第12話 魔法少女の安売りは遠慮します!
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【月ヶ瀬妃菜】
魔力量上限値:30
白魔力量 :4
黒魔力量 :8
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※白魔力:☆ 黒魔力:■ 枯渇:・
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「お、おい、月ヶ瀬……」
「……なに?」
数秒経って、妃菜がくっつけていた額を静かに離す。
最初こそ美少女の顔面が急接近してきたことによるドキドキがあったが、今の望にそんなものを感じている余裕はなかった。
額を合わせた瞬間、妃菜と強い繋がりを感じると共に脳内に浮かび上がるようにして見えた魔力の状況が、とても楽観視出来るものではなかったからだ。
「確認したいことが、三つある……」
「うん」
「まず、魔法少女の魔力上限値は二十前後が平均だって教えてもらってる。つまり、三十もある月ヶ瀬はかなり優秀な魔法少女なんだな」
「そうだと嬉しいかな」
素直に喜ぶことはせず、妃菜の表情には曖昧な笑みが浮かぶ。
「二つ目。上限値大きい割に魔力不足すぎないか?」
「あはは……」
「お前がふとした瞬間に体調悪そうにしてたのも、絶対ソレが原因だろ」
バレちゃったね、とやはり妃菜の笑顔には力がない。
「んで、最後だ。ぶっちゃけこれが一番驚いてる」
望の目が、一層真剣なものへと細められた。
「魔力上限値の半分以上を黒魔力が占めたら闇堕ちのリスクが急上昇するんだよな? さっきお前が言ってたことだ」
「そうだね」
「つまり、お前の場合十五以上黒魔力を溜めると超危険水域ってことになるが、すでに八も溜まってる。充分危険水域じゃないのか?」
おまけに魔法少女の力の源となる白魔力量は四で、黒魔力量の半分しかないときた。
それがどれほど深刻な状況なのか、御使いになったばかりの望より、妃菜自身の方が理解して、実感しているだろう。
だというのに――――
「うん、危険水域だよ」
「う、『うん』って……お前なぁ……」
妃菜は悟ったような微笑みを浮かべながら、平然と肯定してくるのだ。
望はため息を溢したあと、魔力計測が終わっても身体の上に乗り続ける妃菜に半目を向けた。
「協会に報告した方が良いんじゃないか?」
「ダメ」
「なんで?」
「魔法少女としての活動を禁止されるかもしれないの」
妃菜は伏し目がちに言葉を溢す。
「もちろんずっとじゃないだろうけど、いつまで続くかはわからない……そんなのはダメ。私にはやらなくちゃいけないことがあるから……」
再び向けられた瞳には、確かに何か覚悟を決めているような光が宿っていた。
しかし、それは前向きな決意の現れとは言い難く、悲しそうで、寂しそうで、どこか自虐的な揺らめきを帯びている。
「だから、お願い。協会には報告しないでほしい。もし約束してくれるなら……私、御守くんに何でもするから……」
「……っ!?」
妃菜が縋るような視線を向けてくる。
何でも、という言葉の価値を証明するかのように、まだ湯上りの熱が残る身体を意図的に密着させてきて、指先で望の胸元を撫でる。
望は本能に背を向けて、自分に触れてくる妃菜の手を掴んだ。
「し、しなくていいから……!」
「どうして? 自慢出来ることはほとんどないけど、私、自分でも思っちゃうくらいには可愛いよ……?」
「お前、自己肯定感低いクセにそこだけ自信あるのなんなんだよ……!?」
たまらずそうツッコミを入れてはしまったものの、恐らく自信があるのではなく客観的な事実として認識しているだけなのだろう。
そして、厄介なことにその認識が間違っていないからこそ、望の心臓は今現在フルスロットルで稼働しているワケで。
だが、これ以上は危ない。
どんなに強固な理性にも、限界というものが存在する。
望はギリッ、と歯を食い縛った。
「月ヶ瀬ッ!!」
「――っ!?」
ビクッ、と身体を震わせる妃菜。
望の急な大声にビックリしたのだ。
望は呆気にとられる妃菜の身体の力が抜けたことを確認して、上体を起こす。
「頼むから、こんなことしないでくれ。ただでさえ魔法少女として身も心も擦り減らしてるのに、そんな……手段の一つみたいに、自分の身体を粗末に扱わないでくれ……」
頼む、と望は切実に願って妃菜の手を握り込む。
「で、でも……」
「協会には報告しない。約束する」
「ホント……?」
「その代わり、俺とも一つ約束してくれ」
望は妃菜の顔を覗き込んで言う。
「絶対に無茶はせず、もし限界だと感じたらきちんと休むこと。良いな?」
妃菜は望の目を見て、一度斜め下に視線を落とし、再度戻してから曖昧に微笑んだ。
「……うん、わかった」
妃菜の答えを聞いて「よし」と頷いた望は、リビングの壁に掛かっているアナログ時計を見やる。
時刻は既に午後十一時を回っている。
明日は月曜日。
普通に登校しなければいけないので、そろそろ布団に入らなければ寝不足になってしまう。
話を終えたあと、二人は短く「おやすみ」を言い交してから、各々の自室のベッドで目蓋を閉じる。
望は完全に意識が沈み切るまで、妃菜が約束を交わしたときに見せた曖昧な笑みが忘れられなかった――――




