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3話

―僕は、寒気を感じて目を冷ました。


目覚めた直後のハッキリしない思考で周りを見渡す。

全く知らない部屋だ、一体ここは何処なんだろう?


「・・・寒っ」


僕はそう呟いて、布団を被って丸まろうとする。

「痛っ!!!?」


その時、全身に激痛が走った。

布団を被ろうと動かした腕が、縮こまろうと動かした足が、あらゆる場所が痛みを訴える。


特に胸辺りには別種の痛みがあったような気がした。

「〜〜〜ッ!!!!」


凄まじい痛みに声も出せず呻く。


ひとしきり時間がたち、痛みが引いていくと、痛みのせいなのか、頭がはっきりしていた。


痛みを我慢し、辺りをしっかり見回すと、ここが病院なのだと言う事がわかった。


「何で僕は病院に・・・?」


記憶がはっきりしない、思いだそうとすると、部屋の左側のドアが開き、人が入ってくる。服装からして看護婦だろうか。


「あ!目が覚めたんですね!!気分は如何ですか?」


「身体中が痛いです。そのおかげでシャキッと起きられたんですが」


看護婦は少し微笑んで。


「参ってるって訳ではないみたいですね」


と言う、だがそれより僕は聞きたい事があった。


「・・・一体、何があったんですか?どうして僕はここに?」


僕がそう言うと看護婦は悲しげな表情をして。


「・・・記憶が混濁してるんですね、今から何があったかを話します」


そう言って看護婦は話し始めた―









―結論として、それは僕にとって最悪な話だった。


まとめると、僕の家に強盗が侵入、母、妹を殺したが、その時帰ってきた僕に見つかってしまう。


強盗は、僕も同様にし、家に火をつけ逃走。


奇跡的に生きていた僕が家から脱出したあと、何らかの可燃物に炎が引火し爆発、家は完全に倒壊。


僕は家の前に倒れていたところを救助された。


僕は一週間、眠ったままだったらしい―


「・・・大丈夫ですか?」

話を終えた看護婦が僕を労ってくる。


「少し・・・1人にしてください」

そういうと、静かに看護婦は部屋から出ていった。




・・・さっきの話は、正確には『ということになっている』という言葉がつくだろう。


僕は、本当はあの場所で何があったのかを知っている。思い出した。


母と妹の無惨な亡骸、黒の鱗を纏った化け物、長剣を持った少女―


―そして、僕があの化け物と戦ったという事実―


それらは、一瞬で僕を現実に引き戻し、非日常の到来を教えてくれた。




―再び天井を見ながら考え事をする。


題目は『自分が使った謎の力』について。


あの時は、ただ必死で、かつとっさのことだった、今やれと言われても確実に出来ないだろう。


あの時は『痛み』が無ければ、相手の懐に飛び込む『恐怖』も無かった、包丁を突き刺すことへの『戸惑い』も無かった。


また、身体能力は普段の比にならないほどだったし、僕では出来ないような動きも易々とやってのけていた。


化け物に怯えるだけだった僕が、一瞬で戦えるようになっていた。


「はぁ・・・僕、どうしちゃったんだろう」


思わずため息をつく。


何か強大な力を得たとして、僕はそれを簡単に受け入れられないし、それで喜ぶような中二的発想も持ってはいない。


正直他にも問題はあるが、今は考えたくなかった。


このままいろいろ考えていると、いずれ泥沼に嵌まると思ったので、瞳を閉じることにする。


瞳を閉じると、未だ疲れがあったのか、すぐに意識が薄れていく。


そのまま僕は再び眠りはじめた。










―数十分後。


ふと、部屋のドアが開く気配がし、意識を覚醒させる。


その人物はゆっくりと歩いてきて、ベッドサイドにある椅子に座る。


「・・・起きているか、幸」


彼は、横になった僕に話かけてきた。


僕はゆっくりと目を開き。

「・・・えらく遅かったね、父さん、重役出勤にも程がある」


僕がそう言うと、彼は少し落ち込んだ様子で。


「3年ぶりに会った肉親に対する言葉じゃないな、それは」


そう返してくる。


―彼の名前は、氷室 銀。

名前の通り、僕の父親。


『仕事』で家を開けることが多く、基本的に家にいない、僕が話した回数も、下手をすれば学校の友人より少ないだろう。


『仕事』の内容も場所も家族には伝えず、どこか遠いところに行っている・・・らしい、詳しいことは知らないし、大して興味も無い。


「・・・今回の事は、聞いた?」


「聞いたよ、全部」


「・・・そう」


呟いて、僕は寝返りをうち彼の反対を向く。


空いた窓から吹き込んでくる風が冷たい。


「・・・いつ、あっちに戻るの?」


「それは、俺の顔なんて見たくねぇ、って事か?」


彼がぼそりと言う。


反対側を向いているので、顔は解らない。


「皮肉は一切ないよ・・・、今回は、正直あなたがいたところで、どうにもならなかったと思うし」


仮に彼がいたところで、あの化け物に串刺しにされて終わりだっただろう。


「明日、経つ、いつ戻れるかわからん」


「だろうね、基本的なことは自分でやるから安心して旅立つといい」


まるで予想していたかのように言葉を吐く。


―元より期待はしていなかった。

「怪我の具合はどうだ?」

「胸から腰にかけての火傷に、頭に裂傷、あらゆる場所に打撲、ぐらいか」


後は―呟きながら、寝返りをうって、銀の方へ振り変える。


改めてまともに顔を見ると、あまり表情自体が無いことがわかった。


「謎の低体温症、かな」


ゆっくりと手を伸ばし、銀の肌に触れる。


銀は、若干だが驚いた表情をしていた。


「明らかに異常だけど、不思議なことに健康への影響がかなり軽いらしい」


寒いのですぐに手を布団に入れる。


・・・寒いってのは健康への影響と関係ないのかな?

「・・・」


彼は下を向いて、考え事をしているようだ。


「・・・父さん?」


彼は唐突に立ち上がり。


「金は、口座に入れとく」

そう言って、足早に立ち去っていった。


―――




「唯一の肉親に会ったって言うのに、何の感情も湧かないとはなぁ」


普通なら泣きついたり、家に居なかった事や、事件の一週間後にようやっと戻ってきた事などを責めたりするのだろうか


そんなことを思ってしまうほど、何も思わなかった。

むしろ金の面倒を見てくれる事をありがたく思ったぐらいだ。


唯一の肉親と会ったのだから、家族の死など、改めて認識させられると思ったが―


「・・・案外、受け入れられてるのか?」


僕が意外と強いのか、心底どうでもいいと思っていたのか―


―いや、少なくとも後者はないか。


そこまで考えていると、ドアの向こうから、黒髪の女の子がこちらを見ていることに気づいた。


目が合う―いや、正確には、前髪で女の子の目が見えないので解らないが。


「・・・」


「・・・」


その女の子は、見ていると、少し悲しそうな表情をしているように見えた。


「・・・った」


女の子は何か呟くと、身を翻し、立ち去っていった。


それと入れ違いに、また人が2人入ってくる。


「幸!体は大丈夫なのか?」


「陽介・・・あぁ、まだ少し痛むけど、そんなに問題はないな」


部屋に入って来たのは陽介と凜だった。



「幸、お見舞いの果物はここに置いとくわね、ところでさっきの女の子は?」


凜がベッド横のテーブルに果物の詰め合わせを置きながら言う。


「解らない、知らない子だった」


「ふぅん、ここの患者の親族か何かかしら」


「多分、そんなのだろうなぁ」


「そう・・・」


いいながら、ベッドサイドの椅子に座る。



「・・・幸、こんなことしか言えないが・・・家族のことは、残念だった」


陽介が重い表情で言う。


「別に、大丈夫だよ、お金は父さんがくれるから、生活にも困らないし」


「本当か?こう言うのは、一度吐き出さないと、後で相当辛いって聞くぞ?」



陽介が更に言う。


正直、気づかってくれるのは嬉しいが―


「あぁ、大丈夫だよ、そうじゃなかったとしても、少なくとも今は何故か何も感じない」



「何も感じないって・・・私はこんなの経験したことないから解らないけど、そんなものなのかしら」


凜が反応して聞いてくる。

僕はゆっくりと首を振りながら。


「わかんない、意外とドライなのかも」



そう嘆息する。


「あぁそうだ、お前の家、なんと言うか、無くなっちゃったろ?だから、俺の家に来ないか?」


少し言葉を選びながら、陽介が聞いてくる。


「とても魅力的な提案だけど、やめとくよ」


「・・・!なんで?」


予想外だったのか、少し同様しながら陽介が聞いてくる。


「おじさん、おばさんには結構世話になってるし、それにお金はあるしね、そして何よりも」


言いながら凜の方を見る。

「僕の入る場所はなさそうだしね」


言うと、凜はかあっと顔を赤くし、陽介は意味が解らないといった表情をする。

「そ、そんな口が聞けるなら、本当に大丈夫そうね」

言いながらぷいっとそっぽを向く。


「・・・そっか、でも、俺も俺の家族もお前が言ってくれればいくらでも泊めてやるからな」


「・・・ありがとう」


ぼそっと、僕は呟いた。


―その後談笑をしていると、いつの間にか日が落ちかけていた。


「あぁ、もうこんな時間、陽介、そろそろ帰ろ」


「わかった、幸、また来るからな」


「うん、気をつけて」


一連の会話をして、陽介たちが病室から出ていった。


陽介たちがいなくなった瞬間、一気に病室が静かになった。


「ちょっと、寂しい気分かも・・・」


僕はその気分を紛らわすために、再びベッドに横になる。


目を閉じると、すぐに眠気が襲ってきて、瞬く間に僕は眠ってしまった。



―――










それから一週間が経過した。


怪我自体は軽症で、治りも早く、これだけの期間で退院する事ができた。


相変わらず『謎の低体温症』は治る気配さえ見せなかったが、特に問題は無いとのことらしい。


・・・体温が一度下がるだけでも免疫力や体力が大幅に低下する、と聞いた事があるが、その情報は間違いなのだろうか?


等ということを考えながら僕は街を歩いていた。


横断歩道に差し掛かり、赤い光を見て足を止める、今の時間は午前10時ほど、周囲にはあまり人がいない。

「・・・今から何をするべきなんだろう」


僕はそっとぼやいた。本来なら学校に行くべきなのだろうが、鞄は家の中に置いてきてしまったため、必要な道具が一つもない。


家に取りに帰れ?面白くもない冗談だ。



そもそも制服も着れる状態ではない、それでも学校に行くべきか?


「というか、学校行っても疲れるだけだよなぁ・・・」


信号が青に変わり、僕は歩き始める。


客観的に見れば僕はかなり悲惨な出来事に遭っている、みんな、普通の対応はしてくれないだろう。


「けど、特に行く場所もないな」


家はないし、どこかで遊ぶ気にもなれない。


「とりあえず、保健室登校でもするか・・・」


結局、僕は学校に向け歩きだした。



―――










―いつも通り、坂を登って、山の上の玄冬高校へと向かう。


違うところは、周りに人がいない所か。


静かな校舎に入ると、勉強をする生徒たちの姿が見えた。僕は玄関で靴を脱ぎ、自分の靴箱へと向かう。


靴箱を開けて見ると、校舎内用のスリッパの他にも入っているものがあった。


「これは・・・手紙?」


中には一通の便箋が入っていた。僕はスリッパと靴を取り替え、便箋の中身を見る。


『大事な話があります、放課後に学校の屋上で待っています』


・・・


これは・・・まさか。


もう滅びたと思われていたが・・・


いわゆる『恋文』ってヤツか?


僕は・・・ゆっくりと右手を虚空に掲げた。



そしてそのままガッツポーズを取る。


正直、時期が時期だから素直には喜べないが、嬉しいことに変わりはない。


「放課後か、緊張するなぁ」


そう言いながら、僕は保健室に向かった。


色々違和感があったが、気にもならなかった。


そして放課後―








僕は屋上への階段をゆっくりと上がっていた。


どんな子何だろうか?期待に胸を膨らませ、屋上のドアの前に立つ。


僕はドアノブを掴み、一つ深呼吸をした。

そしてドアを開け放った。

瞬間、風が吹き込んでくる。



「寒いっ!!」


体を抱きしめながら、屋上を見渡す。


そこには、1人の女の子がいた。制服を着ていることから、玄冬高校の生徒だろうか。


長い黒髪が風に揺れている。女の子は音に気付き、こちらを振り向く。


「やぁ、久し振り、いや、一応は始めまして、かな?」


女の子はそう言った、目が長い前髪で隠れている。


「・・・君が、この手紙を僕に寄越したのか?」


僕は女の子に近づきながら言う。


「そうだよ、私が君に手紙を寄越した」


「2週間前のことについて、大切な話があるから」


―僕は戦慄した。言葉が一瞬で出なくなる。


「私のこと、わかる?訳ないか、じゃあこうすればわかるかな?」


瞬間、女の子の髪色が、根元から真っ白に変わっていく。


やがて毛先まで綺麗な白髪になり、その髪を後ろで結

び、前髪を掻き分ける。


「!?君は・・・あの時の・・・」


思い出した、燃え落ちそうなに家で長剣を片手に化け物と戦っていた白髪の少女。



「まずは自己紹介をしようか、私の名前は、『キノ』」


そう言って、右手を差し出してくる。


「『ユキ』だよ、『氷室 幸』」


僕は向けられた右手を掴んだ。


「さすがにあの手紙はないと思うんだけど、ラブレターか何かと勘違いしちゃったじゃないか」


どうにか冷静さを取り戻し話す。


「私は『重要な話』としか書いていないよ?実際今からする話は君にとってものすごく重要な話だしね」


―――


「まずは事情を話したいんだけど、私が話すだけじゃ至らない所もあるだろう。

だから、質問形式にしようか」


「あぁ、わかった、聞きたい事は腐るほどあるしな」

僕は屋上の手すりに寄りかかり、キノの横に立つ。


「それじゃ・・・まず、あの化け物は何だ?」


思い出す。身長2mほどに黒い鱗に覆われた体、気味悪い声。


「アレは・・・色々呼び方はあるけど、僕は、『魔物』って呼んでる」


一拍置いて。


「奴等は、この世界に害を与える敵だ」



「そして私は、その『魔物』を排除するための存在『セイバー』だよ」


「・・・」


・・・典型的なヒーローもののような筋書きだ。


身近にこんな非現実が存在しているとは知らなかった。


僕自信全くその事を知らなかったし、恐らくほとんどの人はこの事実を知らないのだろう。


「じゃあ、何で僕はあいつに襲われたんだ?あの時使ったあの力は何だ?」


何もしてこなかった自分がいきなりあんな化け物と 戦えるようになっていた、あの力。


「君が襲われた理由は・・・君の中に『魔具』が入っていたから、だと思う」


「『魔具』は、魔法の力『魔力』の宿った宝みたいな物で、いずれも強大な力を持っている、君があの力『魔法』

を使えるようになったのもそのせいだと思う」


「・・・君の体にそれがある理由は、そもそも魔具ってものは特殊な力『魔力』ってものを常に放出していて、むき出しで持っていれば、僕たちにはそれのある場所がわかってしまう」


「つまりそのまま持っていれば、魔物ならセイバーに狙われる、その逆もまた然り、だよ、例外はあるけれど」


「例外の一つとして、生物の体内に入れるというのがあるんだよ、あの魔物は事前に君の中に魔具を入れて、また取りに来た、という所か」


「また君の場合、魔具が臓器の一部・・・心臓の変わりになっている」


「・・・じゃあ、僕の心臓は・・・?」



キノは首を横に振った。


「体に宝具を入れるときに壊されてたんだろう」


「・・・」


手を胸に当てる。


そこからはゆっくりとした鼓動を感じるが、あるはずの熱を感じなかった。


「恐らく、体にも何らかの影響が出ていると思う」


体への影響・・・


やはり、異様な体温の現象だろうか。


「思い当たる節があるみたいだね・・・」


「あぁ・・・少し前から、異常に体温が下がっているんだ、寒くて寒くて敵わないよ」


今なら冬眠できそうなぐらいの寒さだ。


「それは、そのままにしていれば、命の危険もあるものなんだよ」


「命の危険だって!?」


寒さで動けなくなり、ゆっくり死んでいく自分を想像してしまう。


それだけで、恐怖とおまけに寒さで体が震える。


「で、ここからが本題なんだけど・・・」


「端的に言う、私といっしょに魔物と戦ってくれないかな?」



―――










(次の角を右!!)


耳にキノの声が響く。


僕はその声に合わせ、住宅街を走って行く。


頭の中は始めて魔物と戦ったときのように冷静になっており、身体能力も普段の比にならない。



(前方の十字路を左に!そこに魔物がいる!)


どこからか耳に響く声を頼りに、十字路を左に曲がる。


そこには、一頭の犬?がいた。

?というのは、普通犬は頭が2つも無いし、僕の首ほどまでの大きさもない。


「!?!!!?――ッッ!!」


犬?は、気色悪い声て吠えながら、僕に突っ込んでくる。


僕は右足で地面を蹴り、左に避けるが、頭の一つに服の袖を千切られる。


反応は出来るが、体が若干追い付いていないのか。


僕はキノにもらったナイフを取りだし構える。


素手よりはましだろう。


僕の服の袖を吐き捨て、再び犬が襲ってくる。


僕は同じ方法で回避する。

しかし、犬は僕の後ろの壁を蹴って反転し素早く襲ってくる。


今度は回避できずに犬に地面に倒されてしまう。


同時に犬の頭のうち一つが僕の首めがけて向かってくる。


僕はギリギリで反応し、犬の側頭部にナイフを突き刺す、犬が一瞬だけ怯む。


そのまま犬の腹に膝蹴りを食らわせる。


一瞬犬が浮いたところで、素早く足を折り畳み、犬を蹴り飛ばす。


僕はすぐに体を回転させるようにしてその場に立ち上がる。


犬を見ると、先程側頭部にナイフを刺した方の頭がぐったりとしている。


もう一方をやれば終わるか?


「!?!?!?――ゥゥッ!!」


犬が吠える。


先程とは違い、怒りを感じさせる叫びだ。


「!?!ウゥァァァ!!!」


犬が飛び上がり、前足の爪で攻撃してくる。


体を右前に移動させ避けるが、肩に傷がつけられる。

それだけでは終わらず、犬は住宅街の壁を利用して連続で攻撃してくる。


どうにか避けるが、僕の体には傷がどんどん増えていく。


僕が爪を避け、後ろの電柱に爪があたる。


ふと見てみると、その電柱は爪によって思い切り抉られていた。


直撃すれば致命傷は免れないだろう。


犬の動きが速く、まともに避けることさえ出来ない。

ギリギリで避けていたが、とうとう、犬のタックルを受け、思い切り吹き飛ばされ、後ろにあった公園の低い柵を飛び越えて、芝生にゴロゴロと転がる。


そして犬がかなりの速さで接近してくる。


犬は途中で飛び上がり、爪をつき出して飛び込んでくる。


僕は素早く転がって回避する。


犬の爪が地面にあたり、その部分が爆砕したように吹き飛ぶ。


その時の土の破片で、一瞬、目が塞がれる。


次に見た光景は、目の前にある犬のもう一方の頭だった。


回避は間に合わない、ナイフは相手に刺さったまま。

犬の牙が僕の首に届こうかという瞬間―


―犬の胴体が切断された。


牙は僕の首を捉えずそのままの勢いで僕の後ろに着地する。


「危なかったね、まさか初めてでこんな魔物が出るとは、君は運が悪いんだね」

声を聞いて振り向くと、白髪に長剣の少女―キノがいた。


キノは犬の頭の方に歩いていき、刺さっているナイフを引き抜く。


「立てる?立てるなら君がトドメを刺して」

そう言って僕の手を取って立たせ、ナイフを渡してくる。


僕は犬の方に歩いていき


「・・・ふっ!」


空気を吐く音と共に、ナイフで犬のもう一方の頭を貫いた。

ナイフが肉を貫く気持ち悪い感触が伝わってくる。


だが今は気にならなかった。


「!・・・これは」


見ると、ナイフを刺した犬の体から、光の粒子が出てきている。


「それが魔力だよ、この方法じゃあ効率がよくないから時間がかかるけど、最も安全なんだ」


言われ、キノに言われたことを思い出す。


―――










―――


「・・・直接的すぎてわからないんだけど、何で魔物と戦わなきゃならないんだ?」


「君の体の負担の原因は、体の中の魔具なんだけど・・・さっき魔具からは魔力っていう力が出ているって言ったよね?

その魔力が、体の中で制御できていないのが原因なんだ」


「内出血ってわかるよね?、それがかなり酷くなって、血が魔力に変わったと思えばいい、だからその為に、魔力を循環させて、制御するための管・・・魔力管を作らなきゃならない」


「作る方法は、単純に魔力に指向性を持たせて流せばいいんだけど・・・その流す魔力は、魔具のものじゃ強すぎてダメなんだ、川がどうやって出来るかを考えればいいよ」


「つまり・・・小さな魔力で少しずつ削って行って川を作らないといけないってことか」


「そうだよ、強い魔力だと制御出来ないでいわゆる氾濫を起こすかも知れないし、一気に体の中を削るようなものだから激痛が伴う」体の中を削る・・・想像しただけで痛そうだ。


「で、それがどうやって魔物退治に繋がるんだ?」


「魔物を倒した時に魔力が空気中に出てきて、少しなら体に吸収出来るから、それがちょうどいいんだ」


「でもどうやって戦えばいいんだ?その魔法の使い方なんて知らないぞ?」


そう、魔法は一度使ってきり、全く使い方がわからない。


「君は一回魔法を使っただろう?その時、何かイメージをしなかったかな?」


イメージ・・・確かあれは・・・


「『最善の自分』をイメージしたな」


今可能な範囲での最強、どういう風になれば戦えるか・・・そんなことをイメージした気がする。


「そのイメージをもって、魔力を身体中に行き渡らせれば、魔法の完成だ、多分イメージがなかったから今まで出来なかったんだろうね」


「・・・やってみる」


胸に意識を集中する。


鼓動の音とともに、何かが体に放出されているのがわかる。


『最善の自分』をイメージしながら、その力を身体中に行き渡らせる。


胸からどんどん凍りついて行くような寒さを感じる。

が、身体中に魔力が行き渡った瞬間、頭の中がクリアになり、集中力が上がる、同時に寒さが全く気にならなくなる。


「・・・どうやら体を強化するタイプの魔法みたいだね、疲れるだろうから解いていいよ」


「わかった」


集中を切らすと、身体中から冷たさが引いていった。

と同時に、強い倦怠感に教われる。


「・・・っ、これは」


思わず地面に座りこんでキノに問うと。


「反動みたいなものだろうね、魔法は個人で違うから私にはよくわからない」


「なんか無責任だな・・・」


そう僕はぼやいた、最早立つ気力さえ残っていない。

「仕方ないじゃないか、魔法には大きく二種類あるんだけど、その両方が個人で全く違うんだから」


「その種類っていうのは?」


「『固定想定』と『自由想定』っていうものだよ、さっき君が使ったのは『固定想定』だね、『最善の自分』っていう題が決まってるからそう呼ばれてる」


「『自由想定』はその名のとおり、自由に想定して、それを魔力に応じて現実に発生させるものだよ、私の場合は、ほら」


そう言ってキノは手を差し出す。


そして―


「何も起こってないじゃないか・・・」


今までうまく説明出来ていたのに・・・ドンマイだな。


「あぁ・・・そっか、見えるわけないか」


キノはそう言うと、しゃがんで地面の砂をとり、差し出した手のひらに落とす。

すると、手のひらに砂はおちず、上で砂が回転をしていた。


「こんな感じかな、私は風を操るのが得意だけど、君は・・・寒いって言ったよね?だったら魔具は氷に関するものだろうから同じく氷関係かな、多分」



氷か・・・確かにそれっぽいけど、更に寒くなりそうで嫌だ、制服が夏物になったら地獄だろうな。


「説明はこんなところかな、それじゃ改めて」


「私と一緒に魔物と戦ってくれないかな?」


彼女は優しく微笑みながらそう言った。

―――

―――


光の粒子が体にあたり、その部分にどこか暖かいような感触がある。


それを全身に流して行く。


流していると、全身にピリピリしたような痛みが走る。


これが例の体を削る感覚だろうか。


「終わった?」


「あぁ・・・」


言いながら、僕は集中を切らす、すると全身の冷たさが引いていく。


「!つっ・・・うぁ・・・」


瞬間、身体中に痛みが走る

強烈な倦怠感に痛み、ついでに頭痛までしてきた。


「あ・・・くぅ・・・」


たまらずその場に座り込む。


「大丈夫?」


「に見えるか?」


「全然、君の魔法は強力なぶん反動が激しいみたいだけど・・・まぁいつか慣れるよ」


「目標達成するまでに慣れればいいんだけどな、僕は後何回これを味わえばいいんだ?」


キノは顎にてを当てて少し考えると。


「魔物の強さにもよるけど、ざっと50ぐらいかな」


「・・・マジ?」


「マジ」


僕は絶句する、命に関わる事柄だから何も言えないが、後50回もこの痛みを味あわなければならないのだ。

それに今日だって、あの魔物に殺されかけたのだ。


今日はキノに助けられたが、次はどうだろう・・・魔具の侵食の前に普通に殺されそうな気がする。


「そういや、今日の犬、あれは強いほうなのか?」


「大したことは無いけど、素人なら確実に苦戦するぐらいかな、私もできるだけフォローするから」


「お願い、命がいくつあっても足りなそうだ」


「あ、そうだ」


「ん?」


言うと、キノはポケットから白い携帯を取り出す。


「もってる?」


「うん、持ってるよ」


僕はポケットから青い携帯を取り出す。


「魔物が出た時に知らせるから、連絡先をくれないかな?」


「さっきの遠くからでも聞こえる声じゃ駄目なのか?」


「あぁ、あれは相手の位置がある程度わかってないと使えないんだ、携帯電話ほど便利なものじゃないよ」

「そうなのか」


「そうなんだよ、だから連絡先をくれないかな?」


「ん、わかった」


僕は携帯を操作し、赤外線送信モードにする。


「・・・何をしてるのかな?」


「赤外線」


僕は携帯を突き付けながらそう言った。


「セキガイセン?太陽光の一部だね、それがどうかした?」


・・・?


「まさか、赤外線を知らないのか?」


「だから知ってるよ、太陽光の一部で、一番透過率が高いやつだろう?」


「いやそれはもういいって、今の携帯は、赤外線を使って簡単に連絡先を交換できるんだ、最近の高校生なら普通は知ってるぞ?」


そう言うと、キノは顔を俯かせる。


「お、おい、どうしたんだよ」


「・・・仕方ないじゃないか、今まであまり友達とか作らなかったし・・・」


何か触れてはいけないものに触れてしまったのだろうか・・・。


「・・・何かごめん、でも、何で学校では姿変えてるんだ?」


「・・・いろんな理由があるけど、やっぱりこの髪の色かな、かなり目立つし」

「それに、やってる事柄が事柄だからね、いつ死んでもおかしくないし」

・・・えらく重い理由だ、そんなことだろうとは思ったけど。


「・・・赤外線の使い方、わかるか?」


「・・・いや、そもそも携帯なんて殆ど触らないし・・・」


・・・重症だな、今の時代に。


「貸して」


「あ・・・あぁ」


キノから携帯を受けとると、操作をする。


途中で電話帳を見てみたが、親さえ登録されていなかった。


「・・・いやいや、いくら何でも親が登録されてないのはおかしいだろ」


「親はいないよ」


まさかの発言、また地雷をふんだか?


「・・・ごめん」


「謝らなくていいよ、というか、基本的にセイバーはみんな天涯孤独って言える状況だし」

天涯孤独・・・


ということは、彼女はずっと前から一人で生きてきたのか・・・。


交遊関係も携帯を見れば絶望的だろう。


彼女は・・・辛くないのだろうか?


「そういや、セイバーってどうすればなれるんだ?」

気まずい雰囲気を流すため、話をふる。


「死ねばなれるよ」


失敗、再び地雷だ。


「・・・冗談だろ?」


「間違いじゃないよ、正確には、この世に未練を残した人が死んだときに、権利が与えられる、セイバーになった人は、この世の全ての記録から抹消される変わりに、魔法の力を与えられ、この世に復活し、魔物を駆除する使命を与えられる」

「で、特定の目標を果たすと、願いを1つ叶えてもらえて、さらにこの世界の記録に復活し、第2の人生を歩めるようになるらしい」


「未練を持った人にとっては、生き返って、願いを叶えて貰えるんだから、願ったり叶ったりだろうね」



この世にそんなシステムがあるとは・・・。



何だかどんどん非日常に引きずり混まれている。


「・・・キノは何が願い何だ?」


また少し悲しげな表情をする。


「・・・わからないんだ、セイバーになる前の記憶が無くて・・・」


「だからそれを思い出すのが今の私の目標」


顔を上げて話す。


・・・


「ごめんね、暗い話ばかりで」


「いや、気にしてないよ」

ふと携帯を見てみると、既に補導される時間になっていた。


「もう時間も遅いし、帰るか、家まで送ろうか?」



「お願い、でも君は家が無かったよね、どうするのかな?」



「幸いお金はあるから、ビジネスホテルにでも泊まるよ」


そう言って僕は歩き出す。

「うーん、それじゃ、私の家にくる?」


・・・今何と?


「少し耳鼻科に行く用事ができたから遠慮するよ」


「そう・・・でも流石にこの時間は閉まっているんじゃないかな?明日にすれば?」


キノが先行して、僕達は歩き始める。


「あぁ、ついでに少し疲れてるみたいだから、ちょっと高めのホテルでゆっくり休むことにするよ」


「来ないのかい?早く寝たいのなら、私の家の方が早いと思うけど」


どうやら僕の耳は正常のようだ、取り敢えず・・・


「年頃の女の子が簡単に男を連れ込んじゃいけません!!」


その言葉に彼女はきょとんとして。


「何で?君は疲れてるから早く眠りたい、君は私を家に送ると言う、なら私の家なら早く眠れるじゃないか」


「そう言う問題じゃない・・・ほら、僕が君を襲わないとも限らないだろう?」

「君は僕を襲うのかな?」


「いや、襲わないけど・・・取り敢えず、男はみんな狼なんだから、少しは警戒しなさいってことだよ」



「じゃあ警戒して寝ればいいだけの話だね」


あぁ・・・そうだ、この人僕より遥かに強いんだった・・・。


僕はこめかみを押さえながらため息をついた。


「決定だね、じゃあ行こうか」


「はいはい・・・」


―――










―――


僕の目の前には、極めて普通のアパートが立っていた。


「ここがキノの家?」


「そうだよ、着いてきて」

そう言ってキノは歩いていく。


アパートの2階に上がり、ドアを2つ過ぎたところで彼女は止まる。


「ここが僕の部屋、さ、上がって」


鍵を開けてキノは部屋へ入っていく。


僕も中へ入ろうとすると、ドア横の表札が目に入った。

そこには『時風 輝乃美』という名前が書かれていた


「・・・『キノ』ってのはニックネームか何か?」


僕は部屋に入り、玄関先のキノに話かける。


「あぁ、名前のことね、『キノ』って言うのは私のセイバーとしての名前、『時風 輝乃美』って言うのは生活上の名前だよ」


「なんだそりゃ」


「だいたいの人はセイバーとしての名前と普段の名前を使い分けてるからね、まぁ、ニックネームみたいな感じでいいと思うよ、名前もそれっぽいし」


そう言ってキノはリビングに入って行く。


僕も着いていって入った。


・・・一言で言うと、その部屋は『殺風景』だった。

普通の女子高生が持っていそうなものが一切ない、というか机、その下にカーペット、ベッドぐらいしかものがない。


「少し待ってて、布団を出して来るから」


キノは箪笥を開くが、見る限りその中にも物は殆どない。


「あったあった、これでいい?」


「何でもいいよ、寒くなければ」


彼女は、今まで一体どんな生活をしてきたのだろうか?


生活感のない部屋を見渡しながら、僕はそう思った。

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