情報漏洩で国が滅びた話
これはとある一国が、一夜にして滅びたお話。
荘厳なシャンデリアがいくつも吊るされた一室に、その王女はいた。
王女は何もかもを与えられ、退屈していた。
欲しい食べ物があればすぐに用意され、欲しい本があればすぐに読ませてもらえる。
誰もが私を肯定してくれる――だからこそ、つまらない。
ボトッ。
そんな王女の目の前に、何かが落ちてきた。
それは――何かを映し出すような、不思議な物体。
王女はそれを手に取る。
表面には、『ボタン』のようなものがあった。
カチッ、と押してみる。
すると――王女の姿が写し出された画像が、ぼんやりと浮かび上がった。
「これは……わたくし?」
続けて、画面に文字が浮かび上がる。
《アップしますか》
「アップ……?」
よく分からないまま、王女はそのまま押してみた。
――しかし、特に何も起こらない。
「なんなんですの……?」
心底つまらない、と感じたその時。
ピコン、と音が鳴る。
《メッセージを受信しました》
「これは……?」
王女はそれを押した。
すると――
大量の文字が、次々と浮かび上がる。
「うわー、すごいお綺麗! 一目見てみたかったです!」
「やっぱりすごいお城に住んでらっしゃる? 庶民の僕には分かりません」
賞賛の言葉ばかりだった。
だが、その中にひときわ気になるものが混じっていた。
「王女っていっても、実は大したことない城に住んでるんだろ」
「城の中にこもりきりでかわいそう。森の自然の方がいいわ」
王女にとって、そんな『言葉』を向けられたのは初めてだった。
けれど――楽しい。
ああ、世界が広がる。
いろんな人と話したい。注目されたい。反応が欲しい。新鮮な刺激が欲しい。
それから王女は、城内の至るところで自分の姿を映した画像を撮って『アップ』した。
甲冑の並ぶ部屋。図書室。会議室。
さらには城門の手前でも――。
様々なメッセージが届き、批判もあった。
それでも楽しかった。
私は、こんなにも狭い世界で生きていたのだと痛感する。
そんなある日――
また、新たなメッセージが届く。
「その本って××国の本ですね。拡大すれば分かるかも」
「その甲冑、何製?弱点は火だな、こりゃ」
「王女様、大丈夫?その城壁映しちゃって。場所が特定されますよ」
「その石材、この地域でしか採れないやつだ」
「この城の構造、だいぶ見えてきた。場所も特定したし。欲しいやつがいればこの情報売るよ」
――なんだ、このメッセージは。
王女の背筋に、ぞわりとしたものが走る。
もしかして私は、広げてはいけないものを、広げてしまったのでは。
その瞬間、城門に激しい衝撃が走った。
外が騒がしくなる。
叫び声、怒号、破壊音。
――逃げなければ。
そう思った、そのとき。
ふと、あの画面が脳裏に浮かんだ。
《アップしますか》
あのとき、何も考えずに押したボタン。
そこからくるたくさんの“言葉”が、私を満たしてくれた。
――けれど。
「……わたくしが」
すべてを広げてしまった。
城の構造も弱点も。
ああーー隠せばよかった。
全部――私が。
ピコン。
《メッセージを受信しました》
最後に浮かび上がったそれを、王女は見た。
「いいね、最高の情報ありがとう」
そして――
その王女は死に、国は滅びた。




