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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第七章~無自覚好意編~

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第81話 嵐が過ぎ去ったあとは晴れそうなもんだけどなぁ

「ずっとこの日を待ちわびていたのよ、望」


 動揺する望や、その周囲で驚愕の色を露わにする妃菜達のことなどお構いなし。


 ベージュを基調とする華乃井女子学院のセーラー服に身を包んだ黒髪の少女が望に擦り寄って、切り揃えられた前髪の下から凛とした紺碧の瞳を向ける。


 背丈は妃菜よりやや高いか。

 線が細くスレンダーなプロポーションを誇り、固く精緻に整った顔は緊張感を覚えるほどに美しい。

 癖一つない烏羽色の長髪はサラリと涼しげに流れ、黒いタイツに包まれたおみ足は細く引き締まっており、膝上丈で揺れるプリーツスカートの裾からするりと伸びていた。


(ま、マジで誰っ、この美人……!?)


 ひたすらに戸惑う望。

 突然知らない人に擦り寄られ――まして、それがこれほどの美人ともなれば、様々な疑念と恐怖が頭の中に浮かんでくる。


「この目、この鼻、この口、この顔の輪郭。あの頃から成長していればこうなるはずだと思っていたわ。ええ、見間違いなんかじゃない」


 まったく知らない。

 見覚えがない。

 そのはずなのに……どうしてか、徐々に懐かしい感覚が擽られ始める。


「ようやく会えた……」

「お、お前は……」


 ふと小川のせせらぎが聞こえてくる。

 虫の演奏やカエルの歌、小鳥のさえずり。

 脳内に広がったそれらの音はやがて、望にこぢんまりとした東屋のある風景を思い起こさせる。


 ちょうど昨晩、寝る前にそんな懐かしい思い出が蘇ったのが幸いして、目の前の少女とかつて東屋で何度も言葉を交わした不思議な少女の面影が重なった。


「……か、薫……なのか……?」


 確認すると、少女はキョトンと目を丸くした。

 二、三度瞬きを繰り返し、クスッと少し挑発するように笑みを溢す。


「あら、今思い出したのかしら? 悲しいわね。私と目が合った瞬間に理解してほしかったのだけれど」

「いや、だって……えっと……」

「まぁ、こうして再会出来た喜びと比べたら些事ね。ええ、この瞬間から私を私と刹那のうちに認識して一時も忘れないでいてくれればそれで良いの」

「いや重いなっ!?」

「淑女に重いとは失礼ね?」

「物理でなく精神のお話ですっ……!」


 相変わらず片方の手をギュッと大切そうに握り込まれたまま、望が身を反ってたじろいでいると――――


「ち、近いよっ……!」

「……あら」


 ぶんっ、妃菜が腕を大振りに下ろしながら、望と薫の間に身体を滑り込ませて両者の距離を引き離す。


 薫は妃菜に手を払われる前に、パッと望の手を離して一歩下がっていた。


 望を背に庇うような格好で立つ妃菜。

 それに相対する薫。

 淡紅色の視線と紺碧の視線が衝突し、不可視の火花を散らす。


 他校――それもお嬢様学校の制服を着た生徒と睨み合っている構図に、ざわざわと野次馬が増えていく。


 俊也がどこか戦々恐々と、香澄は瞳を輝かせてニヤケを抑えられずに見守る先で、数秒の沈黙ののちに薫が口を開いた。


「私と望の再会に水を差すなんて……無粋ね、貴女」


 先程まで望に見せていた表情とはまるで違う。切れ長の紺碧の瞳は冷たく細められ、声色も固くワントーン低い。


 妃菜は眉をピクリ。

 一瞬気圧されそうになりながらも引くことはせず、少々ぎこちなさは残るものの笑みを作って返した。


「ふふっ、そっちこそ。許可もなくいきなり私ののぞ――私の友達の望くんに、無遠慮に近付かないでほしいな?」

「私が望にどう接するも私の自由のはずよ」

「えぇっと、少なくともいきなり擦り寄ってくるようなどこの誰かもわからない人って危ないと思うから、友達として私が望くんを守るのは当然だよね?」


 綺麗な顔立ちゆえに凄みを帯びている薫に対し、笑みを崩さず対抗する妃菜。薫は妃菜の言葉を静かに咀嚼してから、サッと肩に掛かっていた黒髪を手で払った。


「どこの誰かもわからない……ふむ、そうね。それに関しては私がつい高揚してしまったがゆえに、踏むべき順序を少しばかり飛ばしてしまったわね」


 少しばかり? と妃菜の背中で望が曖昧な表情を見せる。


 望や妃菜、俊也、香澄と他そこそこの数の野次馬が見守る先で、薫は右手を自身の胸に軽く添えて言った。


「華乃井女子学院高等部二年。日比峰(ひびみね)(かおる)――彼の幼馴染にして、彼を恋い慕う女、かしら」

「なぁっ……!?」


 野次馬がどよめく中、驚愕のあまり開いた口が塞がらない望。流石に黙ってられず、香澄と俊也が詰め寄る。


「おぉっと、ミモリン!?」

「おいおいおいおいマジか望!?」

「知らんっ! いや、幼馴染っぽい関係なのは認めるが、恋とか慕うとかは……」


 ――好きよ、望。


(あれかぁぁあああああああああああッ!?)


 所詮子供の好意。

 恋愛のそれとは縁遠いものだと勝手に解釈して深く受け止めていなかったが、どうやら恋心で間違いなかったらしい。


 ぐっ、と望が苦悶するように顔面を手で押さえる。


 妃菜はというと…………


「…………へぇ」


 笑ってはいるが、その淡紅色の瞳から生気の光というべきハイライトが完全に消え失せていた。


()()()家の……なるほどね……」

「ええ、そういうことよ。()()()さん」


 互いの視線を衝突させたまま、妃菜と薫は暗に何かを理解したように呟く。そして、薫は満足したように一度目蓋を閉じると、改めるようにして望を見やる。


「これ以上留まると騒ぎが大きくなりそうだから、今はひとまず再会出来ただけで良しとしておくわ」

「ちょ、おい……」


 望が呼び止めようとする前に、薫は身を翻して背を向ける。


「大丈夫よ。また、すぐ会えるわ」

「何が大丈夫なのかまったくわからんが……」


 望の呟きも虚しく、薫はサッと黒髪を払ってからヒールの硬い足音を遠ざからせていった。小さくなる背中を呆然と見送りながら、望は無意識のうちに後ろ首を撫でる。


「唐突に表れたかと思えば、荒らすだけ荒らして帰りやがって……嵐みたいな奴だな……」


 この場は一旦過ぎ去った嵐。

 しかし、それが決して猛威が収まったことと同義でないことを、望は日の変わらぬうちに思い知らされることになるのだった――――

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