1話
初めてなので見るに絶えないと思いますが、よろしくお願いします。
―という夢を、最近よく見る。
起きた直後の頭でそう考える、身体中汗だくで気持ち悪い・・・
まぁ自分が殺される夢など見てしまったのだ、当然と言えば当然だろう、少なくとも僕は殺されることに快感など覚えはしない。
「・・・寒っ」
布団から出た瞬間、そう感じた、だが今は5月、いくら汗だくとはいえ、寒さを感じるようなことは普通は無いはずだ。
「風邪でも引いたかな・・・」
そう軽く考えて、風呂場へ向かうことにした。
着替えを持って部屋を出て、風呂場へ向かう。
「あら幸早いじゃない、着替えなんて持ってどうしたの?」
その途中、母さんが話かけてくる。
「ちょっと寝汗が酷くて、気持ち悪いからシャワー浴びてくるよ」
「わかったわ、ご飯できるから、できるだけ早く上がりなさいね」
「わかってるよ」
先程の名前の通り、僕の名前は幸という、名字は氷川、氷川 幸だ、僕の若干幼い顔つき、耳が完全に隠れるくらいの長めの髪に眼鏡、体格も華奢だし、女の子っぽいと言われることもある。
僕は脱衣場で服を脱いで、シャワーのコックを捻る。
「冷たっ!?」
シャワーの水が直ぐにお湯になるわけもなく、元々寒い身体に冷水が降り注ぐ。
「ぐあああぁ寒いっ、早く暖まってくれぇ・・・」
少しするとシャワーは完全にお湯になり、冷えた身体を暖めていく
「ふぅ・・・、風邪、早く治らないかなぁ」
そう、この症状は今に始まったことではない、数日前、『あの夢』を見るようになってからずっとだ。
「別にそれ以外は大丈夫だし、何か別の病気なのかな?」
少し考えるが、特に何もわかりはしない、まぁいいかと気楽に考え、風呂場をでる。
学校の制服に着替えてリビングに来てみると、既に家族―母さん、妹の舞、が椅子に座って待っていた。
父さんは事情がありいない。
「兄ちゃんおそいー、早くしないと学校遅れちゃうじゃん」
「悪い、ちょっと長風呂しちゃったみたいだ」
そう言いながら僕は席に着く、朝食のメニューは白米、味噌汁、鮭の塩焼きとオーソドックスなものだ。
「朝から長風呂なんて・・・あまり時間ないんだから、もう少し早く起きればいいのに」
「それができたら苦労しないよ、それより早く食べよう」
「それもそうね」
「母さん、早くしないとおくれるー!」
「はいはい、それじゃ」
一家全員で手をあわせて食べ始める、そして食べ終わったあと、歯磨きをする。
鏡には少し青白い僕の顔が写っている。
やはり少し体調が悪いのかも知れない、言うほどでもないと思うが。
家を出て、いつもの通学路を通っていく、時間的にみんなが登校する時間だからか、回りにはちらほらと制服の人が見える。
「はぁ、どうしてこう、学校ってのは妙に山の上に作りたがるんだ?」
僕たちの高校は小さな山の上にある、その為、毎日、それなりに勾配のあるこの坂を登らなければならない、徒歩である僕はまだいいが、自転車通学には辛いだろう。
学校がよく山の上に立てられているというのは偏見だろうか?なんてことを考えていると、後ろから声がかかる。
「よっ、幸、おはよう」
「おはよう、幸」
「おはよう二人とも、二人がこの時間に登校するのは珍しいね」
話しかけてきたこの二人の名前は光代 陽介に富原 凛、僕の友達だ。
「あぁ、凛が窓から家に入って来て、
ちょっとドタバタしちゃてな」
陽介の家は僕の家のすぐ近くにある、そのため、いつもなら家を出てすぐに会うのだが、どうやら今日は横の凛と朝からトラブルを起こしていたようだ。
ちなみに陽介は容姿もさることながら、友好的な性格、勉強よし、運動よしのハイスペックだ、そのため僕の通う玄冬市にある玄冬高校でもとても人気があり、思いを寄せている人も多いらしい。
凛もその一人だ。全く、普通の僕にその特徴の一欠片でも分けて貰いたいよ。
「単純に陽介が起きないのが悪いんだよ!、全く朝は弱いんだから・・・」
凛がぼやく、この2人、凛と陽介の家は隣同士で、家の建築時のミスか何か知らないが、
両家間を窓から行き来できるぐらいに間隔が狭い。それを利用して、陽介にホの字の凛が毎朝窓から不法侵入を慣行し、陽介を起こしているというわけだ。
「それについては本当に感謝してるよ、ありがとう凛」
「ま、まぁね、陽介は私がいないとだめなんだから」
「ああ、俺も頑張ってるんだけど、なかなか起きれないからさ、できるようになるまでは、お願いするよ」
「・・・ずっとできなくてもいいんだけど・・・」
「?何か言った?」
「え?いや何でも無いわよ」
というような光景が毎日繰り広げられる、その間、僕は5m後ろからいつもその光景を見つめている。
正直空しく思うぐらいだ、普通の周りに普通がいるのなら別にいいが、こういう人気者の周りにいると、僕のようなちっぽけな存在など、無いのと対して変わりはしない。
「・・・寒っ」
もう少し厚着してくれば良かったと、晴天の空を見上げながら思った。
―ふと、空を見ていると、上空を何かが飛んでいる。
形からして、カラスや鳩ではない、もっと大きな鳥のようだが、ここからでは詳しい姿まではわからない。
―何だ?アレ・・・
その鳥は結構なスピードで飛んでいるらしく、すぐに建物に隠れ見えなくなってしまった。
「おい!幸!早くしないと遅れるぞ!」
陽介の声で現実に引き戻される、時計を見てみると、既にそれなりにヤバい時間だ、走って陽介たちに追い付く。
「何ぼーっとしてんのよ!早く走りなさい!」
「急ぐぞ!」
そして坂を登りきって学校につき、三階立ての校舎の一年校舎である一階の教室に入り、運よく獲得する事ができた窓際最後列の席に向かう。
カバンを置いて席につき、今日使う教科書を中に入れる。
が、入らない、途中で止まってしまう。
―何か入れたままだったかな。
机の中を探る。
グニッ
「・・・!?」
そっと机の中のものを引き出す。
そこには何かの腕が・・・
速攻で窓の外に投げ捨てる。
「・・・幸くん、今何を投げ捨てたんですか?」
そうこうしていると、前の席に座っている女の子が話しかけてくる。
「ああ、おはよう神木さん」
「あ、うん、おはよう幸くん・・・じゃなくて何を投げ捨てたんですか?」
彼女の名前は神木 愛奈、今のクラス分けで席が前になり、仲良くなった人だ。
「気にしなくていいよ、その・・・腕が入ってただけだから」
「腕!?机に!?物凄く気になるよ!?」
「あぁごめん、ゴミと間違えたよ」
「一ミリもかすって無いんだけど・・・」
「ごめん・・・最近ちょっと疲れてるみたいで・・・」
ふと窓の外を眺めどこか遠いところを見ながら言う。
「はぁ・・・何か達観してるみたいだけど・・・大丈夫?
ユキくん、なんだか最近本当に顔色が悪いですよ?」
彼女は本気で心配をしてくれているようだ、嬉しい限りだが、自分でも症状が意味不明だから何も言えない。
「大丈夫だよ、本当に辛かったら休むし」
「それならいいんだけど・・・辛かったり、悩みがあったりしたら言ってくださいね?この前のこともあるし・・・」
この前のこと―
そう、これも初めてではない、だから冷静に窓の外にフルスイングできたのだ。
―五日前だったか、初めて僕の机にそれ―その時は謎の妖精(?)だったか―それが机の中に入っていた。
当然僕は驚く訳で、声にだして「何か変なのいる!?」と言った、言ってしまった。
当然クラスの視線は僕に集まる、そして僕に向けられる若干の驚きと蔑むような視線―え?
「何あれいきなり叫んで」
「うわーヤバ」
クラスの視線は机の上の妖精(?)には集まらず、僕に集まっていく。
前の席からはびっくりというような表情を向けてくる神木さん・・・
その妖精が僕以外に見えないことに気づいたのは少し後のことだった―
という話だ。
幸い僕以外に見えないなら窓の外にフルスイングしても全く問題はないだろうし・・・
「大丈夫だよ、ちょっと疲れてるだけだし、ちょっと寒気がするけど、すぐ治るよ。五日前のは、できれば忘れてほしいな・・・」
「うぅん・・・頑張ってみる。でも、無理はしないでね?後ポイ捨てはダメ絶対です」
「ありがとう、辛かった言うから。捨てて迷惑になるものじゃないから問題ないよ」
「幸くんがそう言うならいいんだけど・・・捨てて迷惑にならない物って一体・・・あっ、先生来たっ」
先生が来たらしく彼女は僕に微笑んで前を向く。
「きりーつ、れーい」
このクラスの委員長の号令。先生の話が始まり、退屈な日常が始まる。
――
まぁ普通に授業を聞いて、ノートを取っていると、いつの間に昼休みになっていた、
財布を持って、購買へ向かう。
購買に着くと、時間が早かったためか、あまり人はいなかった。
「おばちゃん、あんパンとコーヒー牛乳」
「はいよ、200円」
僕はおばちゃんに200円を渡し、あんパンとコーヒー牛乳のはいった袋を受けとる。
そしてそのまま、学校の中庭に向かう。
中庭に着くと、そこには学校の制服を着た長身、強面の男性がいた。
激しく似合わない。
「や、真駆、今日は珍しく学校に来たんだね」
「留年しない程度には来るさ、相変わらず全く食わないな、お前」
彼、篝 真駆は、ぼくの昼食の袋を見てそういった。
「そうは言っても・・・これでお腹いっぱいになっちゃうんだから、しょうがないじゃないか」
「しょうがないってお前・・・普通の男子高校生にとっちゃあ、そりゃオヤツだと思うがなぁ、俺ならそんなもん腹の足しにもならねぇ」
そう言って、真駆は3つのコンビニ弁当を取り出す。
「今日のも賞味期限切れ?」
「いや、消費期限切れだ」
そう言って彼は一つ目の弁当を食べ始める。
大丈夫なのだろうか・・・。
彼はこの学校の1年生、同学年の僕の友達だ。
基本的に僕は陽介とは食事をしない、昼食時には陽介の周りにはホの字の人が集まって食事をするため、僕が入る隙間などないのだ。
なので他の友達と食べるか、中学以前から交流のある彼と普段は昼を食べている。
「全くそれだけでよく体が動くよなぁ、燃費が良くて羨ましいぐらいだよ」
彼は弁当をつきだす。
「僕と真駆を一緒に考えるのはどうかと思うけど・・・、というかいらないよそんなの、よく食べられるなぁ」
「どうせ捨てるもんだからな、食える時に食っとかなきゃならん」
・・・彼は何かの理由で金が必要らしく、様々なバイトを掛け持ちしている、この弁当はコンビニの売れ残りを頂いたものらしい。
時々学校に来なくなることもあるぐらいで、ちょうど二週間前にもまた学校に来なくなっていた。
事情を聞くつもりは無いが、一体何故そんなに金が必要なのだろうか・・・。
本当に金が無いらしく、昼休みに何処からか釣ってきた魚を七輪で焼いていたり、同じように何処からか取ってきた食べられるらしい草を焚き火で素揚げしていたりする、酷い時はウォータークーラーの水をがぶ飲みしているのを見かけることもある。
貧乏だが食料は何処からか調達してくるため、割と食べてはいるらしい、高校生とは思えない生活力だ。
ちなみに僕の身長が165センチ、体重が48キロ、真駆の身長190センチ、体重115キロ、見事なぐらいに真逆の体型だ、同じように考えるのは流石に無理だろう。
「つっても、既に女が羨ましがるレベルだぜ?それは、流石にもうちょっと太らねえとだめだと思うぞ、俺は、まさに骨皮って名字が似合う体になってんじゃねえか」
あんパンを食べながら、自分の腕を見る、明らかに同年代よりも華奢な細腕だ。腹の肉も摘む程さえ無い。
・・・もしかして寒いのってこれのせいか?何て思ってみる、隣の真駆の腕となんて比べ物にならない、枯れ木と丸太ほどの違いがある。
「逆に真駆はどうやったらそうなるのか聞きたいぐらいだよ」
「んー、まぁ普段から鍛えてるし、バイトも力仕事が多いしな、あとお前みたいな食生活だったら、少なくともこうはならねえよ」
「・・・もうちょっと食べるようにしてみるよ」そう言ってあんパンの袋を近くのゴミ箱に入れ、コーヒー牛乳を飲む。
ふと真駆のほうを見る
「・・・プッ!?」
思わず吹き出しそうになってしまう。
僕の視線の先にあったのは―
二日前に投げ捨てた、人の頭部(2/1スケール)がそこにはあった―
「・・・く・・ふっ・・・」
普通の人なら悲鳴をあげるところだろうが、慣れてしまった僕にとっては既にネタに等しい。
(耐えろ・・・耐えろ僕)
・・・慣れって怖い。
「・・・?何で笑ってんだ?お前」
当然コーヒー牛乳を若干吹き出しそうになってしまえば、真駆は聞いてくる。
「何でもないよ・・・何でも・・・」
笑いを堪えながら言う。
ふと時計を見ると、休みが終わる時間だった。
良かった、逃げ場ができた!
「も、もう休み終わるから戻ろうか」
「ん・・・もうそんな時間か、おいそんな急ぐなよ」
そして僕は校舎の方に駆けて行った。
後ろからは、真駆が訝しげな視線を向けながら、弁当ガラを片付けていた。
――
真駆と別れて(といっても同じクラスだが)、再び教室に戻り、退屈な授業をつづける。
6現の授業を受けているとき、それは突然起こった。
「・・・!」
思わず体を抱きしめてしまう。
「(何だ?・・・体が・・・寒い)」
、急激に体が冷えていく、まるで全身氷付けにされたような・・・真冬でも滅多に味わえないぐらいの寒さだった。
異変を感じ取ったのか、前の席の神木さんが後ろをふり向く
「・・・!ユキくん大丈夫!?どうしたの?」
「何か、突然寒く・・・」
「大丈夫?保健室行く?」
言いながら神木さんは僕の額に手を当てる、その手はとても暖かくて心地よかった。
すると、神木さんの顔が吃驚という感じに変わる
「(なにこれ・・・凄く冷たい)」
「幸くん、体が・・・凄く冷たいよ、先生、ユキくんが体調悪いみたいなので、私、保健室に連れて行きます」
「わかった、お願いね」
神木さんが先生に言い、僕にそっと寄り添って、保健室に連れて行く。
「失礼しまぁす、誰かいませんか?」
声は帰って来ない、どうやら誰もいないようだ。
彼女は僕をベッドに横たえて、体温計を渡してくる。
「ユキくん、今日はもう帰ったほうがいいよ、家で休んだほうが治りも早いだろうし」
「うん、そうするよ・・・流石これはちょっと辛いし」
「一人で帰れる?一緒に行こうか?」
本当に心配した顔で聞いてくる、こういう時にそんなことを言われると、何だかとても安心できる。
「大丈夫だよ、楽になるまでここで休むから、神木さんは授業に戻ったほうがいいよ」
「・・・わかった、けど辛かったらメールしてね?」ここまで気遣われると、変な感情でも湧いてしまいそうだ、だが、実際彼女は誰にでも優しいし結構な人に好かれているのではないだろうか。
「わかった、ありがとう、本当に辛かったら甘えさせてもらうよ」
「うん、それじゃあ、私は授業に戻るから、お大事にね」
そう言って彼女は保健室を出て行った、とりあえず辛いので布団をひっかぶって丸まっておく。
少し寝ていると、ピーピーと音が鳴る、体温を計り終わったのだろう、体温計を見て見ると。
「・・・へ?」
そこに書かれていた数字は、32,5℃。
普通なら絶対にあり得ない数字だ、38℃とかなら解るが、32℃なんて見た事がない。
故障かと思って計り直すが結果は同じだった。
「なんだ・・・これ・・・」
何だか怖くなってきた
少し休んでいると、体自体は比較的楽になってきたが、体温はそのままだ。
神木さんにメールで帰ることを知らせて、家に帰る。
家に帰る時の道のりは、朝より遥かに寒かった。
――
家にたどり着き、玄関を開けて、ただいま、と言う。
―?なんだかおかしい、家の中が妙に静かだ、それに、妙な匂いがする。
なんだか、生臭さと、鉄錆びの匂いを混ぜたような・・・
その匂いは家のリビングから漂って来ていた。
「母さん?帰ってきてないのか?」
そう言ってリビングのドアを開けると。
―思考が止まった。
部屋には、赤い服を着た母さんと、舞が倒れていた。
―赤い服?違う、あれは―
夢の内容が思い出される
まさか・・・
母さんたちはそれぞれ胸から赤いものが流れていて、それが服を床を、赤く染めて行く。
―そう、あれは、血だ
母さんたちから血がどんどん流れて行っている、母さんたちはピクリとも動かない。
そして、部屋の中央に立つ、黒い鱗をもつ2mはある化け物。
唐突に化け物は、舞の腕をちぎって、それを自信の口に―
「うっ・・・」
思わず膝をついて吐きそうになる、その物音に気づいたのか化け物が振り向いて、僕を見る。
そして、口元を歪めて、どこか片言で、底冷えするような声でこう言った。
「待ッテタゼ、『イレモノ』残ッタジンセイは楽シメタカ?」