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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第七章~無自覚好意編~

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第79話 子供だったし深い意味はないだろう

『か、勘違い……なのかなぁ……?』



 そんな言葉がそれを口にする妃菜の表情と一緒に脳内で何度も何度も反芻されて、望はその夜なかなか寝付けなかった。


 五月中旬。

 春も終盤を迎え、徐々に夏っぽさを感じさせる湿気が現れ始めている。とはいえ、エアコンをつけるにはまだ早い。いつもなら気にしない多少のジメジメが、今は寝苦しさに拍車を掛けていた。


「っ、妃菜が思わせ振りなこと言うから……」


 はぁ、とため息が零れ出る。

 基本うつ伏せでしか安眠出来ない望は、このままではとても寝られないとベッドに仰向けになり、持ち上げた腕を顔に乗せる。


「ってか、こうなったのも元を辿れば全部スミのせいだよな。マジでアイツ……!」


 明日にでも少し強めな手刀を頭頂部に振り下ろそうかと考えてしまう。文句は言わせない。


「あぁ……あっつい……」


 結局妃菜は否定も肯定もしなかった。

 ハッキリしないからこそ、本当のところはどう思ってるんだろうなどと考えてしまい、いつまで経っても寝られない。


(少なくとも、嫌い……ではないよな……?)


 同級生として。

 同居人として。

 魔法少女のパートナーとして。

 少なくとも望と妃菜の関係は良好だと言える。そしてそれは、望も妃菜も理解している。


 ただ、良好な関係かどうかはこの際どうでもいいのだ。


 そこに恋愛感情があるかどうか。

 少なからずあるこの好意は、恋愛的なモノなのかどうかだ。


(俺は、どうだろう……)


 妃菜はどこか放っておけない存在だ。

 生活力は皆無だし、目を離せばすぐに無茶しようとするし、自罰的とまではいわないまでも何かと自分を追い込みたがる。


 そんな妃菜を世話したい、面倒を見たい、傍で支えたいという思いは確かにある。加えて、その役目を自分以外の誰かに取られると考えると、素直に嫉妬してしまう。


 でも、それが恋愛感情なのかどうか……今でこそ振り切れているが、思春期の多くを不運にも両親の他界というショックから失意のままに過ごしてきた望には、恋愛なんてものは縁遠くて、これまで考えもしてこなかった。


 相手が男子だとか女子だとかで、向ける好意を区別したことがないと言ったらいいか。それらすべてを友情だと思って来たと言えばいいか。


(……いや、そういえば昔…………)




『――好きよ、望』


 ふと、そんな幼げな少女の声が思い起こされた。


 それはまだこの街から田舎に引っ越す前。

 望が小学校低学年で、両親が共に生きていた頃。


 知っているのは下の名前だけ。

 家も住所も学校も、知らないことだらけの不思議な仲良し。


 幼馴染と呼ぶにはあまりに情報が不足しており、幼馴染でないと断じるほど希薄な関係ではなかった。


 休日なら昼過ぎ。

 平日なら夕方。

 その小川の傍にある四角錐の屋根の下に木製のベンチとテーブルが置かれた東屋に行けば、もしかすると会えるかもしれない相手。


 帰る前に、次会う日の約束を交わすときもあったが、何も言わずに会えるかもしれないという期待だけを抱いて足を運ぶことがしばしば。


 互いに互いことを知らないなりに仲良くなって、かれこれ一年近くの付き合いになるだろうという頃、前触れもなく言われたことがあった。


『好きよ』と。


 そのときになんて答えたのかは覚えていない。

 というか、その少女とどんな他愛のない話をしたのかを思い出すことは、もう出来ない。


 だからこれは今の望がそのときの望の考え方や性格を踏まえて予想した返答に過ぎないが――――


『――好きよ、望』

『ん、ありがと』


 どうせそんな感じだろう、と望はベッドの上で小さく口角を上げた。


(今でもそんな気があるのに、あのときの俺が『好き』って言葉に深い意味を考えたりするわけないもんなぁ……)


 果たして、あのとき少女が言った『好きよ』にはどんな想いが込められていたのか。友情なのか、恋愛感情なのか、はたまた単に人間性が好ましかっただけなのか。


 今ではもう確かめるすべもない。

 下の名前以外、どこの誰かも知らないのだから。


 ただ…………


「かお……り? かお、る? ああ、(かおる)だ。そうそう、薫」


 濡れたような艶を出す、癖一つない黒い髪。どこか青みを感じさせるそれは烏羽色(からすばいろ)か。あとは、クールな印象を与える精緻に整った顔と、凛とした紺碧の瞳が印象的だった。


 可愛いというより、綺麗といった印象に近い。


 歳の頃は同じくらい。

 今頃はさぞかし美少女――いや、美人に成長していることだろう。


(結局、お別れも言えないまま会えなくなったんだよなぁ……)


 それこそ『好きよ』と言われた二、三日あとだったか。両親が死亡し、望は薫に会いに行くなどと考えられるような精神状態ではなかった。


 そのまま子供の頭では事情のよくわからないままに、気付けば田舎の祖父母に引き取られることとなり、それっきり薫とは顔を合わせぬままだ。


 今にして思えばまばらに顔を合わせていた程度の関係。連日で会うことももちろんあったが、一日二日開いてから会うことも多かった。そんな付き合いが一年弱。


 今まで望が忘れていたくらいだ。

 薫も望のことを覚えてはいないだろう。


 仮に思い出すことがあっても、幼い頃の良き些細な記憶という程度のはずだ。


「ふわぁ……うぅん……」


 懐かしさに浸ったお陰か。

 胸の騒がしさも落ち着いて、眠気が目蓋を重たくしてくる。


「……元気にしてれば、いいけどな…………」


 もう落ちかけの意識でそう呟いて、望はようやく眠ることが出来た――――

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