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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第一章~限界魔法少女攻略編~

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第15話 お前ごときが心配を掛けられると思うなよ?

 望がテュカに口止め料的な意味合いも多少は含まれているドーナツを奢ってから、しばらくしないうちにその日は訪れた――――



 今日は朝から薄らと雲が日差しを遮っていた。

 いつもより肌寒い日中を学校で過ごし、放課後に降り出した小雨の中走って帰宅し、日が沈む頃にはざぁざぁと雨音が騒ぎ始める。


 そんな中、望は勉強もほどほどにして、玄関先から泣き崩れた夜景を眺めていた。


 十五分、三十分、四十五分……このまま一時間の経過を見守るつもりで佇んでいると、淡い光の粒の軌跡を敷いた白い流れ星が目の前に降り立つ。


 ピチャッ……!

 

 軽やかに着地して、ヒールが玄関先の水溜まりに波紋を立てる音は、この雨音の中でも鮮明に際立って聞こえた。


「……おかえり」


 望が呟く。

 魔法少女装束のドレスをぐっしょり濡らして重たくした妃菜は「ただいま」と答えようとして、ぐらっと身体を崩れさせた。


「っと……」


 倒れる前に駆け寄って支えた望。

 雨を凌いでくれていた屋根の外に出たため、頭と背中があっという間に冷たくなっていく。


「よく頑張ったな」

「……うん」


 望の腕の中で、パラパラァ……と光の破片が剥がれ落ちていくように妃菜の変身が解け、こんな時間に学校から帰って来たかのような格好になる。


「でも、無茶はしないって約束だったよな」

「…………」


 静かに確認する。

 妃菜に反応はない。


「限界だと感じたら休むって約束だったよな」

「…………」


 繰り返し確認する。

 返事はないが、妃菜の手が望の服を掴んだ。


「月ヶ瀬、まだ《《平気なフリ》》が出来そうか……?」


 その手にギュッと力が込められ、望の服に深いシワが刻まれる。


 妃菜は自分の表情が望には見えていないとわかっていながらも、無理矢理に口角を持ち上げて、絞り出した声が裏返らないように気を付けながら口を開いた。


「……も、もちろん、だよっ……全然、まだまだっ……」


 表情筋が言うことを聞かない。

 妃菜がいくら笑おうとしても、口角はピクピクと痙攣するだけ。


 まして、込み上げてくれる嗚咽を完全に抑えきることなど出来るはずもなく、紡ぐ言葉は震え、呼吸は短く不規則になる。


「わ、私はっ……大丈夫、って……平気だよって、言いたいのにぃっ……!」


 持ち上げられたその顔を濡らしているのがすべて雨のせいだなんて、妃菜がどんな言い訳を並べ立てても望は納得しないだろう。


 妃菜が口から吸い込んだ空気が、喉でひゅうと音を立てる。


「――もうっ、言えないよぉっ……!!」


 バシャッ、とその場に膝を突いた妃菜。

 庭の泥が飛び散って、スカートと脚を汚した。


 あぁぁ――と、望がこれまで聞いた妃菜のどんな声よりも大きな泣き声は、都合よく一緒に泣いてくれている雨が掻き消している。


 望も膝を折って目線の高さを揃えると、泣きじゃくる妃菜の白い頭をくしゃりと撫でた。


「月ヶ瀬は凄く頑張ったよ。だから、ちょっと休もう」


 体温を感じさせない濡れた身体の冷たさが、さらに心まで凍えさせてしまわぬうちに、望は妃菜を連れて家の中に入ったのだった――――



◇◆◇



「はい、ココア」

「……ありがとう、御守くん……」


 望は両手にココアの入ったマグカップを持ってきて、片方を妃菜に手渡す。


 パチッ……!

 パキパキッ、パチッ……!


 リビングにある薪ストーブは赤々と燃え、小気味の良い音を奏でている。


 妃菜は風呂に入って身体を温めたあとも湯冷めしないように、ブランケットに包まった状態で薪ストーブの放射熱を浴びていた。


 望もそんな妃菜の隣に腰を下ろし、並んで炎を見つめながら湯気の立つココアを飲む。


「……月ヶ瀬、魔力見させてくれ」

「……うん」


 薪ストーブの方へ呆然と向けられていた妃菜の顔がこちらを向く。


 腫れた目元を見てギュッと胸が締め付けられるような心地になりながら、望は妃菜の額に自分の額を重ねた。


 密に魔力のパスが繋がり、妃菜の魔力が見えてくる――――



――――――――――――――――――――

【月ヶ瀬妃菜】

魔力量上限値:30

白魔力量  :2

黒魔力量  :14


☆☆・・・・・・・・・・・・・

・■■■■■■■■■■■■■■

※白魔力:☆ 黒魔力:■ 枯渇:・

――――――――――――――――――――



「……闇堕ち寸前もいいところだな。無茶するなって言ったのに」


 額を離してため息をつく望。

 妃菜は折り曲げた膝に顔を埋めた。


「ごめん……なさい……」

「それは何についての謝罪なんだ?」

「……迷惑、掛けたから……」

「はぁ……」


 望は再びため息をついた。

 先程より少し大きいその音に、妃菜は蹲ったままビクッと身体を震わせる。


「なら、その謝罪も罪悪感もいらないな」

「……え?」


 妃菜が埋めていた顔を持ち上げる。

 意外そうに向けられる視線の先で、望は澄まし顔で肩を竦めた。


「だって、別に迷惑だなんて感じてないからな。掛けられてもない迷惑について謝られても困る」

「い、いや……掛けた、よね? だって私、御守くんに口止めさせたし、やらなきゃいけない御使いの仕事もさせなかったし、勝手に学校とか家とか抜け出してたし……」


 口を開けば開くだけ出てくるでしょ、と。

 そう言いたいような表情だ。


 しかし、望は首を横に振った。


「やっぱり違うな」

「違うって、何が……?」

「迷惑ではないなってこと」


 では何なのか――よくわからなさそうに見つめてくる妃菜に、望は答えを教えてやった。


「それは心配って言うんだよ」

「しん、ぱい……?」


 ああ、と頷く望。


「そして、俺が心配してたことについても、月ヶ瀬が何か申し訳なく思う必要はまったくない。だって、俺が勝手に心配してただけだからな」


 首を傾げる妃菜に、望は小さく笑って見せた。


「『心配を掛ける』なんて表現があるけどさ、それって本当に正しいのかって俺は思うんだよな。だって、心配は《《するモノ》》であって《《させられるモノ》》じゃないから」


 持論を展開する望が薪ストーブの炎へと顔を戻しても、妃菜はどこか見入るように橙色に照らされるその横顔へ視線を向け続けている。


「考えてみろよ。例えば人に『迷惑を掛ける』のは簡単だ。俺だって掛けようと思えばいくらでも掛けられる。そこらの道行くオッサンの前で通せんぼでも何でもしてやればいい。迷惑ってのは能動的に起こせるモノだからな」


 でも、と望は続ける。


「心配はそうじゃない。何の関係値もない見ず知らずの奴に、自分のことを心配してもらうだなんてことは簡単には出来ない。『自分のことを心配してください』って頼めば心配してもらえるもんでもないしな。人の心はそう簡単に動かないだろ?」


 いやまぁ、頭の方は心配されるかもしれないけど――と望は冗談めかしく笑みを溢すが、今語っているのはそういうベクトルの心配ではないので置いておく。


「心配は迷惑に対して受動的なモノだ。心配された側からすれば『心配を掛けた』気になるのかもしれないが、それは誤解だ。だから、もし月ヶ瀬が俺に『心配を掛けた』とか思ってるなら、それは傲慢で、思い上がりも甚だしいとしか言いようがないな」


 望はそう言って、ニヤリと少し意地悪く口角を吊り上げて、妃菜の顔を覗き見た。


「じゃ、じゃあ……私は、君に何を思えばいいの……? この気持ちに罪悪感と名前をつけちゃダメなら、なんて言えばいいの……?」


 わからない。

 ただひたすらにわからない、と。


 不安げに炎の明かりを揺らす妃菜の淡紅色の瞳に、望はさも当然とばかりに答える。


「何も思う必要はないし、何も言う必要もない」

「で、でも……」

「お前は俺が気付かないうちに、魔法少女のマジカルパワーで勝手に心を操作でもしてたのか? 心配を強制してたのか?」

「そ、そんな力はないよ……!」

「だったら、俺が勝手にやったことだ。俺が心配した、心配したくてしたんだ。間違っても心配してやっただなんて恩着せがましく言うつもりもない」


 でも、そうだなぁ……と。

 望はどうしたらいいかわからなそうにしている妃菜に、一つ願望を伝えてみることにした。


「それでももしお前が俺に何かを思いたくて、言いたいなら、それが嬉しいことであってほしいかな。だって、俺はお前に『ごめんなさい』を言わせるために心配したんじゃないからさ」


 そう。

 謝罪の言葉は必要ないし、求めてもいないし、欲しくもない。


 だから、もし何か返されるものがあるとするならば――――


 妃菜はその答えに辿り着いて目を見開いた。

 じわり、と頬に差す赤みは薪ストーブの炎に照らされて誤魔化されているが、はにかんで細められる瞳は、照れながらも隠しきれない嬉しさを物語っていた


「……御守くん」

「ん?」

「ありがとね……」


 人から何かをもらったら、感謝する。

 それが心配――心を配ってもらったのなら、なおさらだ。


 そんな当たり前のことだというのに、配った心に対して謝られたりしたら、心配した方が悲しくなってしまう。


 だから、心配したことに対してもし何かが返ってくるのであれば、それは感謝であればいい。


 心配してくれる人がいるというのは、それだけで充分幸せなことなのだから。


 望は満足そうに表情を綻ばせて、半分無自覚に妃菜の頭へと手を伸ばした。


「……ああ。これからはもっと頼って、ワガママになって、遠慮せず甘えてくれ。そんで沢山心配させろ」

「ふふっ、うん……」


 望の手の温かさに、妃菜は心地良さげに微笑んでいた――――

読み進めていただいてありがとうございます!


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ではっ!

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