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情報漏洩で国が滅びた話

作者: 宮守悟
掲載日:2026/05/04

これはとある一国が、一夜にして滅びたお話。


荘厳なシャンデリアがいくつも吊るされた一室に、その王女はいた。

王女は何もかもを与えられ、退屈していた。


欲しい食べ物があればすぐに用意され、欲しい本があればすぐに読ませてもらえる。

誰もが私を肯定してくれる――だからこそ、つまらない。


ボトッ。


そんな王女の目の前に、何かが落ちてきた。

それは――何かを映し出すような、不思議な物体。

王女はそれを手に取る。


表面には、『ボタン』のようなものがあった。

カチッ、と押してみる。


すると――王女の姿が写し出された画像が、ぼんやりと浮かび上がった。


「これは……わたくし?」


続けて、画面に文字が浮かび上がる。


《アップしますか》


「アップ……?」


よく分からないまま、王女はそのまま押してみた。

――しかし、特に何も起こらない。


「なんなんですの……?」


心底つまらない、と感じたその時。

ピコン、と音が鳴る。


《メッセージを受信しました》


「これは……?」


王女はそれを押した。


すると――

大量の文字が、次々と浮かび上がる。


「うわー、すごいお綺麗! 一目見てみたかったです!」

「やっぱりすごいお城に住んでらっしゃる? 庶民の僕には分かりません」


賞賛の言葉ばかりだった。

だが、その中にひときわ気になるものが混じっていた。


「王女っていっても、実は大したことない城に住んでるんだろ」

「城の中にこもりきりでかわいそう。森の自然の方がいいわ」


王女にとって、そんな『言葉』を向けられたのは初めてだった。

けれど――楽しい。


ああ、世界が広がる。

いろんな人と話したい。注目されたい。反応が欲しい。新鮮な刺激が欲しい。


それから王女は、城内の至るところで自分の姿を映した画像を撮って『アップ』した。


甲冑の並ぶ部屋。図書室。会議室。

さらには城門の手前でも――。


様々なメッセージが届き、批判もあった。

それでも楽しかった。


私は、こんなにも狭い世界で生きていたのだと痛感する。


そんなある日――

また、新たなメッセージが届く。


「その本って××国の本ですね。拡大すれば分かるかも」

「その甲冑、何製?弱点は火だな、こりゃ」

「王女様、大丈夫?その城壁映しちゃって。場所が特定されますよ」

「その石材、この地域でしか採れないやつだ」

「この城の構造、だいぶ見えてきた。場所も特定したし。欲しいやつがいればこの情報売るよ」


――なんだ、このメッセージは。

王女の背筋に、ぞわりとしたものが走る。


もしかして私は、広げてはいけないものを、広げてしまったのでは。

その瞬間、城門に激しい衝撃が走った。


外が騒がしくなる。

叫び声、怒号、破壊音。

――逃げなければ。


そう思った、そのとき。

ふと、あの画面が脳裏に浮かんだ。


《アップしますか》


あのとき、何も考えずに押したボタン。

そこからくるたくさんの“言葉”が、私を満たしてくれた。

――けれど。


「……わたくしが」


すべてを広げてしまった。

城の構造も弱点も。

ああーー隠せばよかった。


全部――私が。


ピコン。


《メッセージを受信しました》


最後に浮かび上がったそれを、王女は見た。

「いいね、最高の情報ありがとう」


そして――

その王女は死に、国は滅びた。

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