15.冷静に観る者
14・15話を続けて投稿しました。
志水周子は、他人に関心がないと思われがちである。
確かに一人でいることが多いし、自分から積極的に声を掛けようともしない。――人として必要最低限の挨拶はするが。
そんな性格だから、とっつきにくい人という印象を与えてしまう。さらには毒舌家であることも相俟って、後輩からは怖がられているのではないかと密かに気にしていたりする。
が、それを自覚していながら改めようとしない辺り、順調に「大学人」になっているのだろうな、と彼女は思っていた。
とはいえ、研究室内の人間関係は良好な方である。特定の敵となる人間はいないし、誰かから疎まれているという情報も入っていない。先輩はアレな人だが、まあ普通に付き合えるし、後輩も同じくアレな感じだが、まあ普通に日常会話は成立する。
つまるところ、彼女は人間関係で苦労してはいないのである。
「はぁ……」
だからこそ、人間関係で苦労している人を見ると、気の毒に思ってしまうのだろう。
志水は先ほどのやり取りを思い浮かべ、溜息をつく。
あれは最悪だった。
主に、須崎乃依の心境が。
(須崎さんも運が悪いんだから)
彼女の性格から考えて、一番に勝ったとして、素直に希望を言えるわけがない。それぐらいのことは、少なくとも志水周子には予測できた。あそこで困っておろおろすることなど想定の範囲内であり、だからこそ、それを見越してフォローするのが先輩の役目というものだと思う。
それなのに――。
(あの人は……)
志水はつい、頭に手をやる。
彼の性格に対しては色々と思うところがないわけではないが、それらを差し引いても、高階は比較的人格者だと思う。もっとストレートに言うならば、性格は比較的マシな部類に入る。――この研究室の中では。
だから、志水は高階のことは嫌いではない。なんだかんだで、研究室の中では一番多く話している相手のような気がする(ちなみに、一番多く話しかけられるのは厚東だが、会話が成立しているかどうかは別の問題である)。たまに話をしているとイラッとくることもあるが、まあ許容範囲だ。
(特に、こういうときには)
彼の実行力のなさを思うと、厚東の方がよほどいい働きをしていたといっても良い。――いろいろとズレてはいたが。
(これからが大変よね)
厚東の隣。
想像しただけでも頭が痛くなる状況に、後輩が登校拒否にならなければいいと、志水は思う。
(それか、いっそ私みたいになるか)
ちなみに志水自身、別に厚東から距離を置きたいが為に院生室に行っていないわけではない。誰もいないところで静かに研究をしたいだけだ。今日みたいに、たまに院生室に顔を出して、情報を収集すれば何も問題ない。
(まあ、私には関係ないんだけど)
人のことを心配する立場でもないし、と志水は立ち上がった。そろそろ夕飯の準備をする時間だ。
まだ活躍し続けるこたつのスイッチを切り、割烹着を身に付ける。昨日買っておいた鍋の材料を冷蔵庫から出し、包丁を握る。
(そういえば)
志水はふと、数年前も似たようなことがあったことを思い出した。
何を隠そう自分のことだが、今の今まですっかり忘れていたということは、自分の中では完全に「どうでもいいこと」に分類されているのだろう、と彼女は冷静に分析する。
今となっては、特に思うことはない。それでも、あの時の高階の行動次第で、自分の道が変わっていたのは事実だ。
(何度同じことを繰り返せば気が済むのやら)
包丁を握りしめ、大根をぶった切る。
彼女は初めて、尊敬する先輩のことをバカだ、と思った。




