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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
序章~魔法少女との同棲生活に至ったワケ編~

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第05話 魔法少女の家でお世話になってお世話することになりました(?)

 怪異を打ち払ったあと、望は魔法少女を連れて自宅に上がった――――


【Before】

 よくある玄関で靴を脱ぎ、バストイレ一体型の浴室に入る扉を横目に廊下を歩き、正面の扉を開けると、そこはやや手狭な洋室。


 それでも、家具の配置はもちろん、収納術を活かした整理整頓が行き届いているお陰で、一人暮らしには充分なスペースが確保されていた空間が…………


 何と言うことでしょう~。


【After】

 人がすれ違うには幅の足りない廊下を抜けた先に広がるのは、生活感漂う住宅街の夜景とそれを静かに見守る夜空を一望出来る、風通しバツグンの展望デッキではありませんか。


 限られた室内面積の中で最大限ゆとりを感じさせる空間にするため、いっそのこと壁と屋根を取り払ってしまおうという一見奇抜にも感じさせる発想は、匠がマジカルに趣向を凝らした結果。


 この情報化社会の中でプライバシーを犠牲に叶えた新建築は、もちろんバストイレ一体型の浴室にも反映され、住宅地に突如として作り上げられた露天風呂&露天便所は、行き交う人々が二度見三度見ひいてはガン見すること間違いなし。


 至る所に散らばった瓦礫や使い物にならなくなった家具は、ごく一部で人気を博すミニマリスト的思考に対するアンチテーゼの意味合いが含まれていそうな、もはや現代アート。


 名高い建築士ですら一度開いた口を塞ぐのが困難なほど、マジカルかつミラクルで斬新なリフォームを施した匠の隣で、その家の住人が見せる反応は――――



(こ、これは……ちょっと冬の寒さをしのぐには心許ないかなぁ……)


 心ここに在らずといった感情のない目で、生まれ変わった――というよりは瀕死の部屋を見詰めていた。


(……まぁでも、こうして俺自身は怪我もなく助かったしな)


 あの状況から助かったんだから安い代償か、と割り切った望は、口角を緩めて肩を竦めた。


 そして、助けてくれた感謝を伝えようと、隣に並んで立っている魔法少女へ顔を向ける。


「えっと、ありがとうございます魔法少女さん――って、あの……魔法少女さん?」


 笑顔を作っていた望だったが、すぐにそれは心配そうな表情へと変わる。


 というのも、半壊した部屋を見詰めていた魔法少女が、顔面蒼白な様子だったのだ。


「……めん、なさい……」

「え……?」

「ゴメン、なさい……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいっ……!」


 小刻みに震える両手を顔の前に持ってきて、二歩、三歩と後退る魔法少女。


 何度も何度も繰り返し口にする謝罪の言葉はか細くどこか切実で、ハイライトを失って曇った淡紅色の瞳の端には薄らと涙が滲んでいた。


「ま、街への被害を最小限に戦おうとは心掛けてるんだけど……あの状況でどうしても射線を逸らし切れなくてっ……! ご、ごめんなさいっ……!!」

「あ、あぁいや! 大丈……夫ではないけど、少なくとも俺自身はこうして無事なワケですから! 謝らないでください、ね? むしろ助けていただいてありがとうございます。本当に」


 魔法少女がただならぬ様子で震えているので、望は顔を覗き込みながら必死に感謝を伝えて宥める。


 家は半壊したが、望は無事。

 助かった命を見れば、家一つくらい安い代償なのだ。


 望は半泣きになる魔法少女を落ち着かせるように笑顔を作った。


「で、でも私っ……」

「もう謝らないでください、ね? というか、逆に戦闘の被害がこの程度で済んだんですから、魔法少女さんは褒められるべきですよ」


 怪異との戦闘――それが強力な相手ともなれば、家の一軒や二軒吹っ飛ぶことも珍しくない。


 その影響で建築業界が盛り上がりに盛り上がりを見せて、花形業界になっているワケで。


 真っ直ぐ向けられる望の穏やかな視線と言葉に少し安心を覚えたのか、魔法少女の身体の震えが徐々に落ち着き、瞳にも輝きが戻ってくる。


「そ、そう……かな……?」

「ええ、元気出してください」


 元気づけようとする望の行動が功を奏したようで、魔法少女が薄っすらと笑みを浮かべてくれた。


「……うん、ありがと……」


 しかし、次の瞬間にぐらっ、と足元がおぼつかなくなってよろけてしまう。


「ちょっ、魔法少女さん……!?」

「だ、大丈夫、大丈夫。ちょっと疲れただけだよ……」


 確かによろけたのは一瞬。

 望が咄嗟に魔法少女の両腕を掴んで支えたこともあって、今は真っ直ぐ両足で立てているが、本当に大丈夫な人間がまずよろけたりするものだろうか。


 それに、冬であるにもかかわらず、顔に掛かる髪の毛が貼り付くほどに汗を掻いているし、先程から呼吸する度に両肩が上下に動いている。


 しかし、魔法少女はこれ以上望に心配されないよう、半ば無理矢理に話題を切り替えた。


「あっ、そういえば……」


 どうしたんだろうかと望が手を離すと、魔法少女は虚空に手を伸ばし、ぐにゃりと歪んだ空間から何かを取り出した。


「コレ、忘れ物だよ」

「あぁ、ありがとうございます……って、え? 俺のスマホ?」


 疑問符を浮かべる望の前で、魔法少女が困ったように笑う。


「うん。最初はこのスマホを届けるために追い掛けてきただけだったんだけど……御守くんを見付けたと思ったらシャドウに襲われちゃってて……ビックリしちゃったよ……」

「い、いや、そうじゃなくて……」


 確かに望はスマホを置き忘れてきた。

 しかし、それは家事代行サービスのアルバイトで向かった妃菜の家に、だ。


 決して、初対面なうえに住所なんて知る由もない魔法少女の家ではない。


(え、なに? 魔法少女ってお荷物お届けサービスでもやってんの……?)


 さらに言えば、魔法少女は当たり前のように名乗ってもいない望の名前を知っている。


 今にして思い返せば、空中に放り投げられて手を握るときにも呼ばれていたはずだ。


 わけがわからないと望が眉間にシワを寄せて悩んでいる様子を見て、魔法少女がクスッと小さく笑みを溢した。


「あぁ、そっか。この姿じゃ加護が働いてて私って認識出来ないよね……」


 私だよ――と言った魔法少女の身体が一瞬発光したかと思えば、その光が弾けたあとには魔法少女の装束を解いた少女が立っていた。


 それは、望が見慣れた……というか、最も記憶に新しい少女の姿で――――


「今日は家事代行ありがとう、御守くん」

「なぁっ……月ヶ瀬っ……!?」


 驚愕のあまり一歩後退る望。

 望が芸能人顔負けの百点満点の反応をするものだから、妃菜は口許に手を当てて可笑しそうに笑った。


「本当なら魔法少女は原則として、その正体を一般人に明かしたら駄目なんだけど……まぁ、成り行きとはいえ御守くんとは契約した仲なんだし。どうせ知ることになるから」


 家事代行先が美少女と有名な同級生の家で。

 帰宅途中に怪異に襲われ。

 魔法少女に助けられ。

 成り行きで御使いとして契約して。

 終いには魔法少女の正体が、その美少女同級生。


 今日一日であまりに多くの情報量が衝撃と共にインプットされたせいか、望は自身の頭が痛くなるのを感じて額を押さえる。


「な、なるほど……正直信じられないことばっかりだけど、紛れもない事実なんだよな。これが直に非日常の世界へ片足突っ込んだ気分かぁ……」


 はぁ、と望の口からため息が零れ出る。

 魔法少女――妃菜も、その反応に無理はないと理解を示すように微笑んでいた。


「えっと、一応御使い? になったワケだけどさ。これから俺は具体的に何をさせられるんだ?」

「ああ、うん。それなんだんけどさ、一つ提案があって……」


 妃菜は周囲を見渡した。

 目に映るのは、解放感という一点においてどの住宅にも引けを取らない部屋だ。


「取り敢えず、御守くんは住む家がなくて困ってるよね?」

「んまぁ、そうなるな」

「そして、私は私で困っていることがあるんだ。今日家に来てくれた君ならもうわかってると思うけど、家事がちょっと苦手で……」


 ちょっとという可愛らしい次元ではないが――と思わずツッコミを入れたくなった望だが、滞りなく話を前に進めるために今はグッと飲み込む。


「そこで、提案」


 ピン、と妃菜が人差し指を一本立てて見せる。


「私は君に家と生活費用を提供する。あの家、一人で住むにしては広すぎて部屋もまだ空いてるし、魔法少女の稼ぎって女子高生には多すぎて持て余しちゃってるんだ……」

「代わりに俺は家事をするってことか?」

「うん。あと、時々今回みたいに御使いとして魔力の補助をしてもらうことがあるかもしれないけど……どう、かな……?」


 恐る恐るという風に、妃菜が淡紅色の瞳を上目に向けて尋ねてくる。


 望は「んー」と唸りながら考える。

 だが、そう悩む時間は長くなかった。


「その提案、乗った。というかむしろ助かる」

「ほ、ホント……?」


 確かに家は半壊した。

 このままでは路頭に迷う……とまではいかないまでも、新たな賃貸を借りる際にはまたお金が掛かる。


 そうでなくても、特待生の枠を維持するための勉強を頑張りながら、生活費を稼ぐために休日や長期休暇を活かしてバイトもこなすという現状は、正直いずれ限界を迎えると考えていた。


 なので、得意な家事をこなしながら御使いとして魔力を提供する代わりに生活を保障してくれるのであれば、望としては願ってもないことだった。


「じゃあ、えっと……御守くん。これからよろしくっていうことで、良いかな……?」


 妃菜が照れ笑いを浮かべながら右手を差し伸べてくるので、望も同じようにして答えた。


「ああ、よろしく。月ヶ瀬」



 ウィンウィンの関係の締結。


 しかし、大量に分泌されたアドレナリンのせいだろう……このときの望には利害の面しか見えておらず、そのことにまったく気付いていなかった。


 妃菜と交わした契約が、つまるところ二人きりの同棲生活の幕開けであるということに――――

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