第24話 最近の魔法少女は恋愛だってしますもんね
「好きですっ! 俺の恋人になってください!!」
旧校舎の空き教室で密かに昼食時間を共にした望と妃菜は、突如そんな青春爆発な台詞が耳に飛び込んできて、帰るに帰れなくなってしまった。
互いに互いの驚き顔を存分に見たあと、静かに頷き合ってひょっこり窓の外を覗く。
そこには女子生徒に向かって男子生徒が深く頭を下げている光景があった。
男子生徒のネクタイは赤色なので望や結希の同級生だが、女子生徒は青いネクタイなので三年生。
三月のこの時期、進学でも就職でもすでに進路が確定して一段落しているはずなので、卒業生へ思いを告げるタイミングとしてはベストだ。
「(こ、これは俺達が見ていいものなのか……)」
偶然とはいえ覗き見していることに変わりはない。
好奇心があるとはいえ多少申し訳なさもあった。
そんな望の声量を抑えた呟きに、妙に瞳を輝かせている妃菜が同じく潜め声で返す。
「(だ、大丈夫だよ……! 先にこの場所にいたのは私達だからこれは不可抗力。ノープロブレムです……!)」
「(……なんか楽しそうだな?)」
「(だ、だって、他の人の告白現場なんて初めて見るんだもん……!)」
わぁ、と興奮気味に息を溢す妃菜の顔は、告白の空気に当てられてか赤みが差していた。
望はそんな姿を可愛らしく思って、つい妃菜の横顔をジッと見つめてしまっていることに気付き、少し慌てたように目線を窓の外へ戻す。
(さて、名も知らぬ同級生の告白は如何に……)
フラれる現場を見るのは気まずいので、出来れば恋が成就してほしいと祈りながら、やけに長く感じられるたった数秒の沈黙を噛み締め――――
「……私の方こそ、よろしくお願いします」
「ほ、ホントっすか……!?」
「もちろん! 受験が終わるまで待っててくれてありがとうね!」
っしゃあ~! と声を上げて何度も何度もガッツポーズをする男子。
望と妃菜も恋が実った瞬間を目撃して、それはもう何かのワールドカップで日本が勝利した瞬間のような興奮を沸き上がらせていた。
突然告白が聞こえてきた先程とはまた違った驚き顔を向かい合わせにし、声を出さずに口をパクパクさせたり、何度も頷いたり、手を打ち付けることなく寸止め拍手を繰り返したりする。
「(なんかこっちまで嬉しいね……!)」
「(良いもん見れたなぁ……)」
さて告白成功後二人はどうするのか、と望と妃菜は再び窓の外へと視線を覗かせ――――
「先輩……」
「誰も来ないから大丈夫だよ……」
「「おぉ……」」
ただ声を漏らすことしか出来ない望と妃菜の視線の先で、恋人関係を成立させたばかりの二人は、力強い抱擁を交わしたあとに互いの唇を貪っていた。
それはもうたっぷり数十秒。
一体どんな反応をすればいいんだと困った望は、参考までにと思って隣を確認する。
「ひゃぁ……わ、わぁ……」
「…………」
ガッツリ見ていた。
さらに言えば、小癪にも一応見ないようにしようと努力してます感を醸し出すように顔を諸手で覆ったうえで、もはやザルとばかりに開いた指の隙間からガン見している。
そして、望はそんな妃菜に半目を向けていた。
そんな状態は出来立てホヤホヤカップルが満足して旧校舎前から立ち去るまで続き、始終を見届けた妃菜は「ふぅ……」と息を吐いて熱くなった顔を手で扇ぐ。
そこまでしてようやく望の視線に気が付いた。
「な、なに……?」
「……むっつりめ」
「ち、違うよっ……!?」
折角冷ましていた顔も、望の一言で再熱してしまう。
「だって、まさか恋人になって早々あんなことするとは思わなかったし、一体どこまでするんだろうって単純に気になって確かめただけだよ……!」
「その割には食い入るように見てたけどなぁ?」
望がからかうように目を細めると、妃菜はとても魔法少女として怪異を吹っ飛ばす力を持っている魔法少女とは思えない、威力皆無のパンチを繰り出してきた。
「もぉう、違うもん……!」
「あっははは、悪い悪い」
「いつも優しいのに時々イジワルしてくるよね、望くん……」
ごめんって、と望が笑い混じりに平謝りすると、妃菜は拗ねたように唇を尖らせたが、すぐに柔らかい笑みを溢した。
「でも、いいなぁ……」
「キスが?」
「ちーがーうーよぉー、もぅ。恋がだよ」
妃菜は空き教室のどこへともなく視線を投げて語る。
「さっきの二人、凄く幸せそうだったでしょ? その証拠に、高純度の白魔力も漂ってたしね。心の底から好きだって思える人と結ばれるなんて、凄く素敵でロマンチックだよ……」
恋に憧れて感慨に浸っている妃菜の姿を見た望は、目の前にいる少女が街の平穏の守護者と呼ばれる魔法少女である前に、一人の女の子であることを実感する。
「だから、そんな幸せを守らなくちゃね……魔法少女として」
「まぁ、それはそうかもしれないけど、別に他人事みたいに言わなくても魔法少女だって恋したかったらすればいいんじゃないか?」
アイドルじゃないんだからさ、と肩を竦める望。
「ほら、好きな相手と結ばれて幸せになれば、白魔力も回復出来て一石二鳥だしな?」
「そ、そんなお得そうに言われても……」
もちろん冗談ではあるが、そういったメリットが存在するのも事実だろう。
愛が力に――いかにも魔法少女映えしそうな字面だ。
「これまで告白してきた人の中に、良さそうな相手はいなかったのか?」
美少女として学園人気が高い妃菜。
定期的に誰に告白されたという噂話が、望の耳にも入ってくる。
同時に妃菜にフラれたという話に変わるワケではあるが。
「うぅん、正直あまりよく知らない人から急に告白されることが多いから、良いとか悪いとか以前の話かなぁ……」
「そ、そりゃ大変だな……」
「まぁ、私が儚げで可愛いのが悪いんだけど……」
「一応言っておくが、お前そのスタンスを人前で出すなよ? 絶対女子から嫌われるから」
自分の魅力を自覚したうえでモテているくせに何故か自己肯定感が低くて恋愛にも積極的でない人間ほど、思春期の女子社会における厄介な敵はいないだろう。
流石に妃菜もそのことはわかっていたようで、「わかってるよぉ」とつまらなさそうに答えた。
「ま、そういう相手が見付かれば良いな――妃菜にも」
「……えっ?」
話を切り上げる雰囲気を出して立ち上がる望に、妃菜が数秒のタイムラグを経て丸い目を向けた。
「い、今呼んでくれた? 呼んでくれたよね……?」
「さー?」
「えぇ……!? 呼んでくれたよぉ……!」
妃菜は慌てて弁当を持って、先に帰ろうと歩き出す望の背中を追い掛けた。
「もう一回呼んで?」
「えぇ~」
「ねぇ、望くん……!」
「用事がないのに呼びませーん。それより、他人に見られないようにバラバラに帰るからな」
望はそう言うと、一人妃菜から逃げ出すように駆けていった。
置いていかれて「もぉう……」と不服そうにするしかない妃菜の目には、小さくなっていく望の背中こそ映っていたものの、気恥ずかしさで赤く染まった顔は隠れて見ることが出来なかった――――




