。その声をきくのは、葉の下で雨をしのぐ、黄金にかがやく蝶だけでした。
次の日、王女はお花畑にはいきませんでした。その次の日も、そのまた次の日も。しかし、やっぱり王女さまはアルのいないさみしさにたえれず、お花畑にいきました。ですがアルはいませんでした。王女さまは、春も夏も、秋も冬もまちました。いつまでも、いつまでもひとりぼっちでまちました。
やがて王女さまはどこかの国の王子と結婚し、お花畑にいくことは二度とありませんでした。アルの名を呼ぶこともありませんでした。それを知るのは、やはり黄金の蝶だけでした。
それからまた時は流れ、お花畑はいつしかなくなっていくのでした。