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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第六章~記憶の迷子編~

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第67話 つまりロミジュリってことですね!(違う)

「はぁ、たいした量にはなりませんね……」


 境内に出没したシャドウを一掃したあと、浄化されずにその場に残っていた黒魔力の残滓を回収したアフィスティア。


 差し出した掌の上に浮かぶ黒魔力を見下ろして面白くなさそうに呟き、指を折り込むことで吸収する。


 振り返ると、先程からじぃと見つめてきている望の姿があったので、アフィスティアは黒銀の仮面の下で怪訝に目を細めた。


「な、なんですか……?」

「いやぁ、どう見ても変身前後で同一人物なのにさっきまでそれに気付かなかったからさ……改めて加護ってすげぇ~、と思って」

「こうして一度バレてしまえばもう効力を発揮しませんけどね」


 そう言いながらアフィスティアが変身を解く。

 長く伸びていた灰色の髪はミディアムまで短くなり、ドレスから黒いコート姿に戻る。


 望の目には、もうその少女が紛れもなくアフィスティアとして映っていた。それはつまり、黒銀の仮面が取り外された素顔がアフィスティアのものだと初めて認識出来たということ。


(こうして見ると、やっぱり妃菜と少し似てるな……)


 目の色や形、髪の色と違うところはいくつかあれど、ふとしたときに見た横顔やラインに妃菜と重なるものがある。

 

「……さっきから人の顔をジロジロと、何なんですか」

「あー、いや。変身してるときは仮面つけてるだろ? だからお前をお前だと認識したうえで素顔を見るのは今が初めてなんだよなぁと思ったら、つい」

「見惚れていた、と? 気色悪い」

「いや別に見惚れてないけど」


 確かに非常に整った顔立ちをしていて可愛らしいが、望は毎日似た顔立ちの美少女をすぐ傍で見ているので、ある意味その手の耐性はついている。


「まぁ、でも。その顔を仮面で隠すのはもったいないなぁとは思ってしまうけどな。折角可愛いのに」

「かわっ……!?」


 望が残念そうに肩を竦めて素直に思ったことをサラリと言うと、アフィスティアはカァと顔を赤くしてから望を睨んだ。


「可愛いとか言うなっ……!」

「あ、照れた」

「照れてませんっ!」

「またまた~」

「んぁあああ、もうっ! こんな人助けるんじゃありませんでした!」


 バッ、と勢いよく背を向けたアフィスティア。

 望はしばらくニヤニヤとからかうような視線を向けていたが、それもすぐにふっと柔らかい笑みに変わる。


「ありがとな、助けてくれて」

「感謝とかいりませんから。私はただ、この場所へ道案内してくれたことへの借りを返したにすぎません」

「ちょっともらいすぎな気もするけどな」

「チップということで」


 風が吹き、ざわざわと境内を囲う木々が揺れる。

 陽光が遮られているせいで多少の肌寒さがあり、先程のシャドウの影響もあってかどことなく緊張感が漂っていた。


 しばし続いた沈黙を、アフィスティアが背中越しに切り裂く。


「……ですが、これで貸し借りナシ。私の正体も知られたことですし、もうこれ以上は行動を共にすることは出来ませんね」


 望は一瞬、正体がバレたからには口封じを――というありがちな展開を想像してしまったが、それを察してかアフィスティアがクスッと笑う。


「安心してください。この場で始末したりはしませんから」

「そ、それは助かる」

「ただ、勘違いはしないように」


 アフィスティアは振り返って、少し威圧するように紫炎色の瞳を細めて望を見据えた。


「次、敵としてまみえたときは、貴方の魔法少女はもちろん、必要とあれば貴方自身も容赦なく斬りますので」

「仕事とプライベートはきっちり切り替えるタイプってことね」


 望が了解を表すように胸の前に手を持ち上げてみせると、アフィスティアは「そういうことでもないような気がしますが……」と少し戸惑ったような表情を見せはしたが、あえて突っ込んでくるようなことはしなかった。


「じゃ、まぁそれはそれとして……写真はもういいのか?」

「え? あぁ……」


 望が当初の目的へと話の路線を戻すと、アフィスティアは一瞬キョトンとしたあとに辺りを見渡しながら答えた。


「そうですね。もう充分です」

「なら、このあとはもう帰る感じか?」

「いえ、実は頼まれごとがあって……」

「それって悪事じゃないよな……?」

「違いますよ。個人的に頼まれたことです」


 写真を撮っていたのもその一つだったんですが――と付け加えてから、アフィスティアは困ったように眉をハの字にする。


「何か本を調達してくるように言われたんですが、一体何を選べばいいのやら……私、本にはあまり詳しくないので」

「ほう、ちなみにその人はどんな本を読んでるんだ?」


 望が尋ねると、アフィスティアは顎に手を添え、記憶を掘り返すように数秒無言を作ってから答える。


「冒険譚を読んでいた気がします。確か、自分が外出しなくても冒険した気になれる、とか何とか……」

「俺と同じインドア派な匂いを感じる」

「というより、アレは引きこもりですね」


 アフィスティアは自分に頼みごとをした相手の姿を思い浮かべて、少し呆れたように笑みを溢した。

 そんな様子を見て、望も思わず表情を緩める。


(妃菜が心配する通り、由菜としての自覚がなくなってしまっているのは俺も不安だが、何と言うか……悪の組織がどうであれ、コイツはコイツでそれなりに上手くやってるんだろうな)


 少なくとも、捕まった挙句に酷い仕打ちを受け続けていたり、監禁されていたりなどということはなさそだということがわかる。


 とはいえ、安心しきることも出来ないし、妃菜と一緒に由菜を悪の組織から連れ戻すという目的は変わらない。


(ま、それを今ここで俺一人がどうこう思ったところで、何か出来るワケじゃないけどなぁ)


 出来ないものは出来ない。

 頑張るとか頑張らないとかそれ以前の問題だ。


 そして、どうにも出来ないことを考えるよりは、自分でも出来ることに思考のリソースを割いた方がよほど有意義。


 望は境内の砂利を踏みながら歩き出す。


「んじゃ、本見に行くか~」

「えっ、は……?」

「本は割と読むからオススメするぞ。ついでに夕食の買い出しも行けるし」


 一人で勝手に予定を決めて山を下りる階段の方へ歩いていく望の背中に、アフィスティアが慌てたように声を掛ける。


「ちょ、意味がわかりませんけど!? 私が敵だって今わかったばかりですよね!? これ以上一緒にはいられないって言った傍から――」

「――仕事とプライベートはきっちり分けるんだろ? 今はプライベート。ここにいるのは悪の組織の幹部じゃなくて、ただのツンデレ女子。何の問題もないな」

「つ、つんでれ……? 何を言っているのかサッパリですが、何故でしょう。凄く不服です」


 アフィスティアが首を傾げている間にも望の背中が離れていく。階段を下り始めながら、望はひらひらと手を持ち上げながら言った。


「ほら~、早くしないと置いてくぞ~」

「い、いや、でも……だって……うっ、うぅん……もぉうっ! わかりましたよ! 行きますよ行けばいいんですよねっ!?」


 互いが置かれている立場なんて意に介さずに接してくる望に振り回されっぱなしのアフィスティアは、もう半ばヤケクソでその後を追っていった――――

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