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虚白のキャンバス  作者: ラクスイ
侯爵家編
8/10

八話 魔法の先生 後編

「魔法のきげん?」

「あぁ、そうだ。人間が魔物や魔族のように魔法を使えるようにと編み出された叡智の結晶だ」

 つまり古い魔法ということか。試験で差支えがなければいいが、どうなんだろうか。


「お主、心配そうな顔をしておるな」

「う、うん。試験で上手くできるかな…」

「安心しろ、あくまで適正魔法というだけだ。さっきワタシがやったように、お主も訓練すれば他の属性の魔法も扱えるようになる」

 フィオはパァっと笑顔になった。良かった、他の属性も使えないわけではないようだ。


 二人で話していると何やら屋敷から庭へ走ってくる人影が見えた。三人ほどだろうか。よく見たら先頭を走っているのはマグヌスだ。


「なぁにをしてるんだぁぁ!」


「う、まずいな。お主、恥ずかしいから遠くに行っておれ」

 フィオがその場から逃げるように去っていくと、リューディアがマグヌスに説教されているのが聞こえてきた。

 よく考えれば、何も知らない屋敷の中の人達はさっきの巨大な魔法陣にさぞ驚いたことだろう。このマグヌスの怖い顔を見れば、事前にそのことを伝えていなかったのが丸わかりであった。


「リューディア。もう危険な魔法は使わないでくれ…!高い金を払ったんだから、本当に頼むぞ?」

「う、うむ。分かった…分かったから!そんな怖い顔をするでない!」


 危ないことをしたリューディアが悪いが、たしかにマグヌスの顔は怖かった。絶対に怒らせないようにしよう、とフィオは心の中で誓った。


「き、気を取り直して授業を再開するぞ」

「うん、ところでリューディア先生の…てきせい属性?は何なの?」

 フィオはそれが気になっていた。さっき水魔法を使っていたから、水属性だろうか。


「ほう…気になるか?よかろう。ワタシの適正属性は炎と水だ」


「え?それってアリなの?適正属性が二つもあるのって…凄いよね?」

「凄いにきまっておろう!ワタシ以外に見た事がないからな!ガハハハ!」

 魔法を学び始めてから一時間程度のフィオでもなんとなくわかる。リューディアは恐らく…とんでもなく凄い魔術師だ。さっきマグヌスが高い金を積んだと本音を漏らしていたことから見ても間違いないだろう。なんだか態度も大きいし。


「なんというか、色々脱線してしまったな。授業に戻るぞ。最初にお主が覚えるべきは魔法の三大要素だ」

「三大要素?」

「うむ。魔力操作、魔法陣、詠唱。これらができるようにならんと魔法を発動できん」

 この前ニーナがそんな感じのことを言ってたような気がする。思っていたよりさらに難しそうだ。


「今日の目標は魔力操作のコツを掴むことだ。魔力操作は論理ではなく感覚の領域だから、口で言うより肌で感じた方が早い。ほれ、両手を出してみろ」

「両手を?う、うん」

 リューディアはフィオの両手を握った。傍から見れば仲良く遊んでいるようにしか見えない光景である。


「では今からワタシはお主のどちらかの手に魔力を流し込む。それを感じてみせろ」


「…っ!今左手になんか暖かいのが流れた!」

 少し、ほんの少しだけ暖かい波のようなものを感じた。これが魔力なのか。


「よい、よいぞ。ちゃんと魔力の感覚を覚えたな?では両手から一気に魔力を流し込む。押し返してみせよ」


「わっ!…なんか来た!凄い!」

 奇妙な体験であった。高波に押されるような感覚と、その波が体の中にまで流れていく感覚を同時に感じる。とても押し返せるような勢いではなかった。


「すまん、少し多すぎたか。これでどうだ?」

「ぐ…うんっ…これくらい…なら…!」

「おぉ!よいぞ!押し返されておる!それだ!それが魔力操作だ!」


 フィオは全身から魔力が迸るのを感じた。自分の中にこんなものが流れたいたなんて…なんで今まで気づかなかったんだろうか。

 とにかく、この瞬間フィオの中で新しい感覚が生まれた。視覚や触覚とも違う、何か新たな感覚が。これが魔力を使うということか。


「あっ」


―――バタッ…


 フィオは得体の知れない疲労感に襲われ、その場に崩れ落ちた。

「ここらで終了とするか。お主、今日はもう休め。直に魔力は回復する」

「は、はい!ありがとうございました!」

「うむ。来週の授業まで魔力操作の感覚を忘れるでないぞ?常に体内の魔力を感じ続けるのだ。それを宿題としよう」


 こうしてフィオは初回の授業を一通り終えた。


 その晩、フィオは一通りの授業の成果をマグヌス達に報告した。


「なるほど、ではひとまず順調に授業は終わったんだな?」

「うん!先生も褒めてくれたよ!」

「そうか。なら良しとしよう。リューディアは何か変なことをしてこなかったか?」

「…多分、大丈夫だと思う…」

 変なことはしてなかったとは思う…が、リューディア自身は確実に変人であった。


「え!?リューディアが来てたの?」

 何故かニーナがその話に食いついた。ニーナは家庭教師が誰なのかは知らなかったようだ。

「あぁ。大学に無理を言ってリューディアの時間を作ってもらった。学長を説得するのは本当に骨が折れた」

 マグヌスは苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。


 フィオは全く話についていけずに、怪訝な顔をしていた。

「リューディア先生ってやっぱり凄い人なの?」


「あったりまえじゃん!って、そっか…フィオ君は知らないよね。リューディアは十歳で魔法学校を卒業して、飛び級で帝都大学に入学した神童だよ。今は確か…十六歳で帝都大学の教授をしてるんだよね」

 難しいことは分からないが、やはり凄い魔術師だったようだ。

「その通りだ。それに加えてリューディアは最も有名な呪子(カース)の一人でもある。もちろんポジティブな意味でな」

「えっ…リューディア先生も呪子なの!?」

「そうだ。むしろ彼女を家庭教師に選んだのはそれが理由だ。なにか呪いについての情報を持っているかもしれないだろう?次の授業では呪いのことを相談してみるといい」


 なんと、マグヌスはそこまで考えてくれていたのか。その為にわざわざ無理をしてくれたとは…

「……!ありがとう…マグヌスさん!」

「礼はいい。それより私の事は父上と呼ぶんだ。家の外でボロがでたら困るだろう」

「はい…!父上!」


(…父上もなんだかんだフィオ君の事気に入ってんじゃん)

 ニーナはその様子を微笑んで眺めていた。



◇◆◇◆



 フィオは夕食を食べ終わって、自分の部屋に帰ると机に向かった。実を言うとフィオはこの時間が毎日の楽しみであった。たしかに授業を通して、たくさんの事を学ぶ楽しさを知った。歴史を学ぶことや運動すること、魔法を使うこともどれも新鮮な体験だった。


 でもフィオにとって一番大事なのは絵を描くことである。いつも机の上に置いてある落書き帳を手に取る。何故落書き帳を使っているのかというと、ニーナが同じものを使っていたからだ。

 フィオは別にどこに何を描いたって問題にはならない。どうせ消えてしまうのだから、白いドレスにでも屋敷の壁にでもどこに描いてもいいのだ。

 でもフィオはニーナと同じ道を歩きたかった。


 フィオがなりたいのお金持ちでも凄い魔術師でもなく、ニーナのような最高の画家だから。


 だからフィオは今日も筆をとる。

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