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2話

―夢何かじゃ、なかった。


「ヤット来タカ小僧」


あの時見たものは、現実―


「暇ダッタンデナ、殺シチマッタヨ」


そう言って、母さんと舞を殺し、夢の中で僕を殺した化け物は、ゆっくりと此方に近づいてくる。


「あぁ、あ・・・母さん・・・舞・・・何で・・・」

その言葉を聞いて、化け物は言う。



「アァ、コイツラハ・・・オマエノ家族か」


僕は、呆然としながら、その声を聞いていた。いきなりの事に頭が追い付かない。


「特ニ恨ミハネェガ、運ガ無カッタッテコトデ」


化け物が段々と近づいてくる、その光景が夢で見た光景と重なって、自らの状況を把握する。


―殺される。


「ソノ左胸ノ『魔具』返シテ貰ウゼ」



化け物が、僕の家族を殺した、夢の中で、何人もの人を殺したその鋭利な爪を突き込んでくる。


狙いは、僕の左胸だ。


―殺される


―殺される殺される殺される殺される殺される!!


何て理不尽だ、僕は何もしていないのに、訳もわからず殺されてしまう。


死にたくない


ただ、そう思った。


死にたくない、訳もわからず死にたくない、理不尽に死にたくない、ただ、そう思った。



―その瞬間、頭の中にイメージが流れ込んでくる


そのイメージは左胸から流れ込んでいる気がした。


イメージを言葉にするなら、最善の自分、そして冷酷な自分―


想像する、そしてその想像を、

左胸から出てくる『力』に乗せて、全身へ回して行く。


瞬間、体が今まで以上に更に冷たくなるが、同時に頭が冷えていくような感覚とともに、思考が、視界がクリアになり、自分が今、何をすべきかが解る。


「ナニッ!?」


左胸への攻撃を、体を右に傾けてかわし、同時に奴の腕の下をくぐり抜けて相手の後方へ回る。


相手の爪は空振り、後ろの壁を引き裂く、そして奴がゆっくりとこちらを向く。


「『魔術』ダト?中ニ入レタ『魔具』ノ影響デ使エルヨウニナッタノカ?」



化け物が何かを言っている、が、それを無視して僕は、普段の僕では考えられないスピードで相手に肉薄し、勢いを乗せたストレートを放つ。

相手はそれを左腕で受け止め、体を返して右腕の爪を突き出してくる。


僕はストレートの勢いそのままに右足を前に出し、そのまま体を回転させて右腕を避け、勢いを乗せた膝を相手の腹に食らわす。


膝蹴りを受けた相手は一瞬呻くが直ぐに膝を僕に放つ。


衝撃音とともに僕は大きく吹きとばされ、リビングの真ん中ほどに倒れる。


「クッ・・・『身体強化』ノ魔術カ・・・マサカ人間ガ『魔具』ノ『魔力』ヲ使ウトハ・・・」


化け物は僕にはよくわからないことを言っている。


あれだけの力で蹴られて、普通なら骨の一つも折れているはずが、普通に立つことが出来た。


だが、それは後で納得いくまで考えるとしよう。

今は目の前の敵に集中する。


先程の攻撃でわかったことだが、奴には僕の攻撃が通じていない。


ストレートを放った手の甲に至っては、奴の黒い鱗に阻まれ、骨にひびが入っているのではないだろうか。

つまり素手以外の攻撃手段が必要だ。


思い付いたら直ぐに行動を起こす、幸い、相手はこちらの注意を伺っている。


こちらが動いた瞬間、相手は腕を突き出す。


そうすると、突き出した腕に球体の炎が現れる。


「モウイイ、セメテ苦シマセズ殺スツモリダッタガ、貴様ノ燃エ糟カラ『魔具』ヲ取リ出セバイイ・・・灰ニナリ消エロ!!」


そして奴は球体の炎を僕に向かって投げる、まだ距離があるはずが、かなりの熱気を感じる、

当たれば本当に灰になってしまうだろう。


僕は横に素早く飛び、受け身をするや走り出す。


後方からの凄まじい爆風に煽られるが、どうにか走って行く。


着いた場所は・・・台所。


棚を開け、三得包丁を取り出す、これならば、生身での攻撃よりは遥かに期待できるだろう。


ふと熱気を感じ、横っ飛びする、さっきまで僕がいた場所には球体の炎が当たり、激しく燃え盛っていた、シンクのステンレスが溶けているところを見ると、やはりかなりの温度があるらしい。


「逃ラレルト思ッテイルノカァ!?人間風情ガァァッ!!!!」


そう言って奴は連続で炎の玉を飛ばしてくる


数は多いが、避けられないほどではない。


僕は体を捻りながら自分に直撃しそうなものだけを回避し奴に近づく。


僕が奴に肉薄した瞬間、右腕の爪を突き出してくる。

僕はそれを右に体を捻り回避し、懐に入ろうとする。

「チョコマカト鬱陶シイ」

が、奴は腕を伸ばしたまま、その腕で僕をなぎ払う。


本来ならばそんな力の入らない攻撃は通用しないが、奴は明らかに規格外、僕は大きく吹きとばされる


「消エロ!!ニンゲン!!」


更にそこに横に並べる様に3つの炎の玉を飛ばされる。


これは横には回避出来ない。


回避できる場所は・・・上だけだ。


僕は受け身を取った後大きく膝を曲げ、今できる全力のジャンプをして炎を飛び越え、更に上にある電灯を掴んで、ブランコからジャンプする要領で勢いを増し、一気に敵に近づく。


「コレデ終ワリダ」

が、既にそこにはもうひとつの炎の玉が放たれていた。


ギリギリで体を捻るが、空中ではうまく回避しきれず、胸から腰までを焼かれてしまう。


更に飛び込んできた僕の首根っこを奴の腕に捕まれて、そのまま持ち上げられる。


「中々ガンバッテイタヨウダガ、トウトウ終ワリノ時ガッ!?」


僕は持ち上げられたまま、奴の肘の内側に包丁を突き刺していた。


刃が肉を突き破る感覚が腕から伝わってくる。


たまらず奴の手が僕の首から離れる。


僕は地に足が着いた瞬間、そのまま懐に入り包丁で奴の腹に包丁を突き刺す。

が、次は包丁の刺さる感覚はない。


見ると、先端が腹に当たった所で刃が止まってしまっている。

動きの止まった僕の頭を、吹き飛ばさんばかりの衝撃が襲い、僕は大きく吹きとばされ、壁にぶつかる。


「フン、ソンナナマクラデ、俺ノ体ヲ切レルト思ッテイタノカ?」


奴が言い、足元に落ちた包丁を僕とは逆方向に蹴飛ばす。


包丁程度では肘裏や首など、かなり弱い部分しかまともに切れないようだ。


再び武器を見つけるために動こうとするが、立ち上がろうとすると直ぐに転んでしまう。


頭がぐらぐらして体がうまく動かない。


「貴様ハタダノニンゲンニシテハヨク頑張ッタ」

奴が手を前方に差し出すと、今までのものとは大きさ、熱量ともに比にならないほどの巨大な炎の玉が発生する。



「一瞬デ仕留メテヤロウ」

そして奴は、それを躊躇なく僕に放ってきた。


僕はどうにか打開策を考えるが、今さらどの方向に逃げても避けきれないし、ましてや防ぐことなどできはしない。


僕はせめて最後まで抵抗しようと炎球を直視する。



だんだんと炎球が近いて来て、肌が焼けるような熱さを感じる。


当たる― そう思った瞬間


巨大な炎は横からの強烈な衝撃によって、吹きとばされる。


炎は僕へ当たるコースを外れ、横の壁に当たり爆発を起こす。

その爆発によって再び僕は横に吹きとばされる、凄まじい爆風を顔に腕をやって防ぐ。


爆風が止んでいき、顔にやった腕をそっとどける。


ふと見ると、そこには、一人の少女の背中があった。少女の髪は真っ白な長髪で、それを後ろで一つに纏めている。


その手には、少女が持つにはとてもじゃないが重いであろう、長剣が握られている。


「間に合わなかったか・・・」


少女がそう呟いて、一瞬僕の方を向く。


そして少女は少し驚いたような表情をするが、直ぐに奴の方を注視する。


「チッ・・・時間ヲ掛ケスギタカ」


奴が呟き、手を前に差し出す。すると、手が光り始める。


手から出る光―いや、よく見ると光の粒子のようなものらしい―それが奴の手の内で形を成していき、次の瞬間、奴の巨体に見合う巨大なハルバードが完成していた。


「戦う気?私としては逃げないでいてくれるのは嬉しいんだけど・・・よっぽど彼の中が重要なのかな?」


「大当タリダ、小娘、ソコノ小僧ニハ『魔具』ヲ入レテイル、逃ゲテミスミス貴様ラニ与エル訳ガナイダロウ」


少女は長剣を構えて僅かに膝を曲げて、攻撃ができる体制になる。


「へぇ・・・彼が『魔術』を使えている理由はそれか、どうやら少し手こずったらしいね」

奴は半身になって、前の手で槍の刃の近くを持って構える。


「アァ、少シ遊ビ過ギタ・・・ダガ貴様ハ直グニ殺シテヤルヨ!!、『セイバー』アッ!!」


叫びとともに飛び出し、構えから強烈な突きを繰り出す。


少女はそれを長剣で素早く打ち払う、

相手は素早く槍を引き、もう一度突きを放つ。


少女はそれを打ち払い、素早く相手に接近する。


奴は前の足を素早く蹴り後ろに下がりながら、打ち払われた槍の勢いを利用して回転し、槍を大きくなぎ払う。


少女はかろうじて長剣を縦にして防ぐが、大きくふっとばされる、素早く受け身をとって、壁を蹴って相手に肉薄する。


奴は凪いだ槍の遠心力を利用してもう一度回転して槍を振るい、少女の長剣を受け止める。


そこには、明らかに現実離れした戦いがあった。


今ここにいる自分の家は、奴の放った炎によって激しく燃え盛り、先程の爆発のせいもあってか、直ぐにでも倒壊しそうだ。

なんだか、だんだん頭を冷やしていた何かが薄れてきているような気がする。


それ%それは、今までの世界とは全く違う世界に巻き込まれたのだと僕に教えてくれた。

「消シ飛ベェィッ!!」


その叫びとともに奴の手から複数の炎球が発生し、少女に飛来する。


「はあああぁぁっ!!!!」

気合とともに長剣を横薙ぎにすると同時に、剣の軌跡にそって突風が発生し、炎球を纏めて吹き飛ばす。


同時に素早く踏み込み、上段から斬撃を放つ。


更にそこから、下段からの切り上げ。


次に右肩からの振り下ろし。


左からの横凪ぎ。


奴は全てを槍で受けているが、受け身になって行く。

「クッ・・・離レロ!!」


奴は一瞬の隙をついて手に炎球を作り、それを爆発させ距離をとる。


そのまま強烈な突きを繰り出す。


少女はそれを長剣で受け止め、そのまま力で槍を下に下げさせ、その状態で拮抗させる。


「どうした?防戦一方じゃないか、私を殺すんじゃ無かったのかな?」


「グッ・・・調子ニ乗るな!!小娘ガァァァッ!!」


そう叫び、奴は槍を下に突きだす。


槍が床に当たり、床が爆発したかのように弾ける。


その衝撃で少女は後退する、それと同時に奴は槍を構え、突撃してくる。


見る限りただの突撃、少女はタイミングを合わせて、奴の胸に剣を突きだす。


「!なっ・・・」

奴は体を微妙にずらし、少女の剣は左肩に突き刺さる。

奴はそれを無視して少女の左手で剣を掴み右手のハルバードを突き刺そうとしてくる。


「離・・・せっ!!」


少女は空いている左手に風の玉を作り、奴の胸に叩きつける。


「グッ・・・」

その威力に奴は手を離してしまう。


その隙に少女は肩から剣を抜き、そのまま回転して斬撃。


奴は体を捻るも、ハルバードを持った右腕を肩から斬り飛ばす。


「とどめぇぇっ!!」


更に少女は追撃を加え仕留めようとする。


が、家が倒壊してきて道を阻んで行く。


「ッ・・・運が悪カッタナ、セイバーノ娘、今回ハココデ退カセテモラウゼ」


「くっ・・・待て!!」


少女がそう叫ぶ間に、奴は逃げて行く、が、一度止まり。


「アァソウダ、俺ノ名前ハ『ジュダ』ッテンダ、覚エトキナ」


そう言って、炎の中に消えて行く。


「クッ・・・」

少し悔しそうな仕草をした後、少女は僕の方を向く。

その時、頭を冷やしていた何かが完全に無くなる。


その瞬間


―全身に激痛が走った。


「っあ・・・は・・・ぐ」

声も出ないほどの激痛、に頭痛、吐き気、そして何より―


―急に死に対する恐怖、家族を失った悲しみ、そう言う感情が一気に押し寄せてくる。


まるで今までそこにあったものを全く無視していたかのようだ。


「あ・・・あぁぁぁぁ・・・」


殺して欲しくなるほどの苦しみに襲われながら、僕が最後に見たものは―


少女の、どこか悲しそうな顔だった―


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