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六話 ニーナ先生の進路指導

「さて、ではフィオ君の進路指導を始めたいと思います!」


 ファルネーゼ侯爵家にやってきた翌日の朝、フィオ達は大広間に集まっていた。ニーナに呼ばれたのはフィオ、ヴァルテル、マグヌス、ローランの四人である。


「ニーナ先生、質問があります!」

「はい!フィオ君!どうぞ!」

「しんろしどう?ってなんですか?」

「…五歳にはちょっと難しい言葉だったかな?簡単に言うと、フィオ君のこれからを決める会議です!」

 なるほど、たしかにそれならわざわざ四人も集めたのは納得だ。


「ニーナ様、私からも質問があります」

「はい!ローランちゃん!どうぞ!」

「…ちゃんって…あ、いや。ニーナ様はなぜ私を呼んだのでしょうか。自分で言うのもなんですが、戦うことしか取り柄のない私がまともな意見を出せるとは思えません」

「いや、戦闘職のローランの意見も大事になってくるはずだからね。安心して会議に参加してくれていいよ」


「では私からも一つ聞こうか」

「え。父上も?じゃあ…どうぞ」

「わざわざ会議を行う必要があるのだろうか?厳しい事を言うが、跡継ぎとして育てるとなれば当然進む道は限られる。私の考えた進路を進めば確実に…」

「あー!ちょっとストップストップ!後でそういう時間はとるから!何となくどんな話か予想つくし…」

「うむ、そうか。流れを止めてすまなかった」


「では私からも」

「あーもう!全然会議が始まんないじゃん!なんなの!?何が聞きたいわけ!?」

「あ…いえ…なんでもございません…」

 ヴァルテルはニーナにギロっと睨まれて急いで口を閉じた。


「じゃあ本題に入るね。今フィオ君は五歳でしょ?だから二年後には帝都の学校に入学する資格を得る。それでどの学校に行くかを決めようって話!」


「え?学校って何個もあるの?」

 フィオは驚き、目を見開いた。フィオは辺境に住んでいた平民の子供であり、帝都の事情など知る由もなかったからだ。それに学校に通える平民などごくわずかであるため、気にしたこともなかったのである。


「そうだよ。帝国には四つの学校があって、その全てが帝都に集まってるの。北の魔法学校、東の防衛学校、西の商業学校、南の総合学校。この四校だね」

 そんなに種類があったとは初耳であった。とても一回聞いただけでは覚えられなさそうだ。


「たくさん種類があるのは分かったけど、僕はどこに行った方がいいのかな?」


「それはフィオ君のやる気と才能次第だね。あ、ちなみに私は魔法学校がいいと思うよ!魔法学校なら君の固有魔術の良い活かし方を見つけられると思うし」

 たしかに良いかもしれない、とフィオが頷こうとしたらローランが話に割り込んできた。


「お言葉ですがニーナ様。フィオ様の固有魔術を活かすとなると防衛学校が最も適しているかと。言葉を選ばずに言うと…アレは人を簡単に殺せる力です。彼は最強に至る可能性を秘めている、と私はあの夜感じたのです」

 思い返してみれば、あの夜ローランはフィオのことを化け物を恐れるような目で見ていた。

 人から殺意を向けられたのは初めてだったので、フィオはあの時のことが忘れようにも忘れられなかった。


「いや、待て。私抜きで話を進めるでない。私の考える進路では商業学校一択だ。そもそも跡継ぎにするためにフィオを養子にしたのだぞ?そんな殺戮マシーンになられても困る。それよりフィオには家を永く存続させる為の経済力を身につけて欲しいのだ」

 マグヌスの言い分は尤もらしいものだった。


 これを皮切りにどんどん議論が白熱していき、フィオはもう誰の言い分を信じていいのか分からなくなってしまっていた。


「皆さん、私から一つ提案が御座います」

 しばらく傍観に徹していたヴァルテルがフィオへ助け舟を出してくれた。

「フィオ様が混乱していらっしゃるようなので、一旦結論を二年後まで保留にしてみてはいかがでしょうか。このままでは平行線ですし」

「…でも、それじゃ間に合わないから今のうちに方針を決めておこうって話だよね?だって入学試験があるんだし」


「え!?し、しけんっ!?試験があるの?」

 フィオは聞きたくない言葉を聞いてしまった。

「そうだよ!だから他の子達は皆入学する前から入学試験の勉強をするんだよ」

 フィオは不安になってきた。もし不合格だったらどうなってしまうのだろうか。


「私はそのやり方だとフィオ様の可能性を潰してしまいかねないと思っています。それはフィオ様の為にもファルネーゼ家の為にもならない。違いますか?」

「……それは…まぁ…」


 悔しい顔をしているが、どうやらヴァルテルの意見に皆納得してしまったようだ。

 見た目に似合わず、なんとも豪胆な男である。使用人という身分であるにも関わらず堂々と主人の前で自分の意見を口に出し、納得させる。ヴァルテルが皆から相当な信頼を得ていることをフィオはこの時感じ取った。


「ではどうする。どんなやり方があるんだ」


「はい。私が提案するのは……」



◇◆◇◆



「いやーヴァルテルは面白いこと考えるね」

 会議の後、フィオはニーナと一緒に庭園のティーセットで昼食を食べていた。


「そうでもありません。結果的にフィオ様とマグヌス様の負担が増えることになってしまいましたし」

 ヴァルテルはフィオのカップに紅茶を淹れながらそう言った。

「だ、大丈夫だよ!僕…頑張るから!」


「まさか全部の学校の試験を受けるなんてね。考えたこともなかったよ」

 そう。ヴァルテルが提案したのは全部の学校の試験を受け、合格した学校の中から改めて選ぶ。というものだった。これは一見すると最もリスクのない作戦に思えるが、実際は真逆だ。

 受験者は全員志望校に合わせた分野の勉強をして、入念に対策するのだ。フィオと競う相手はそういう子達なのであって、決して片手間で勝てる相手ではない。

 それでもヴァルテルはこの案を出したのだ。フィオにとって最善の道を歩けるように、そしてあの場の三人にとって後腐れがなくなるように。


「ただ家庭教師四人はやりすぎじゃない?自分の家だけど、やっぱり貴族の財力ってズルいよね〜」

「フィオ様を四校の入学レベルまで押し上げるには必要な出費とは思いますが…二年間の教育費や四校分の試験費まで考えると、マグヌス様には申し訳ないことをしてしまいました」

「まぁいいんじゃない?元々私っていう娘が一人いるだけの家だったんだし、他所と比べたら教育費なんて有り余ってるでしょ」


 ニーナはこう言っているが、フィオは会議の後にマグヌスが感情を失ったような顔をするところを目撃してしまったのだ。

 フィオの為に相当な額をつぎ込む覚悟を決めてくれたようなので、フィオもそれに応えようと覚悟を決めたのである。


(絶対失敗できない…!もし試験に失敗したら…いや、怖いから考えたくないぃ…!)


 正確には覚悟というより恐怖であったが。


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